またね

朝御飯を食べ終わると、十夢はお皿を流しに下げに行く。


「仕事でしょ?行って」


「ごめん!また、来るね」


ギュッと抱き締められた。


「うん、気をつけてね」


「ありがとう」


頭をポンポンとされた。


「いつでも、連絡してね」


「わかった」


私は、十夢に手を振った。


付き合ってるみたい。


私は、鍵を閉めて流しでお皿を洗う。


鳥籠の中でしか会えない純と違って、十夢とは堂々と手を繋げる。


こうやって、朝までいれる。


十夢は、私と純がした後のタオルを捨てながら何を思っていたのかな?


【愛してる、愛してる、愛してよ♪】


JELLYの曲が流れた、一発で純だってわかった。


手を洗って、タオルで拭いて

電話に出た。


「もしもし」


『何してる?』


「朝御飯食べて、お皿洗ってた!純は?」


『マネージャーが迎えにきて帰るとこ』


「気をつけてね」


『愛』


「何?」


『来月の纏まった休みは、約束通りお泊まり出来るから』


「うん」


『付き合って10年目だろ?ちゃんとしたい』


「わかった、楽しみにしてるね」


『うん、愛してるよ』


「私も、愛してるよ」


プー、プー


純は、初めて出会った時からズルい人だった。


何度も、嘘をつかれた。


一年目の記念日は、泊まれるからと言われていたのに奥さんが悪阻が酷くて無理だと帰っていった。


二年目の記念日は、泊まれるからと言われたのに、娘が熱が出たからと帰っていった。


三年目の記念日は、泊まれるからと言ったのに、妻が体調が悪いと帰っていった。


そして、十夢が現れた。


もう、ホテルも用意されていた。


一人で、こんな広い部屋に泊まるのかと思ったら十夢がやってきたのだった。


私は、またお皿を洗った。


十夢は、いつだって呼び出されては、私のお守りを引き受けてくれた。


嫌な顔、一つせずにやってきてくれた。


私、幸せだったのかな?


この10年間、幸せだったのかな?


私は、お皿を洗い終わった。


洗面所に行って、洗濯を回す。


十夢が、使った歯ブラシ。


捨てようと思ったけど、歯ブラシ立てに置いた。


十夢は、また来てくれると思ったから…。

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