第7話 薬草採集
月詠家の朝は、そこまで早くない。
「むにゃぁ…。楓…」
「すぅぅ…」
陽は昇り、時間は正午を回った頃だろう…。
「すやぁ…」
ぎゅぅぅぅぅ!!
「痛い痛い痛い!!」
2人は今、一つのベッドで寝ている。
有咲が楓を抱き着く形で寝ているのだが…。
「ねぇ有咲!?起きて!!苦しいから!!」
「へへへ…」
有咲は、楓を締め付けるように抱き着いている。
「起きてるだろ!?」
「ふふ~ん」
「ねぇ!本当に苦しい!」
「もう…。うるさいなぁ」
「起きてるなら解放してくれない!?」
「むにゃぁ」
「はぁ…」
楓は、諦めたように有咲に語り掛ける。
「有咲」
「すやすや~」
「起きたら、キスをします」
「本当に!?起きる起きる!!」
「…」
「ん~」
有咲は、ベッドから飛び起き、目を瞑りキスを待つ。
「有咲って転生してからキャラ変わったか?」
「早く」
「はい?」
「早くキスをして」
「分かったよ」
ちゅっ
「ふふっ。おはよ楓」
「おはよう有咲。ようやく目を覚ましてくれたか」
「はて?なんのことかな」
2人は、ベッドから降り着替えを始める。
「それで今日は何を着ようかな」
「今日は有咲が決めていいぞ」
「やった!!」
有咲は、クローゼットへ向かい、いくつかの服を手に取る。
「これかなぁ。こっちも良いなぁ」
「俺はどれでも良いぞ」
「ん~。じゃあこれ!!」
有咲は、自分用と楓用の服を手に持つ。
「はい、楓。今日はこれね」
「これって…。学生服か?」
「うん!!」
有咲が手に持っていたのは、ブレザー制服だった。
「私たちって大学で出会ったから、お互いの制服姿って見た事でしょ?。だから2人で制服着てみたいなって思って…」
「いや、良いけど…。俺たちの年齢考えるとな…」
2人の年齢は、25歳である。
学生時代からは、時間がそこそこ経過している。
楓には、この歳になって学生服を着るのは恥ずかしさがあった。
「この世界には知り合いなんている訳ないから、大丈夫でしょ」
「ま、まあ知り合いがいないだけマシか」
「うん。それにコスプレって思えば大丈夫よ」
「まあそういうものか」
「そういうものだよ」
そうして2人は学生服に着替えるのであった。
「それで今日はどうするの?」
「今日は、冒険者ギルドの依頼を受けてみたいと思ってるんだけど良いか?」
「うん。良いよ。せっかく冒険者になったんだし、やってみないとだね」
「だな。飯を食べたらギルドに行くぞ」
「はーい」
昼食を済ませ、2人は冒険者ギルドへ向かう。
ドゴンッ!!ガシャン!!
「うん。これは日常茶飯事なのね」
「これは慣れるしかないんだろうなぁ」
2人の目の前では、初めて冒険者ギルドに来た時と同じ光景が広がっていた。
「それで依頼は、あの掲示板に貼ってあるんだよね?」
「確かそのはず」
乱闘騒ぎを横目に依頼書が貼ってある掲示板に歩みを進める。
「さてさて、どんな依頼があるんだ?」
「なになに~。ゴブリンの群れの討伐。ワイバーンの卵の運搬。薬草採集…」
「何か色々あるな」
「そうだね。エルフのお姉さんにおすすめとか聞いてみる?」
「そうするか」
2人は、冒険者登録をした時のエルフの受付嬢に話かようとすると。
「あっ!!お二人さん!!」
エルフの受付嬢が先に2人に声をかける。
「今日は依頼を受けにいらっしゃたのですか?」
「ああ。そうなんだが…」
「初心者冒険者におすすめの依頼とかあるの?」
「そうですね。やはり薬草採集とかですかね」
「なるほど」
「じゃあ楓。それ受けてみない?」
「そうだな。じゃあ薬草採集の依頼を受けるよ」
「はい!ありがとうございます。こちらが採集した薬草を入れる籠ですので、こちらに入れて採集後は再びこちらに持ってきて下さい」
「分かった」
「うん」
「じゃあ行ってらっしゃいませ~」
2人は、薬草採集の依頼を受ける。
「とりあえず、何かあるかもしれないから武器を取りに帰るぞ」
「えっ?」
「刀と銃が一丁だと心細いだろ」
「まぁそうだけど…」
「せっかく大量の武器があるからな、使わないと損だろ」
「そっか」
「それで何を持っていくの?」
「これかな」
「それってアサルトライフル?」
楓は、アサルトライフルを手に取る。
「確かアサルトライフルは扱いやすいみたいなのは聞いたことあるな」
「そうなの?」
