第6話 女の子として



女の子として


唯奈が落ち着いた頃、香奈が話し始めた。


「あたし、柔道部でね。お父さんも柔道してて、高校に入ったら柔道部に入って、、、その頃はあまり太ってなかったの、、、

 監督が来てあたしに言ったの。「体重を20キロ以上増やせ。重量級へ移れ」って、その頃、57キロ級で、、、78キロ超級へ行けって、、、」

香奈、唇を噛み締め悔しそうに、俯く。す~っと息を吸うと、

「後で聞いた話、同じ57キロ級に県のお偉いさんの孫がいて、その子が「うちは重量級を厚くしないと県代表には無理。宮津さんが重量級なら」って、監督に言ったって、、、」

「でも、あたし、必要とされるならって、、、食べて、太って、体重増やして、3年の夏の大会を目標に頑張ったの、、、。」

香奈の目に涙がうっすらと滲み始めた。

「あたしの組手の練習相手は男の子なの、、、78キロ超級は私、一人だったから、、、いっぱい触られた、、、胸なんかしょっちゅうで。お尻やお腹は掴まれるし、、、。

 この夏の大会前のときなんか、、、寝技の時、大事な所を、、、わざと手を、、、」

流れる涙を拭おうともせず、香奈は話し続けた。

「やめてくださいって、大きな声を出して、突飛ばしたら、、、山崎君は、、、組手の相手の山崎君は、、、

「……なんだよぉ~。いっちょ前に恥ずかしがりやがって、、、お前には男出来ねえだろうから、触ってやったのによぉ。」って、、、

 恥ずかしくって、、、悔しくって、、、情けなくって、、、道場からトイレに逃げようとしたの、、、そしたら、出口に居た監督が、、、

「宮津っ!、女を捨てろっ!。ちょっと触られた位で、いちいち動揺するなぁっ!そんなもん、お前には求めとらんわっ!」って。

 みんな、笑ってた、、、。男の子も女の子も、、、みんな、、、」

唇を噛み締め、しばらく俯く香奈。

「ひとしきり泣いて、道場へ戻ろうとした時、ドアの外で山崎君が誰かと話してて、、、ボランティアとして触ってやったんだぜぇ。って、

 あいつじゃ、誰も触んないだろうからさ。ありがとうって言って貰っても良いんじゃねえ?って、、、聞こえて、、、

 鞄と制服持って、家まで走って帰って、泣いて、、、それでも大会があるからって、次の日も学校行って、、、

そしたら、中量級の忍って子が言うの。

「香奈。判ってるでしょ、今度の大会は凄く大切だって。上に行けば大学のスカウトだってたくさん来るんだからね!」って。

そう、私を重量級へって言った子。……スポーツ推薦、欲しかったみたい、、、」


「大会の日、個人戦で足首を痛めて、テーピングして団体戦へ廻って、3人戦で、準決勝で、1勝1敗で私になって、、、

 対戦相手も足、痛めてて、、、監督から、その足を攻めろって、お前の足はどうでも良いって、、、

 勝負からしたら、痛めた足を攻めて勝てば良いんだろうけど、、、勝負士の前に人で在りたいって思っちゃって、、、

 攻め切れないで、、、自分の足も痛くて、、、負けちゃって、、、でも時間一杯戦えたし、、、悔いは無いと思って、、、

 ……やっぱり、監督から怒られた、、、このクズがって、、、忍からも、どうしてくれんのって、、、忍自身が勝ってりゃ決勝行けてたのに、私のせいにするの、、、」

雄大、どう声を掛けて良いか分からない。口を堅く閉じ、黙るしかない。


「柔道部を引退して、文化祭の準備が始まって、前日に教室の飾りつけしてたのね。ライブ喫茶するんで、、、

 同じクラスで剣道部の岡島慎太郎君と一緒に、窓に暗幕を貼ってる時のね、、、軽い気持ちで告ったんだ、、、。ずっと好きだったんだって、、、

 同じ武道場で隣同士で見てたから、、、返事とか要らないし、、、何かして欲しい訳じゃないから、、、言っておかないと後悔すると思って、、、

 そしたら、真太郎君、「聞かなかった事にする」って言って凄く嫌そうな顔をしたの、、、で、どっか行っちゃって、、、。

 ガムテープが無くなったから、職員室へ貰いに行った帰り、数学準部室に真太郎君が居たの、紗季と一緒に、、、

 紗季に真太郎君、言ってた、、、悪寒がしたって、、、吐きそうになったって、、、あれで好きだったって言われても俺、農学部行って獣医になるつもりねぇ~し。って、、、。

 紗季が「そんな事、直接言っちゃだめよぉ~、あれでも生物学的にはメス、違った女の子だから、、、て。

 二人で笑ってた、、、。大きな声で笑ってた、、、。目の前、真っ白になっちゃった、、、」


「……クッソー!」俺の怒りは頂点に達した。しかし、怒りをぶつける所が無い。拳で自分の太ももを叩いた。何度も、何度も。


「……いつの間にか、、、走って、階段上がってて、屋上に出て、金網まで走って、よじ登ろうとしたら、、、唯奈が足にしがみついていたの、、、」


そこまで黙って聞いていた唯奈が、泣くのを我慢した様に話始めた。

「香奈にしがみついたの、もう、必死でしがみついたの、、、廊下を走っている香奈に声掛けたけど、、、屋上に出た時、ダメって、、、絶対、ダメって、、、叫んだの、、、 

 一人で死ぬなんて、卑怯だよぉ~って、、、死ぬときは一緒って言ったじゃんかぁ~って、、、、」


涙が止まらない。大の男が声をあげて泣いている。女に逃げられたなんて情けない程、小さな事だ。

この子達の為に、俺は何が出来るんだっ!。一体、何が出来るんだっ!


「二人して抱き合って泣いて、、、先生たちが来て、学校から帰って、、、2週間休んで。

 学校からお母さんへ電話あったみたい、、、。飛び降りようとした事。……

 携帯見たら動画も上がってた、、、。金網に私、、、私の足に唯奈、、、 コメントに、落ちねえのかよ、とか、ミンチになれよとか、、、つまんねえなとか、

 学校や私の名前も載ってた、、、屋上から撮られてたから、生徒だよね、、、」


「クズしか居ねえのかよっ!。クズしか入れないのかよっ!入ってからクズになるのかよっ!」雄大、怒り、呆れ、復讐心、ごちゃ混ぜ。


「……学校行かない間にYouTubeであの人の歌を聞いたの、、、。”今に見てろよ”って歌、、、。

 で、遊びに来て、渡嘉ちゃんさんの足、ふんじゃったの、、、。」香奈が力なく笑う。ようやく笑う。痛々しくて見てられない。


「……言いたい事はまだ、たくさんあるんだろうな、、、今日はもう良いよ、、、シャワー浴びて寝よっ。明日、送って行ってやっからよっ。」

雄大はそう二人に告げた。自分の限界が来ていた。

「先に、シャワー浴びるぞ、、、覗くなよ。……そんな気分じゃねえか、、、ハハハっ」バスルームへと向かう。

聞き疲れた。何年分の涙と怒りが出て来たんだろう。一生分かも知れない。

それから、二人を部屋へ移動させ、、、、、寝た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る