突然の電話

「お風呂沸かすね」


「うん」


私は、十夢の為にお風呂を沸かしに行った。


純への罪悪感は、少なからずあったけど…。


それよりも、十夢が純に、何かされないかだけが心配だった。


「お風呂、沸かしたから」


「ありがとう」


「お水、はい」


「ありがとう」


十夢は、ずっとニコニコ笑っていた。


「十夢」


「何?」


「純に何かされたりしない?」


「大丈夫だとは、思うけど」


「それなら、いいんだけど…。凄く、心配なの」


「大丈夫だよ!愛ちゃん」


十夢は、そう言って、私の手を握りしめてくれた。


【お風呂が沸きました♪】


そう言って、お風呂が沸いた。


「じゃあ、入ってくるね」


「うん」


十夢が、お風呂に入って…。


私は、お皿を洗っていた。


【愛してる、愛してる、愛してよ♪】


さっき、業務連絡で切ったのに純からかかってきた。


私は、手を洗って拭いて電話に出る。


「もしもし」


『パパー』


『待って!パパ、早姫さき掴まえて』


何、これ?


『早姫、ママと風呂だろ?』


『はーい』


姫希ひめきもスマホ持ってないで風呂』


『はーい』


声が、近づいてきた。


『パパ、呼んだら乾かしてね』


『わかった』


子供と奥さんの声が止んだ。


『もしもし、愛?ごめん、娘が掛けたみたい』


娘が、かけた?


『愛、聞いてる?』


「愛ちゃん、シャンプー空だよ」


ゴトッ、テーブルにスマホを落とした。


十夢は、慌てて口を押さえていた。


まだ、服を着たままの十夢は、ごめんって手を合わせていた。


『愛、聞いてる?』


「もしもし、ごめん」


『今の何?』


自分の事を棚にあげて、純はよく言える。


「あっ、テレビだよ。何だっけシャンプーのCM」


『愛ちゃん何かいうCMあった?』


どこまで、耳がいいの。


「あっ、結愛ちゃんが来てるから、ごめん切るね」


『結愛ちゃんって、声低いんだな』


「か、風邪で喉潰したらしいよ」


『そっか!』


『パパ、あがるよ』


『ごめん、またかけるわ』


プー、プー、プー


「ごめんね、電話してるって知らなくて」


「ううん」


私は、洗面所に行った。


「愛ちゃん、泣いてる?」


十夢に、腕を掴まれた。

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