パート3

◯クラブ、トイレ・中・夜


勇気が緊張した面持ちで鏡の前で服装を整えている。

トイレの外からはノリのいい音楽が聞こえてきている。

勇気はひとしきり服装を整え終えると、鏡を見ながら大きく深呼吸をする。

 

◯クラブ・中・夜


勇気がトイレから出てくると、20〜30人程の人がフロアに立っている。

フロアにはドリンクを置けるテーブルが6つ程あり、各テーブルの周りを5〜6人の男女が囲んでいる。

どのテーブルも盛り上がっている。

勇気は緊張した面持ちでその光景を見ながら、ポケットから名札を取り出して胸元に付ける。

名札には「ゆうき」と書かれている。

すると、若い女性が勇気の所にやってくる。


係員1「こんにちは〜、楽しんでますかぁ〜??」


勇気はビックリした様子で係員1を見る。


係員1「あ、ごめんなさ〜い、私今回のパーティーの進行を務めます、中崎と申します」


勇気「あ〜、よろしくお願いします」


係員1「いえいえこちらこそです〜、今日はお一人でのご参加ですかぁ〜??」


勇気「あ〜、はい」


係員1「ありがとうございます〜、もうテーブルは見つかりましたかぁ〜??」


勇気「あ、いや、まだです、ちょっとトイレに行ってて」


係員1「承知しました〜、確かにこういう場って緊張しますよね〜、何かお飲み物でも飲まれますかぁ〜??」


勇気「あ、いや、大丈夫です」


係員1「承知しました〜、そうしましたら、今からテーブルにご案内いたしますね〜」


勇気「あ、はい」


係員1「どうぞ〜」


係員1は満面の笑みでテーブルの方に手を差し出しながら歩いて行く。

勇気は相変わらず緊張した面持ちでついて行く。

勇気は端のほうのテーブルに案内される。

テーブル前まで来ると、係員1は満面の笑みで勇気を見る。


係員1「それではこちらのテーブルどうぞ〜」


勇気が顔を強張らせながらテーブルの面子を見ると、二十歳前後の明らかにイケイケな男女6名が一斉に勇気の方を見る。

その様子を見て、係員1は6名の男女の方を見る。


係員1「こちらゆうきさんでぇ〜す。是非一緒に話し上げてくださぁ〜い」


これに対して、6名の男女はそれぞれ作り笑いで頷き、改めて勇気の方を見る。


正木「自分正樹っす、よろしくっす」


勇気「あ、よろしくお願いします」


勇気は固い動きで会釈する。


ジン「自分はジンっす、てかもっとこっち来ちゃってくださいよぉ〜」


ジンは他の5人を見る。


ジン「ねぇ〜?」


他の男女はそれぞれ頷き、もっと近くに来るよう勇気に声をかける。

係員1は満面の笑みで勇気を見てテーブルの方に手を差し出す。


係員1「それではお楽しみくださぁ〜い」


そう言うと、係員1は歩き去って行く。

勇気が相変わらず顔を強張らせながら係員1に会釈していると、


ジン「ゆうきさん、カモーン!」


勇気は明らかにビビっている様子でテーブルに近づく。

すると、隣に立っている美人が声をかけてくれる。


楓「はじめまして、楓です」


勇気「あ、はじめまして」


由香「由香です」


詩織「詩織です」


立て続けに女性陣が勇気に声をかけてくれる。

それに対して勇気はこの上なく固い様子で会釈する。


勇気「あ、はじめまして」


正木「そんで勇気さんは何されてる方なんですか〜??」


勇気「あ〜、えっと〜、いや、う〜ん」


ジン「え?もしかして記憶喪失??」


正木「おいなんだよそれ、ジェイソンボーンかよ」


楓「え?ジェイソンボーン?」


詩織「え、何それ何それ!?」


ジン「え?お前ら知らねーの?映画だよえいが〜」


由香「うち知らな〜い」


詩織「うんあたしも」


ジン「おいちゃんとしよーぜー」


