第6話 射撃訓練
「じゃあ有咲は、安全な所に居ろよ」
「嫌っ」
「えぇ…」
「楓だけ危険な事させないよ」
「とは言ってもな…」
「だから近くで見てる」
「…危ない真似はするなよ」
「危ない事をするのは楓の方でしょ」
ワイルドボアに気づかれないように2人は近づく。
「じゃあとりあえず、この銃の試し打ちも兼ねてあの魔物を倒してみる」
「本当に無茶しないでね」
「分かってる。もう有咲を悲しませるかよ」
「待ってるから」
楓は、ワイルドボアに後ろから忍び寄る。
「このくらいの距離なら大丈夫だろ」
ワイルドボアから数メートル離れたところに立ち、拳銃を構える。
「まずは赤色のマガジンだったな。当たってくれよ」
バンッ!!
乾いた銃声が鳴り響く。
楓が撃った弾丸は赤い軌道を描き、ワイルドボアに向かって放たれる。
『グァァ…』
バタンッ
弾丸はワイルドボアに当たり、そのまま倒れる。
「いや、一撃かよ!?」
「楓ぇ~!!」
「ぐふっ!」
ワイルドボアを倒した楓のもとに、有咲が飛び掛かる。
「怖かったよぉぉ~」
「いや、それ俺の台詞だから」
「また好きな人が居なくなるかと思った」
「もう不幸な目には遭わせないって言っただろ」
「うん」
「絶対にもうあんな目には遭わせないから」
「うん」
「だから泣くなよ」
「うん」
なでなで…。
楓は、有咲の頭を撫でる。
「ふぁぁ」
有咲は、気持ち良さそうに自分の頭を楓の手に擦りつける。
「ははっ」
あまりの光景に、楓は思わず笑みをこぼす。
「ねぇもっと撫でで」
「え?」
「だって楓ったら結婚してから私の頭を撫でてくれなくなったじゃない!!」
「結婚する前もあまりしたことなかったですよね!?」
2人が結婚したのは、24歳の時。
付き合い始めたのは、2人が大学2年生の時だ。
「好きって言って」
「はい!?」
「好きって言ってよ!!」
「い、良いけど。どうしてまた…」
「楓ってあんまり言葉に出さない人だったじゃない」
「まあ恥ずかしいし…」
「でも、楓はこの世界に来てからなんか素直になった気がする」
「ま、まあ後悔はしたくないから…」
「夜の方もなんか気持ち良かったし」
「前の世界では、お互いに忙しくて回数も減ったしな…」
「だから、この世界では私も楓の事をもっと愛したいから」
「そっか」
「絶対に死なないでよ」
「それは、お互い様だ」
有咲は、楓の事を心配で仕方がないのだ。
楓は、好きというのをあまり言葉に出さない男だが、態度や行動で示すような男だ。
それを有咲は、気付いているのだ。
「という事でもっと撫でで」
「分かったよ…」
「あっ待って」
楓は、もう一度有咲の頭を撫でようと手を伸ばすも止められる。
「どうした?」
「私も魔物を倒してみたい」
「まじか」
「まじよ」
「でもな…」
「倒したらもう一回撫でて」
有咲は、楓を説得する。
「分かったよ」
「うん!じゃあ楓は、見ててね!!」
「ああ」
有咲は、先ほどと同じ個体の魔物、ワイルドボアに向けて銃を構える。
「当たってよね…」
バンッ!!
有咲の弾丸は、楓と同様、赤い弾道を描き、ワイルドボアに放たれた。
『グァ…』
バタンッ
撃たれたワイルドボアは、一撃で倒れる。
「やったよ!楓!!」
「ああ、そうみたいだな」
「でもなんか楓と少し違うような…」
「そうか?」
「うん。なんか楓の方が鮮やかな赤色だった」
「パッと見、分からなかったけど、あれかもな。魔力の形を見た時の色の濃さが関係してるかもな」
「そういえばそんなことあったね」
2人は冒険者ギルドで魔力の形を調べた時に、同じ虹の炎だったが、色の濃さが違った。
「多分だけど、関係ない事もないだろうな」
「なるほどね」
「その辺は得意不得意があるっていう認識で良いだろ。俺は、赤色の炎が威力があるけど…」
「私は紫の炎が威力があるって事だよね」
「多分」
「まぁその辺は追い追いってところかな」
「そうだな」
2人の力は、まだ分からないことばかりだ。
「とりあえず、楓」
「ん?」
「私の頭を撫でて」
「はいよ」
なでなで…。
「ふぁぁぁ~」
「可愛い顔してるぞ」
「ふふ~ん」
「まだか?」
「まだまだだよ」
「はいはい」
楓は、有咲の頭を撫で続ける。
「有咲」
「なあに?」
楓は、撫でるのを止める。
「もう少し試したことがあるから、撫でるのは帰ってからで良いか?」
「仕方ないなぁ」
「すまんな」
楓は、撫でるのをやめ、もう一度ワイルドボアに銃を構える。
「それで何をするの?」
「例のパズルの魔法をやってみる」
「あの順番に撃つやつよね?」
「ああ」
家の隠し部屋にあった紙に書いてあることを確かめるべく、弾を放つ。
バンッ!!
