嘘つかなくていい

「子供がかけてきちゃったんだって!ずっと、奥さんや子供の声が聞こえてた。Aチューブ見てたのかな?ハハハ」


「愛ちゃん、無理して笑わないで」


十夢は、私をギューって抱き締めてきた。


「辛いなら、辛いって言っていいんだよ!俺には、嘘つかなくていい」


「辛いよ、十夢。だってね、純ね。奥さんとは、あんまり仲良くないよって言うんだよ。なのにね、妊娠するんだよ。それで、今だって仲良かったよ」


「純さんは、嘘つきだね」


十夢は、そう言って私をさらに抱き締めてくれた。


「本当の事、教えて」


「何を?」


「7年前の記念日と私の誕生日に、どうして十夢がやってきたのか…。本当の事を話してくれない?」


「今さら知ってどうするの?」


「今さらでも、純と別れる材料にはなるから…」


十夢は、私のおでこにおでこをくっつけた。


「わかった!お風呂から上がったら話すよ」


「うん」


私は、十夢から離れて洗面台の棚からシャンプーを取った。


「ごめんね!かえるの忘れてたから…」


「こっちこそ、ごめん。声かけて」


「ううん」


十夢は、シャンプーボトルをお風呂場に置いた。


「これ、バスタオル」


「ありがとう」


「ゆっくり入って」


「うん」


私は、キッチンに戻ってお皿を洗う。


【パパァー、パパ】って声が、頭の中をグルグルと駆け巡ってる。


純の嘘つき、純の嘘つき、純の嘘つき


お皿を洗いながら、涙がボロボロ溢れてくる。


十夢は、7年前あの場所に来た事を一度も教えてくれなかった。


「上がったよ」


十夢は、泣いてる私の隣にやってきた。


「十夢」


「何?」


「来月、旅行に行くって」


「うん」


「十夢と三人で行くって」


「うん」


「十夢は、違う場所に泊まるって」


「そっか」


「でも、もし同じ場所に泊まったら…。私」


「抱かれちゃう?」


「十夢が隣に寝かせられてたらどうしたらいいの?」


「大丈夫、その時に考えよう」


十夢は、私の涙を拭ってくれる。


絶対に、十夢を傷つけたくない。


でも、さっきの声が十夢だってわかられたら…。


お皿を洗い終えた。


「お風呂、入ってくる?」


「沸かしてくる」


私は、お風呂を沸かしに行く。

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