楓「別にいいじゃ〜ん!ジンこそさっきマカロン知らないとか言ってたじゃあん!」


由香「そうだそうだ!」


詩織「なんとか言ってみろ〜」


ジンは口籠る。

全員がジンを見つめる中、


正木「・・・いや何か言えや」


女性陣の間で大爆笑が起こる。

楓がさっきからずっと黙っている勇気を見る。


楓「勇気さんは知ってますよね〜、マカロン」


勇気「あ、はい、甘くて美味しいですよね」


由香と詩織は「うお〜」と言わんばかりの表情をしている。


楓「ですです!ほら〜」


楓はジンに向き直る。


楓「やっぱり皆知ってるじゃ〜ん、ジンがおかしいんだぁ〜」


ジンは飲み物を一口飲んで笑う。


ジン「あ〜、そうかよ」


女性陣の間でまたしても笑いが起こる。


楓「やっと認めたぁ〜、可愛くないなおい!」


由香・詩織「おいおい!」


正木「お前ら楓の応援団かよ、おいおいって」


またしても女性陣の間で大爆笑が起こる。

勇気も話に入れていないながらも合わせるように笑っている。


由香「いや、合いの手だよ合いの手!」


正木「ふ〜ん、勇気さんはどう思う?」


全員の視線が勇気に集まる。


勇気「・・・う〜ん」


勇気は由香のキラキラした笑顔を見る。


勇気「あいのて?ですかね、、、」


由香「イェーイ!」


詩織「うぃー!」


由香と詩織が勇気の方に飲み物のグラスを差し出すが、飲み物がない勇気は困った様子でそれらを見つめた後、恐る恐る両手を拳にして優しく両方のグラスに触れる。


由香・詩織「イェーイ!」


由香と詩織は盛り上がっている様子で笑っている。

勇気もそれを受けて嬉しそうに笑う。


◯同・中・夜 


正木が両手で頭を掴みながら苦い表情をしている。


正木「っあ〜、また勇気そっちの味方かよ〜」


勇気「ごめんねっ」


勇気は楽しそうに笑っている。


楓「はいじゃあ次〜」


詩織「プリンか杏仁豆腐!」


ジン・正木「っあああああ〜」


正木「ムジ〜」


ジン「こういうのばっかだ本当によ〜」


由香「とか言ってさっきからずっと楽しそうじゃない〜」


ジンは一瞬真顔に戻って横を向く。


ジン「・・・るっせ」


由香「もぉ〜何か可愛んだけど〜!」


詩織・楓「いっちゃえいっちゃえ!」


詩織と楓が由香を突っつく。


由香「もうやーめーて!そういうんじゃな~い!」


由香は満更でもなさそうにニコニコしながら2人を押し返す。


ジンはそれを聞きながら顔を少し赤らめている。


正木「っおいジン、お前もその気かぁ!?顔あけーぞ!?」


ジンは拗ねた様子で強めに正木を押す。


ジン「っるせーなマジで」


正木「っおいだから照れんなって!なぁ〜?」


正木は勇気の方を見る。


勇気「うん、そうだよ、由香もここまで言ってんだからさぁ、男見せろやぁ〜」


正木は声を上げて笑いながら勇気を見る。


正木「いいね勇気!」


正木はジンに向き直る。


正木「勇気もそう言ってるしよぉ、はよ行けや〜」


ジンは少し緊張した様子で唾を飲み込み、由香の方に少し顔を向けるが、目線は由香を向いていない。

由香は楓と詩織の間でキャーキャー言いながらその様子を見ている。

勇気も声を出しながらその状況を楽しんでいる。


勇気「お!?お!?」


5人の視線がジンに集まっている。


ジン「・・・おい、ちょっと2階来いよ、」


楓「・・・うん?誰のことかな〜??」


ジンは苛立った様子で舌打ちをする。


ジン「・・・分かってんだろ」


楓「いや〜、そう言われてもね〜」


由香「詩織に言ってるのかも?」


詩織「え!?あたしぃ!?」


ジンは少し焦った様子で、


