第7話 握手会



今日は「彗星コモン」の握手会。

「かわいい〜!!」

「もっふもふだ〜♪」

………なのになぜ、私が、着ぐるみ着て、女の子に、囲まれてなきゃ、いけないんだッッッ!!


――遡ること二日前。


「今週末の握手会、朱歌ちゃん来れないかな?」

桜木さんからそんなことを言われた。

「握手会って日曜日、ですよね……確か、大丈夫だったはずです。」

「よかったわ〜。ちょっと人手が足りないのよね。」

ほっ、と安心したように息を吐く桜木さん。

どうしたんだろ? いつもの人がいれば乗り切れるんじゃ………

「ちょっと二人の身の回りを担当していた羽馬はばさんがが虫垂炎ちゅうすいえんで倒れちゃってね〜。それで朱歌ちゃんには外回りじゃなくて、羽馬はばさんの代わりをしてもらうのよ。

時々ときどき手伝ったりはしてたから大丈夫だろうけど………朱歌ちゃん、大丈夫かしら?」

「はい。大丈夫です。」

虫垂炎(虫垂という部分が炎症を起こしていること)か………痛そう……羽馬はばさん、大丈夫かな?

……それにしても、二人の助手、かぁ。大丈夫かな?

ま、できることをするしかないか!

おーしっ! 頑張るぞ〜!


×××


握手会当日。

「めっちゃ晴れてる………」

二人とも飲み物欲しいとか言いそう……

今日は激しいダンスとかは特にないし、ドバーッて汗が出てるわけでもないから経口補水液じゃなくて大丈夫かな? でも、あったかい飲み物はだめだよね。

ん、あの端っこに置かれてるのって、タオルかな。あのタオル、冷やしておいたほうがいいかな? ちょっと聞いてこよう。

「ちょっといいかしら、朱歌ちゃん。」

「あ、桜木さん、あのタオルって冷やしておいた方がいいですかね?」

「え? あ、ええ。ありがとう。本当によく気づくわね。頼もうとしたのに、先を越されちゃった。」

桜木さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに答えてくれた。

私、周りを見たりするの多分得意なんだよね。

「いえ。

冷やしてきますね。」

桜木さんと別れ、タオルを冷やしに行く。あの二人の体調管理も立派な仕事なんだよね。

ひんやりと涼んでいる(ちゃんと仕事もしてるよ、もちろん。)と、「彗星コモン」の二人が通りがかった。

「お、見習いマネちゃんじゃん。」

ゆる〜く声をかけてきたのは文馬もんまくん。青い瞳にコクい髪で毛先に銀色の髪が混じっていて、日光にあたり、キラキラと輝いている。王子様のような格好をして、右胸に銀のリボンをつけている。

「おいけい、こいつの仕事邪魔すんなよ。」

そういったのは桐生きりゅうくん。

文馬くんと同じ青い瞳に、金色の髪。文馬くんと同じような格好だけど、左胸の方にリボンが付いており、リボンの色も金色と違っていた。

ちなみに噂によると、なぜかいつも棒付き飴を常備しているらしい。

「はいはい。星牙は真面目だね〜。

朱歌ちゃんじゃあね〜。」

「………すまん。じゃあな。」

「あっ、はい。」

二人ともが居なくなると、仕事も終わったので桜木さんのところに戻ってくる。

ふぅ、やっと一息つけた………。ずっと動きっぱなしだった気がするよ……。

「朱歌ちゃん、これ、頼んでもいいかしら。」

「はいぃ〜。」

疲れていた私は仕事内容も確認せずに承諾してしまい、現在に至ります。

あの時頼まれたのは、列の整備。でもなぜか着ぐるみでやらなくちゃいけなくて、猫の着ぐるみを着てしています。

この暑い時期に着ぐるみでって……

さっきまで涼しいところにいたせいか、まだあまり汗はかいていませんが、これからめちゃくちゃかくことになりそうです…………

「写真撮って〜!」

「………もふもふ…」

あー、着ぐるみって、あっつい。

でも、がんばろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る