第8話  新しい生活


新しい生活


3月2日、土曜日。香奈のお父さん、お母さんが引っ越し荷物と一緒に二人を連れてきた。

布団や衣類の入った段ボール数個、本、身の回りのもの位なので、1時間も掛らず搬入は済んだ。

お昼まで、持ってきた荷物の整理をした。香奈のお母さんが、ピクニックか運動会の時の様なお弁当を持って来てくれていた。

「大事な娘さん達、お預かりします。間違った事は絶対しません。誓います。」

「よろしくお願いいたします。我々が不甲斐無いばっかりに、、、。」

「そんな事はありません。この状況ではこうするしか無いと思います。」

そんな話をしていた時、玄関のチャイムが鳴った。「ん、誰だ?勧誘か?」

玄関を開けると、そこに杏樹が立っていた。

「ハ~イ、ダーリン。元気?、、、お二人さん、着いた?」と言って、ずかずか入って来た。

リビングに居た4名、見た事もない様な美人の杏樹を見るなり口を開けたまま、固まった。

「……う、美しい、、、どちら様?、、、渡嘉敷さんのお知り合い?」香奈のお父さんが杏樹を見つめたまま尋ねた。

「どうも、初めまして。雄大の永遠の恋人、杏樹ですっ。」と頭を軽く下げた。

「う~ん、そうかも知んない、、、。永遠の恋人と言う事は一生、添い遂げられないからな。」後ろから雄大がツッコミを入れる。

「ハイハイ。腐れ縁ですわねっ。ふ~んだ!」ふくれっ面の杏樹、香奈のお父さん、それを見て更にニヤける。

「杏樹に二人の事、頼んでみたんです。心と体とお化粧と、、、」雄大、説明する。

「よろしくねっ。お二人さん。」杏樹が座っている香奈と唯奈に声を掛けると、

「……ハイっ!。よろしくお願いしますっ!」と二人は満面の笑顔で答えた、そして顔を見合わせ、「やった~!」

「あ、おいしそうなお弁当。あたしも頂いて良いかしら?」テーブルの上に並べられた手作り弁当を見て、杏樹。

「どうぞ、どうぞ。お口に会いますかどうか、、、」香奈のお母さんはそう言うと、席を立ち、台所でお茶を準備してくれた。


杏樹の店の事、着ている服の事、化粧品の事、化粧方法の事で女性陣は話に花が咲いていた。

香奈のお父さんは顔が緩んだまま、杏樹を見ている。

話がひと段落した頃を見計らい、杏樹が言った。

「お二人さん、ちょっと立ってみてくれるかな?」

香奈と唯奈がその場で立つと、杏樹は香奈の後ろに回り、首筋、肩、背中、脇腹、腰、左右の太もも、ふくらはぎと、触りながら確かめていった。

「うん。」と頷き、続いて唯奈を同様に確かめる。

「……二人とも、元々は細かったのね。骨も太くないわ。うちのお店の娘に負けない位になれると思うわよ。」と杏樹が言うと、

「ホントですかっ?。嬉しいっ!。」二人、大喜び。

杏樹、微笑みながら目を閉じ大きく頷く。

「まずは、室内でストレッチ、ペットボトルダンベルで腕、背中、肩まわりのシェイプアップ。外のお散歩で腰、足、ふくらはぎねっ。」

「ハイ。頑張りますっ!」

「食事はバランス良く、お腹半分で満足するようにゆっくりと、お茶を飲みながら食べてね。後は制限なし。おやつも半分ならOKよ。

 散歩は張り切って歩かない事。つま先で蹴らない事に注意して。つま先で蹴ると、ふくらはぎが太くなっちゃうからね。

 ストレッチやペットボトルダンベルの方法はこのDVDを見てやってみて。」杏樹、鞄の中からDVDを取出して渡した。

「そのDVD、売り物?」雄大が聞くと、

「モデルはあたし。事務所で悠ちゃんに撮って貰ったの。……売ったげるわよ。モザイク無しよ。3万でどお?」

「う、、、要らねえよっ。深田Aみなら欲しい、、、」

「ハハハっ、またそんなの見て!、あたしなら生で見れるのに~」

「未成年の前で、そんな事言わないでください。恥ずかしい、、、」

「仕込みはあんたでしょうがっ!。もぉ~」

雄大と杏樹の夫婦漫才。他の4人はあっけにとられてる。


香奈の両親が帰って行った。何度も頭を下げながら。食費だと言って5万円、置いていった。二人に渡す。

杏樹もお店があるからと言って帰った。


3人の共同生活が始まった。


二人用にテレビとBrayレコーダーを新たに購入した。

「しばらくは身体創りと食事作りを頼めるか?。晩御飯だけで良い。」

「はい。掃除もします。」唯奈が言う。「洗濯もします。何でもします。」香奈が言う。

「俺の部屋の掃除はいい。洗濯も自分の物は自分でするからいい。」

「……部屋に何かあるんですか?、、、見ない様にしますけど、、、」香奈がニヤニヤしながら聞いてきた。

「何も無い。断じてDVDなど無い。ましてや深田AみのDVDとかは無い。」と雄大。

「……時々、貸してください。」と唯奈。「将来の為に勉強しておきたいので、、、」と香奈。

「貸してやるとは言わないでおく。……イヤ、そんな物は無い。断じて無い。無いものは貸せない。」

「判りました、、、。」笑いながら二人、良い返事で返す。二人、顔を見合わせ頷く。


朝、雄大が出かけると午前中は掃除、洗濯、ストレッチやペットボトルダンベルを行う。

午後、散歩をする。暑くなってくればストレッチと入れ替える予定。

夕方、食事の支度を始める。メインの料理とスープなどのサイドを日々、交代で作る様にしてみた。

レシピはスマホで検索し、散歩の後に買い物をして帰る。

週1回、香奈と唯奈は化粧を教わる為、杏樹の事務所に行く。帰りはショップを見て回った。


月に一度位、香奈のお父さんとお母さんが訪ねてくる。

野菜、果物、お菓子、家賃応援5万と、食費だと言って5万。二人にバイトを始めさせていないので有難く頂戴する。

二人には別にお小遣いを渡している様だ。早めにアルバイトをさせよう。


雄大の帰りが早くなった。帰るのが楽しみになった。

【あの二人のお陰で今、充実している。

 女に逃げられてしまったが、女子高校生二人、あの二人には救われてる、、、いい女にしてやりたい。

 直接、何かしてやれる事は無い。杏樹に任せる。……二人に手は出せない。約束した。……守ってやりたい、、、。】

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