ジン「由香、」


由香「うん?」


ジン「その、2階、行くぞ」


由香「え~、どうしよっかなぁ~」


ジンが凄い目力で由香を見る。


ジン「おい」


由香「もう、、冗談だよ~、いこ?2かい?」


ジンは少し照れた様子で、


ジン「おう」


ジンはそのまま歩き去っていく。

由香も周りに満面の笑みで手を振りながらジンの後をついていく。


由香「ばいば~い」


2人が抜け、少し沈黙が流れる。

少しすると、楓が周りを少し気にしながら、何かを待っているように正木を上目遣いで見る。

正木は飲み物を一口飲み、そんな楓の様子に気づいた様子でふと笑う。

詩織と勇気はただただ横でそれを見ている。


正木「なんだよ」


楓はまるでおもちゃを買って欲しい子どものように体を揺らしながら正木に何かを言って欲しそうに見つめている。


正木「だからガキかって、どうしたいんだよ」


楓は少し不服そうに口を尖がらせてみせる。


正木「っペンギンか」


正木は余裕そうにふと笑いながら飲み物を一口飲む。


勇気「おい正木も素直じゃねーな!」


すると正木は鋭い眼光で勇気を睨みつける。

勇気はビビった様子で、


勇気「・・・あ、あの、あ、、、、」


正木は数秒程勇気を睨み続けると楓に目線を戻し思いっきりキスをする。

楓はうっとりした様子でそれを受け止め、正木の肩に手を回す。

少しすると正木は顔を離し、楓の目を見る。


正木「ずっとこうされたかったのか」


楓はこの上なくうっとりした表情で正木を見つめている。

正木はふと笑い、軽く楓のおでこを指で押す。


正木「楓ちゃん返事ぃ」


楓は本気で照れた様子でハニカミながら頷く。


楓「・・・うん」


正木はそれを見て笑う。


正木「可愛いかよ」


正木はもう一度軽くキスし、顔を離す。


正木「これからどうしたい?」


楓はこの上なく嬉しそうに照れた様子でハニカム。


楓「え、、、」


正木「俺バカだからさぁ、分かんないんだよね~」


楓は楽しそうに笑う。


楓「もぉ」


楓は軽く正木の胸元を叩く。


楓「ずるい」


楓はこの上なく楽しそうに正木を見ている。

正木はふと笑ってから鋭い眼光で楓を見つめ、あごを掴む。


正木「早く言えよ」


楓はドキっとした様子で正木を見上げている。


正木「ほら、何がしてぇんだって聞いてんだよ」


楓「・・・キ、キスが、キスがしたいです」


正木はそのまま鋭い眼光で見つめた後、顔を緩め、ふと笑い、楓の頭を優しく撫でる。


正木「は~い良くできましたぁ~」


正木は楓に軽くキスをし、優しく彼女を見つめながら手を繋ぐ。


正木「行こっか」


楓はもう完全に正木の虜になっている様子で頷く。


楓「うん」


2人はそのまま勇気と詩織を見もせずに歩き去っていく。


2人が去り、またしばし沈黙が訪れる。

勇気は困惑している様子で下をキョロキョロしている。

少しすると、勇気は覚悟を決めた様子で横を見て、


勇気「なんかあれ凄かったね!」


詩織「・・・うん、そうだね」


詩織はずっと2人が歩いて行った方向を見つめている。

勇気もそっちの方を見てから詩織に目線を戻して笑う。


勇気「あんないきなりキスとかするもんなんだね!いや~ビックリしたわ~」


詩織「うん、そうだね」


勇気「うん!詩織はどうなん?あーやっていきなりキスされるのとかどう?」


詩織「う~ん、あたし結構ありかも~」


勇気「っお、マジで?」


勇気は動揺した様子で詩織を見る。

詩織は先ほどの出来事を回想しているように2人が歩いて行った方向を見つめている。

勇気は動揺した様子で息を吐き出し、再び覚悟を決めた様子で体ごと詩織に向ける。

