第4話 冬の風景

手が悴むような真冬のことだ。

「章くん〜。今日は、桜坂があるよ~。」

朝、梶谷さんにそう言われた。

「桜坂?、お花見ですか?、それともカラオケ?。」

頭の中に、某有名シンガーソングライターのサビ部分が流れつつ、僕はそう答えた。

「違うよ~。福山さんは来やへんよ~。それに、冬に桜は咲かへんて〜。」

梶谷さんは、少しウケながら、説明してくれた。

どうやら、桜坂という場所にある、畑の、農作業の手伝いをやってくれ、ということらしい。

本来は、就労継続支援の仕事なのだが、ワークの一環として、就労移行支援の利用者も、手伝うことが、あるそうだ。

「今日の午後からやで〜。頑張りや~。」

そう言い残し、梶谷さんは、継続支援の方へ向かっていった。

僕も、移行に向かおうとし、持ち物を聞いてなかったな、と、ちょっと悔やむのであった。


「準備はできたかー!?出発するぞー!。」

遠藤さんの、野太い声が、駐車場に響き渡る。

就労継続支援からは2人、轟さんと、梶谷さんだ。

轟さんは、一番在籍歴が長く、体がガッチリした、初老の方だ。

髪の毛に、ところどころ、白い線が入っているものの、ハキハキした動きからは、年齢を感じさせない。

継続支援のリーダー的存在だ。

移行支援からは僕のみだ。

「お願いしまーす!」

扉をそっとしめると、軽快なエンジン音がし、ミニバンが走り出す。

中での世間話も仕事のうち、なのだが、どうにもついていけず、黙ったままになってしまった。

20分ほど走り、密集した住宅街を抜けると、400平方メートル程の空き地にたどり着いた。

「ありがとうございましたー!」

車からおり、軽いミーティングをしたあと、作業開始だ。

「今日は、何をするのですか?」

と、轟さんに尋ねる。

「アアっ!石拾いだよ!」

なんでも、畑には、土や砂だけでなく、意外と瓦礫や、ガラスなども、かなり埋もれているそうなのだ。

そういったものを、可能な限り、取り除き、作物が育ちやすい土を作るのが、冬の仕事だという。

早速取り掛かって見るのは良いものの、慣れない作業ということもあり、真冬にも関わらず、汗だくになってしまう。

轟さんと、梶谷さんは慣れたもので、バケツ一杯に石を入れず、運ぶ回数を多くすることで、効率よく作業していた。

必死に作業しているときに、あることに気づく。

幻聴が、ほとんどしないのだ。

何が原因か、まだわからないが、その時間は、僕をとても、安心させた。

「よーしっ!、そろそろ上がるぞー。」

遠藤さんの声が、聞こえ、僕たちは、車に向かって、歩き出した。

微かに温かな日差しのもと、汗を拭っていると、梶谷さんの声が、聞こえる。

「お〜、章くん見てみ〜。」

何だろうと思って目を向けると、梅の木が、小さな蕾をつけていた。

「福山さんは、呼べんかもしれんけど、コブクロさんなら来てくれるかもな~。」

ニヤニヤしながら、梶谷さんが言う。

ハハハッ、と僕は笑った。

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