ハンバーグ

「あっ!ハンバーグ作るね」


十夢が、離れた。


「あの日」


「うん?」


「あの日、現れたのが十夢でよかったって思ってるよ」


私は、涙を拭って笑った。


十夢は、玉ねぎをお肉に混ぜて卵とパン粉を混ぜてる。


「何でかな?今頃、玉ねぎが目に染みてる」


そう言いながら、こねてる。


「十夢、時間が少し欲しい」


「いいよ!別に」


十夢は、ハンバーグを成形してる。


「その為に、十夢とこうやって過ごす時間をくれませんか?」


ハンバーグをフライパンに並べ終わった十夢は、私を見つめて「はい」っと言ってくれた。


嬉しくて、涙が流れた。


十夢は、ハンバーグを焼いてくれる。


「お米は、炊く?」


「うん、炊く」


私は、お米を炊いた。


「純さんを好きなままでいいから!愛ちゃん」


十夢は、そう言って隣で笑ってる。


「お家、決めなきゃ!」


「愛の巣ってやつ?」


「うん」


「純さんとの家に住んじゃったら、こんな風に会えなくなっちゃうね」


「十夢」


十夢は、悲しそうに目を伏せてハンバーグをひっくり返して蓋をしていた。


「まだ、決めないから」


「うん」


十夢との日々を重ねて行きたい。


そして、答えを決めたいと思った。


「少し、弱火で置くよ」


「うん」


「愛ちゃんは、純さんとの日々は幸せ?」


「窓開けるね」


「話、そらさないで」


十夢に腕を掴まれた。


「愛ちゃんは、幸せ?」


その言葉に、うんって頷けなかった。


「どんだけ頑張っても、純さんは愛ちゃんの所にいないもんね」


十夢の言葉に、泣いていた。


わかってる、気づいてる。


どれだけ、肌を重ねても、キスをしても、純が帰るのは妻の場所…。


「意地悪しないでよ」


「意地悪じゃない。本当の事を言ってるんだよ」


「十夢」


「いつだって、愛ちゃんの傍にいたのは俺だよ。俺は、純さんみたいに物凄くお金持ちじゃない。だけど、愛ちゃんの傍にはいれる」


「わかってる」


「ごめん、焦ってるよね。俺…。馬鹿だな」


十夢は、そう言うと腕を離してハンバーグを見に行った。


「いい感じだよ!お米も炊けるね」


十夢は、そう言って笑っている。


私は、それを見つめていた。



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