勇気は依然として2人が歩いて行って方向を見つめている詩織を見つめ、深呼吸をしてから一気に顔を近づける。

その瞬間、瞬時に詩織が顔を遠ざけ、この上なく引いている様子で勇気を睨みつける。


詩織「え、何やってんの?」


勇気は詩織に顔を近づけたまま愕然としている。


勇気「あ、いや、その」


詩織「勘違いしないで!」


詩織は勇気を思いっきり突き飛ばす。

勇気は数歩後ずさる。

他のテーブルの人々が全員静まり返り、詩織と勇気を凝視する。


係員1も少し離れた所でこの光景を見て思わず首を傾げる。


係員1「あれれ?」


勇気はこの上なくビックリした様子で詩織を見ている。

詩織は肩を激しく揺らしながら勇気を睨みつけている。


詩織「あなたはね、論外なの!うちのテーブルに来た瞬間からずーっと論外なの!話に入れてあげたのは、ジンと正木に嫌な女だと思われたくなかったからだからぁ!オメェ、ガチでいらなかったからぁ!!!ずっと邪魔で仕方なかったわ!!!つっまんねーことばっか言いやがってよぉ!!!ジンと正木だってめんどくなってたし、、、そんなオメェが何キスしようとしてんだよぉ!!!きしょすぎんだろぉ!マジでとっとと死んじまえよぉ!!!!」


勇気はあまりのショックに言葉が出てこない。

勇気はただただ口を開けたまま詩織を見つめている。

詩織はこの上なく苛立った様子で勇気を睨みつけ、テーブルから乱暴にバックを取って何かブツブツ言いながら反対方向に歩き去って行く。


少しの間フロア全体に沈黙が流れる。

すると、徐々に会話の声が聞こえ始め、再びフロア全体が話し声と笑い声で溢れてくる。

その間勇気はずっと呆然と立ち尽くしており、途中で目から一滴の涙が零れ落ちる。

誰一人として勇気のテーブルに近づかない。


勇気がチラっと詩織が走った方を見ると、なんとそこに黒人がいる。

黒人の前には詩織がおり、肩を揺らしながら笑っている。

黒人は勇気の視線に気づいた様子で一瞬勇気を見てウィンクをし、すぐに詩織に目線を戻す。

勇気は涙を拭い、怒りが込み上げてきている様子で黒人の方に歩いていく。

黒人はそれに気づき、詩織を見ながら時折勇気の方に目線をやっている。

勇気が黒人の目の前まで来ると、勇気は物凄い叫び声と同時に黒人に殴りかかる。

その瞬間、黒人は詩織を優しく横に移動させ、物凄いスピードとパワーで勇気を殴り倒す。

勇気は地面に投げ倒される。

詩織は驚いた様子で黒人と勇気を交互に見て叫び声を上げる。

黒人はそれを意にも介さず、そのまま勇気に近づき、両手で頭を掴むと、そのまま思いっきり勇気の首を折る。

ボキッ!という凄まじい音と共に勇気は地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。


クラブ内が静寂に包まれる。

 

クラブ内の全ての人間が見守る中、黒人は手の汚れを落とすように手を何回か合わせ、笑顔で詩織を見る。

詩織はひどく衝撃を受けた表情で黒人を見つめている。

黒人は笑顔で詩織と周りにいる男女を見て、


黒人「カレニ、アイワ、オトズレマセン」


黒人は一人で少し笑い、


黒人「Come on everyone!Let's party!」


そう言って黒人が着ているシャツを思いっきり破くと、クラブ内の男女から大歓声が上がる。


クラブ内の男女「イェェェェェェェ!!!!!!コクジーン!!!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Love and Macho Take_Mikuru @Take_Mikuru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