「ああ。大学の講義で、ゲリラ戦での民兵や義勇兵がよくアサルトライフルが使われているのは、特殊な訓練を受けていなくとも扱いやすいからみたいなことを聞いた気がする」
「あぁ~。なんかそんな話もあったかも」
「でもある程度は、魔法でどうにかなるだろ。藍色の弾丸は、追尾するみたいだし」
「確かに。でも、弾切れって概念は流石にあるよね?」
「それに関しては俺も気になったから調べたけど、マガジンの中には何も入ってなかった」
「ふぇ?」
「ほれ」
楓は、拳銃のマガジンを取り出し有咲に見せる。
「本当だ…」
「マガジンは、あくまで俺たちの魔法。虹色の炎を込める為だけのものっぽい感じがする」
「まだまだこの世界は私の知らないことばかりだね」
「だな」
楓は、拳銃をホルスターに入れ、刀を腰にアサルトライフルを肩に掛ける。
「私も同じのが良いかな?」
「うーん。任せる」
「えぇ…」
「いや、転生する前は、お互い普通の会社員だっただろ。銃の知識なんてあるか」
「まぁそっか~。仕方ないなぁ」
「何も仕方ないとは思わないけど…」
「じゃあ私はこれ!!」
「それって…」
有咲が手に取った銃は…。
ショットガンだった。
「それってある程度近づかないと威力ないからな」
「私でもそのくらい分かってるよ」
「それなら良いけど」
「うん!!」
有咲も装備を整え、薬草採集用の籠を持ち、もう一度街に戻る。
「これで準備万端だね!!」
「ああ」
「じゃあ依頼の為に出発~」
「おー」
有咲の掛け声をかけ、楓はそれに応える。
こうして、2人は冒険者家業を始めるのだった。
「というかこの街の外に出るのは初めてだね」
「確かに」
「どんな世界が待ってるのかなぁ」
「楽しみか?」
「うん!。まだちょっと魔物とかは怖いけど、楓と冒険できるのは楽しみ」
「まあ今回は、冒険者家業の一つの依頼をクリアする事だけどな」
「それでもだよ」
「いつかは、ダンジョンとかも行ってみるか」
「そうだね!」
2人は、街の外に出る。
「「うわぁ」」
街の外は、広大な自然が広がっていた。
「つくづくファンタジー世界に来たんだなって思うよね」
「まだ慣れないけどな」
「それでどれが薬草なの?」
「分からん」
2人は、もちろん薬草なんてものは見た事はない。
そもそも、一般人が野草の知識なんて持っていないのである。
「鑑定したら分かるかな?」
「物は試しだな」
「じゃあそれっぽいのを見つけたら鑑定しよっか」
「決まりだな」
薬草を求め、歩みを進める。
「ねぇこれは?」
「鑑定」
『ヤブカラシ』
「ヤブカラシだって」
「つまり?」
「雑草」
「そういう事ね」
「次行くか」
「うん」
再び、捜索にかかる。
「これは何だろうな…。鑑定!」
『カタバミ』
「どうだった?」
「雑草みたい…」
「そうか」
「薬草が生えているエリアとかあるのかなぁ」
「かもしれないな」
「あからさまに薬草!!って感じに生えてないかな~」
「どういう事だよ…」
それから探索を続け、森の中へと進む。
「んぅ~!!。自然を感じるね!!」
「確かにな」
「癒される~」
「もしかしたら、この近辺にあるかもな」
「そうだね!!」
「探してみよ!!」
森の中をさらには探索する。
「あっ!!楓!」
「どうした?」
「これとかそれっぽくない!?」
「えっと…。鑑定」
『薬草』
「いや、分かりやすいけど!!。薬草って薬草って名前かよ!!」
「どうしたの!?」
「有咲も鑑定してみれば分かる」
「う、うん」
楓に続き、有咲も鑑定をする。
『薬草』
「薬草には固有名詞とかないのね!!」
「だろ?」
「まぁ…。分かりやすいのは良いけど…」
「とにかく今は、この薬草を籠に入れるか」
「だね」
2人は、薬草を採集する。
「ねぇ楓」
「なんだ?」
「大体、こういう時って魔物が現れたりするものじゃないの?」
「こういう時に魔物が現れるものかは知らんけど、現れて欲しくは無いなぁ」
「ふふっ。それもそうだね」
「というかあれ…?。これフラグになってないか…?」
「ふぇっ?」
ガサガサ…
どこからか物音が聞こえる。
「ね、ねぇ楓」
「な、なんだ有咲」
「今の音って…」
「気のせいではないだろうな…」
ガサガサッ!!
『グァァァァ!!』
「「ぎゃぁぁぁ!!」」
2人の前に現れたのは、体長が3メートル以上あるクマ型の魔物だった。
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