第9話 けじめ


けじめ。


一年半が過ぎた。


二人はその後、近所のスーパーやコンビニでアルバイトをして自分の小遣いを稼ぎ、香奈のお母さんからの小遣いは断らせた。

また、杏樹の店、Non Status(ノン ステータス)でも働き出した。週末に3日ほど、ホール係として働いている。

お店のホステスやホスト、バーテンダーの話術や振る舞い、客のあしらい方等を直接見て学んでいる。

もちろん化粧も、ホステスとしての化粧、クラブとキャバクラとの化粧の違い、ホール係としての化粧と、状況に合わせるテクニックも学んでいる。

Non Status(ノン ステータス)が終わるのが深夜2時。帰りはタクシーで帰ってくる。また、その年の4月から二人は専門学校へ通い始めている。香奈は、トラベルコーディネーターを目指し、唯奈はパティシエを目指すそれぞれの専門学校。学校のある日は、少し辛そうだ。


見違える様に綺麗になった二人。体重も減り、顔も締まり、物腰も柔らかく立ち居振舞いも良くなった。10代の明るさも持っている。

「お前達、ほんとに綺麗になったなぁ~。良く頑張った。偉いなぁ~。」時々、褒めてやる。返してくる笑顔がまた、可愛い。


「なあ、成人式、どうする?……出るか?」二人に聞いてみた。

「……」

「住民票、こっちへ移してるから、向こうの成人式に出るには、前もって連絡していないとダメみたいだぞ。記念品が無いらしい。」

「……記念品なんか要らない。……式にも出なくて良い、、、。でも見返したい、、、」と香奈。

「……うん。私も見返してやりたい、、、あんな家に居たら出来なかった今を、、、」と唯奈。

「当日、会場へ行ってみるか?。その後に唯奈の家にも、、、」

「……」

「朝、こっちで着付けて向かっても良いし、香奈ん家で着付けも良い。着付けは杏樹に頼んでみるよ。」

「……」

「もう少し考えても良いぞ、、、。杏樹だけには予め言っておく。俺から、、、」

「……」

杏樹に電話した。着付けの件を頼んだ。快く引き受けてくれた。「あたしも振袖着て成人式に行くっ!」って言ってた。

そう言えば、俺も杏樹も成人式に行っていない。面白そうだ。紛れてやれっ。

ただ、二人が行かないと言えば無くなる計画だが。


年が明けて、成人式当日。

前日に俺の車で4人で来た。香奈の実家に泊まらせてもらった。

香奈のお父さん、杏樹に会えて大喜び。お母さんは娘二人に大喜び。ほぼ毎月訪ねてきて、変化は判っているとは思うが、また格別らしい。

【家族って良いなぁ~。】雄大、榊家を思い出す。

翌日朝、4時起き。着付け始まる。娘二人を先に着付ける。杏樹も振袖を着る。

化粧は杏樹。二人とも綺麗だ。家の前で写真。俺も杏樹も。

成人式は 10時から、市民ホールで開催される。式典が2時間で、その後ホール前で思い思いの歓談となる見込み。

「いざっ!。出陣!。」

香奈と唯奈。ほぼ中央に陣取る。俺と杏樹は後ろの方に座る。出席する男性陣は必ず杏樹を見て通る。場違いとでも言いそうな雰囲気でもなく、顔が明らかに ニヤついている。

「なあ、杏樹。……あいつら二人、目的は何だと思う?」と雄大。

「……昔の自分への決別でしょうね。……同級生とか家とかじゃなく、、、自分自身への。」

「そうだよな。多分、そうだよな、、、良いのかな?これで、、、」

「そうしないと、何時まで経っても吹っ切れないよあの子達、、、上辺だけ仲直りなんかしてたら、、、死ぬまで引き摺るでしょ。」

「……うん。ケジメだな。……あいつら自身の、、、」

中央に陣取る香奈と唯奈へ話しかける幾つかの女の子達。二人が笑いながら答えるグループと、全く無視するグループに分かれていた。同じ高校の同級生か、別の高校へ行った中学の時の同級生かな、雄大はそう思った。


