第4話 逃げ場所


 逃げ場所


あれから2週間、雄大の携帯にメッセージが届く。

”この前はごめんなさい

 相談てゆうかお願いがあります

 二人 土曜日行って良いですか

 また、泊めてください”


返信した。

”親の了解を取ったら泊めてやる

 内緒なら来るな

 犯罪者にはなりたくない

 了解を得られたら連絡してこい

 俺のプロフィール 教えてやる

 それを親に見せろ

 それでも良ければ来ても良い”


【親の了解なんて貰える訳ねえだろ。嘘ついて了解得たつっても親には見せねえだろうが、、、 ハードル高くしておけば諦めるだろ、、、】


翌日、見知らぬ電話番号からメッセージが届く。Subjectが『お願いします。話を聞いてやってください』

香奈の母親だった。驚いた。

二人とはいえ若い娘が、しかも高校生が、男性の部屋へ来る事を承諾し、依頼してきている。

”宮津香奈の母、幸子と申します。

 渡嘉敷様、非礼な事と承知しつつお願いいたします

 二人の話を聞いてやってください

 親には言えない事も有ろうかと存じます

 このままでは二人とも抜け出せずに最悪の事態に成り兼ねません

 胸の内を全て吐き出せれば一歩踏み出せると思います

 無責任な親と罵って下さっても結構です

 何卒、お願いいたします。”

【何だこりゃっ!、、、親にも手に負えない事か?、、、俺にも無理だって判るだろうに、、

生きてて良かったってのが気掛かりだったとは言え、どうする、、、さあ、どうする、、、】

メッセージを返した。

”渡嘉敷です

 聞くだけで良ければ聞きます

 それ以上は俺では無理です

 娘さんとは常に連絡取れる様にしておいてください

 土曜日 来て頂いても構いません

 無事に送り届けますのでご安心ください

 それでよろしければお待ちしております”

”渡嘉敷 雄大 33歳 カノンリース㈱東京東営業所勤務

 住所 足立区綾瀬********* ”


土曜日の朝、10時ごろ来ると言うメッセージが香奈から来た


その土曜日の朝、9時45分。玄関のチャイムが鳴る。

ドアを開けると、あの二人と年配の女性が立っていた。

「初めまして、宮津香奈の母、幸子でございます。この度は大変ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。

 本来なら、父親も同行すればよろしかったのですが、生憎の当番日になっておりまして、私一人でお伺いさせて頂きました。

 これはつまらぬものですが、お口汚しにお納めくださいませ。

 それでは、渡嘉敷様、よろしくお願いいたします。話を聞いてやってください。」

「さあ、あなた達もお願いしなさい。」香奈と唯奈に顔を向け、催促する。

「明日はお送り頂けるとお聞きいたしましたが、ご都合の宜しい時で構いませんのでご連絡頂ければ迎えに参上いたしますのでご遠慮なくお申し付けください。」

機銃掃射の様なトークが炸裂し続ける中、あっけにとられて返す言葉を失いながら手土産を受け取り、礼をするのが精一杯だった。

母、幸子が帰って行く。

「……まあ、中に入れ。……疲れた。」

「ごめんなさい、、、」香奈が申し訳なさそうに謝って来た。

「いいよ、いいよ。親の同意を取れって言ったのは俺だ。自分で蒔いた種ってやつだ。ハハハ」力の無い愛想笑いをした。


宮津香奈の母、幸子が言いたい事だけ言って逃げる様に帰って行った事に関し、雄大は何となく判る様な気がした。

本来なら、子供の事は親が引き受けるべきだが、踏み込めない聖域がある。同級生やその親などはその聖域に近い。

学校内でのイジメは非常にナイーブな問題。子供の性格は親に似る。子供を加害者とすると、その親も同罪。

イジメの認識が有るか無いか、無いと言い張れば無罪か。嘘をつけばやり過ごせるのか。遊びのつもりと言えば免罪符か。

被害者の心の強さ弱さに焦点は当てられない。見て見ぬ振りは罪か。一緒に笑わないと次のターゲットか。

親や子供は不可侵の聖域としなければ、加害者も被害者も、周りのモブも、そこでは生きていけない。

最悪の事態になったとしても、感情の矛先は常に学校や行政へとすり替えざるを得ない。悪魔の役割をしてくれと。

根本的な解決策は無いのかも知れない。ならば、逃げるしかない。親として、そのルートを子に示したい。

赤の他人に縋る気持ちも判る。


今、”俺”を「逃げられるルート」として頼ってきている。


応えてやろうじゃないか!


「……コーヒーでも飲むか、、、。ちょっと待ってろ。今、淹れる。インスタントだけどな。」

二人はソファーに腰掛け、黙り込んでいる。ただ、この前の別れ際の様な悲痛な表情では無く、申し訳なさそうに俺を見ている。

コーヒーカップが無い。キャンプ用のマグカップを二つ出し、それに注ぎ、テーブルの上に置いた。

手土産で貰った手提げ袋を覗いてみた。菓子箱の横に封筒がある。取り出してみたら中に3万円入っていた。

「……なんだ?。宿代か?、気ぃ使わなくても良かったのに、、、。そうだ!」

雄大、二人を見ながら

「遊びに行こう!まだ午前中だ。今から暗い話をしてもその後が辛い。夜に聞いても良いか?とことん付き合うから!

 何処に行きたい?行きたいとこあるか?」

二人の顔がパッと明るくなった。ライブで出会った時の様に。

「……お台場っ!。あそこなら室内遊園地があるし、野外ステージで何かやってるかも。」と唯奈。

「うん!。行きたい。お台場!」香奈も続けて賛同。

「よしっ!行こう!……軍資金は今、貰った! コーヒーを飲んだら、出発だ!良いか、野郎ども!」

「ハイっ!……一応、乙女ですけど、了解しました!お頭っ!」二人、右手を額の横に着け、敬礼。


お台場の室内遊園地で遊び、観覧車に乗り、良く知らないラップグループのライブを見た。

はしゃいでる。明るい笑顔で二人して笑ってる。

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