『グァ…』
先ほどと同様、ワイルドボアは一撃で倒れる。
「(まずは、赤。そして次は緑だったな)」
赤色のマガジンを外し、緑色のマガジンに取り換え、次の的へと銃を向ける。
バンッ!!
今度は、緑色の弾道を描き、ワイルドボアに当たる。
ドンッ!!
ワイルドボアを一撃で倒すのは同じだが、先ほどとは異なるところがあった。
「魔物に当たったあと、爆発した…?」
緑色の弾がワイルドボアに着弾したと同時に爆発をしたのだった。
「よく分かんないけど、次は橙色だな…」
再びマガジンを入れ替える。
「この色はどんな効果だあるんだ…?」
橙色のマガジンに入れ替え、そのまま次のワイルドボアに向ける。
バンッ
橙色の弾道を描き、そのまま着弾する。
すると…。
ボォォォォォォォ!!
バタンッ…。
ワイルドボアが燃え尽きる。
「橙色は継続ダメージ有りみたいなやつか?」
さらに次の青のマガジンに替える。
バンッ!!
今度の弾は、ワイルドボアを貫き、さらに奥に居たワイルドボアすらも貫いた。
「次は紫か…」
紫のマガジンに入れ替え、引き金を引く。
バンッ!!
紫の弾道は、途中から分裂し、周囲に居たワイルドボアにも同時に当たる。
「範囲攻撃…?」
空かさず、黄色のマガジンに入れ替え、引き金を引く。
バンッ!!
黄色の弾道は、他の弾とは比べ物にならない速度でワイルドボアへ向かう。
「この弾は加速するのか…」
そして、最後の藍色のマガジンに替える。
「最後だ…」
バンッ!!
藍色の弾道は、ワイルドボアに向かう。
しかし、今までの弾とは弾道の動きが明らかに違った。
「追尾しているのか?」
藍色の弾は、直線の弾道というよりか、曲線を描いていた。
バタンッ…。
曲線を描いた弾は、ワイルドボアを追いかけるように当たる。
「なるほどな…」
「なんか凄いね」
「色によって種類や威力が全く違うな」
「うん。楓の弾は暖色系の色の時はやっぱり鮮やかな色してたけど、寒色系の色の時はくすんだ色な気がする」
有咲の指摘は、正しかった。
先ほど撃った弾は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順に威力が高かった。
そして威力が高ければ高いほど、弾を纏っていた色は鮮やかなものだった。
「多分、私はその逆なんだよね。寒色系の方が威力が高いみたいな…」
「そうかもしれん…」
有咲の魔力の形は紫が一番濃く、赤色の一番薄かった。
「さっきの楓の順番が基本的なものよね?」
「あの紙を見ると、そうなんだろうな」
「じゃあ私は、もう一つの枝分かれしていた方をやってみても良い?」
「良いぞ」
「それじゃあやるね」
楓に代わり、次は有咲が銃を構える。
「まずは赤色」
バンッ!!
「そして緑」
バンッ
ここまでは先ほどの楓と特には変わらない。
異なる所と言えば、弾道の色だけだった。
「ここからが分岐よね…。えっと、橙色っと…」
バンッ
「次は、黄色…」
バンッ
「ひとまずは一つ目のルートはこんな感じかな…」
楓がやった基本的なルートよりも確かに威力が上がっていた。
「ついでにもう一つもやってみようかな」
有咲は、再び赤色のマガジンに入れ替え、青、紫、藍色の順番に弾丸を放つ。
「やっぱり寒色系の色の弾は威力あるね」
「みたいだな」
「それに、このルート分岐している方が、基本的なルートを通るよりも心なしか威力が強い気がする」
楓が撃った基本的なルートよりも、有咲が撃った分岐ルートの方が威力が高かった。
「複雑な分、威力も倍増してるって感じだな」
「何かそんな感じがするね」
「この辺の魔物じゃこのくらいが限界だろうな」
「レベル差があるのかな?」
「多分…。まあ俺たちのレベルの正確な数字も分かんないけど」
「それは実戦で確かめるしかないね」
2人は射撃訓練を兼ねた魔物の見学を終え、家へと帰る。
「あっ楓」
「ん?まだ何か試したい事あった?」
「いや…」
「ん?」
有咲は、恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「きょ、今日も優しく抱いて欲しいな…。頭を撫でながらとか…」
「ははっ。可愛いな」
「もうっ!不意打ちはずるい!!」
「それで優しくだったな」
「良いの?」
「俺が有咲のお願いを断ったことがあったか?」
「…無いかも」
「だろ?」
「って事は…?」
「仰せのままに」
今晩も2人は愛を確かめ合う…。
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