式典後のホール前広場や隣接する公園内での歓談。

高校毎の集まりが幾つか出来ている。

その中の一つ、咲奈が居た高校の集まり。当時の柔道部監督が中心の10名程度のグループが歓談中。

「ス~、、、フ~、、、、」鼻だけの深呼吸で、意を決したように香奈が歩き出す。


「監督。御無沙汰しています。」軽い会釈の後、年配の男性を睨む香奈。

「え?、、、誰だったっけ、、、こんな美人居たっけか、、、、ねえ、みんな知ってるか?」

「監督、、、宮津です。宮津香奈。」集まりの中の一人が、監督へ告げる。

「えっ!、、、宮津っ?、、、、重量級の?、、、、そうかあ、見違えたなぁ、、、綺麗になったなぁ、、、親御さんはさぞお喜びでしょうなぁ~、、、ガハハハ。」

「すみません、監督。女を捨てろと監督の言われた事は、、、聞けませんでした。」

「え、え~、、、わし、そんな事言ったかあ~?いや~すまんすまん、見る目が無かったな。許せ。ワハハハハハ。」

「女に限らず、人として見る目が無い事が良く分かりました。監督の様な方とは関わる事は避ける必要があると教えて頂けた事、感謝します。」

「な、なに~、、、何を言いに来たんだっ!貴様はっ!」監督の顔と声が険しくなった。

「あれ、そこに居るのは山崎君。」監督をあしらう様にシカトし、話題を変える為、見覚えのある男性へ声を掛ける。

「あ、あ~、、、宮津、、、久しぶり。元気?」

「おかげさまで、、、山崎君のおかげです。男性恐怖症になって、オトコを知らない女になれたのも、練習中に私の股間を弄んでくれたおかげです。」

「お、おい、、、そんな事、みんなの前で言うなよ、、、俺が悪い奴みたいじゃんか、、、、」

「その節のボランティア、、、活かされてますか?」

「ちょっと、何よっ!、、喧嘩売ってんのっ!」

「あら、これはこれは真田 忍さん。大学は楽しいですか?全国大会では名前をお見掛けしませんが、、、」

「チっ、、、柔道は止めたわよ。最初っから大学進学したら止めるつもりだったし、、、」

「へえ~、県大会の決勝進出が必須だったんじゃ無かったんでしたっけ、、、てっきり続けられると思ってました。私は居ても居なくて良かったんだぁ~。」

「何だよ!宮津。何しに来たんだっ、お前はっ!」横から、真太郎が割って入る。

「あら、真太郎さん、お久しぶり、、、良いんですか?私の顔、見てて、、、悪寒がするんじゃなかったの?」

「俺、そんな事、言ってねえし、、、」

「そうね、私じゃ無く紗季さんに言ってたわよね、、、そうそう、皆さんにはお詫びしなくっちゃ、、、

 真太郎さんが言ったのを聞いて、死のうとして屋上に上がって、、、文化祭、中止に追い込んじゃったんですもんね。

 あの時、死んでしまった方がよかったみたい、、、今こうして皆さんを不快な気にさせないだけでも良かったでしょうね。

 じゃ、皆さん、、、、もうお会いする事もなさそうですので、、、、さようなら、、、、永遠に。」

暗く沈んだ空気が流れる。踵を返し遠ざかる香奈。

離れたところで見守る雄大と杏樹、唯奈の元へ辿り着くまでの間に、流れ出る涙。噛み締める唇。不釣り合いな笑顔。

唯奈が歩き出し、香奈の元へ歩み寄る。見つめ合い、頷き合う。微笑み合う。

「これで、お終いにする。」この一言で、香奈の高校生活は終わった。


【学校って、、、こんなんじゃ無い筈だよな、、、】

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女神 やまとやじろべえ @yamatoyajirobe

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