第7話 試験

 冒険者ギルドに着くと、クレインはため息を付きながらシアにタグを渡してきた。

 そこには、

「S級冒険者、シア・ペルサス」

と刻印がしてあった。

「S級って……」

 驚くシアにクレインは、

「いいか。おそらくお前は必ずロシアン帝国に狙われる。だが、子供とはいえS級冒険者なら簡単には殺そうとしないだろう。冒険者ギルドがうるさいからな。シアは戦闘力には何の問題もない。あとは冒険者としての常識を今日から身に着けろ」

 そう言うと、一人の女性を呼び寄せた。

「シア君ですね。これからシア君の専属職員になるクレアです。よろしくお願いします」

 挨拶を終えると、クレアはシアを連れて机のある部屋に入ると本を渡してから講義をはじめてくれた。それは冒険者ギルドの歴史、冒険者の権利と義務。素材の取り方、換金の方法、依頼の受け方、報告の仕方、ランク制度……など多岐にわたったのだった。

 そして、学校の入学試験を受ける日までクレアの講義は続いたのである。


 入学試験の当日、コールマン伯爵が後見人として学校まで着いてきてくれた。

 この国の名はフライブルク王国といい、王都はフリージアという。

 学校の名前も王都の名にちなみ、フリージア学園とされていた。

 フリージア学園では貴賤の区別なく教育を受けさせるために、王族も貴族も平民も同じ試験を受けることになっていた。一応クレアに教えてはもらったが、試験というものがよくわからないシアは、周りの受験生が緊張する中でも気楽にしていた。

「クレアさんから学科の実力も相当だと聞いている。緊張せずにリラックスして受けてきなさい」

 そう言って、コールマン伯爵は送り出してくれた。


 午前中は学科である。試験場に入場した順番に誘導に従って着席すると、九時から試験が始まった。試験にはフライブルク王国の歴史のようシアが全く知らないことも出題されたが、得意な数学や魔法理論などでは問題そのものにミスを発見し、修正してから回答するなど、およそ3時間の試験中に実力を遺憾なく発揮していた。


 コールマン伯爵が持たせてくれたサンドイッチを食べてから午後の実技試験の会場に向かう。その途中、シアに話しかけてくる人がいた。

「黒髪の王子様、先日はありがとうございました。エマです」

「あっ、シアさんですね。ルーナです。これから実技試験ですか?」

「そうです。二人とも入学試験を受けるのですね」

「はい。シアさんの受験番号は何番ですか?」

 ルーナに聞かれてシアが番号を見ると、2424番であった。

 エマは2422番、ルーナが2423番で三人は順番に実技試験をすることになっていた。

「偶然って恐ろしいわぁ」

 と、エマが意味深に何かを言っていたが、シアとルーナはその声が聞こえないくらいにふたりで見つめあいながら仲良く話を弾ませていた。


 やがて、エマの順番がやってくる。まずは魔力量の測定であった。

 エマが魔力測定器に触れると、3365と表示される。周囲がどよめき、あの赤髪の女の子は今年一番の魔力量だと騒ぎだした。

 次にルーナが触れると、3211と表示された。またしても周りがルーナに賞賛の声を送る。

 次にシアが触れた。数字が一気に跳ね上がると測定器が99999を指して煙を吹いて止まってしまった。慌てて職員がもう一つ大きな測定器を持って来て測りなおす。すると、9999999を指して止まってしまった。職員がどうするか協議をしていると、一人の女性がやってきて、その子の魔力量は機械なんかでは測れないから次に行かせるようにと指示をした。

「あの人、エルフね」

「そうですね。おそらく学園の先生でしょうね」

「エルフ?」

「ええ、耳が少し長いでしょ。それに体から魔力が溢れています」

「相当できる人なのでしょうね」

 シアがその人の方を向くと、シアの腕輪をちらりと見て微笑んだように思った。


 次は魔法実技である。前方の的に魔法を当てて威力を図るのだそうだ。

 まずはエマが、

「炎よ、敵を焼き尽くせ ファイアーボール」

 と唱えるとエマの手のひらから炎の球が放出されて的に命中し、4293と表示される。またしても周りがどよめく。次いでルーナが流石ねと言いつつ、

「聖なる光よ、敵を射抜け ライトアロー」

 と唱えるとルーナの手のひらから光の矢が飛び出して的に命中し、2358と表示される。ルーナは攻撃魔法が苦手だと悔しがっていた。

 シアは的を見て何か魔法で射抜けばいいのだと思い、指を一本出すと指から光線を放った。その光線は的を貫通し、試験場の壁を貫通し、遥か彼方へと飛んで行った。

「……無詠唱、的を貫通、壁も貫通」

 周りが沈黙する中で、先ほどのエルフの女性が嬉しそうに、次に進むよう促した。


 最後は剣術の試験であった。試験用の木刀を使った勝ち抜き戦であり、受験生は防具を着用はするものの、実際に攻撃が当たるとかなりの痛みがある。ルールは単純で制限時間いっぱいまで試験場に立っていた者が勝者となる。試験が始まると、エマとルーナが女性であり、剣術では勝てると考えた受験生が襲い掛かる。だがその全ての受験生をシアは一太刀で弾き飛ばして場外に追いやり、さらにほかの受験生も一掃すると、制限時間が終わる前に試験場にはシアとエマ、そして、ルーナだけが立っている状態になっていた。


 試験場から下りると、先ほどの女性が含み笑いをしながらシアのもとにやってきてシアに声をかけた。

「流石は史上最年少のS級冒険者ね。私はこの学園で校長をしているイルマというの。その腕輪も私が作ったのよ。よろしくお願いしますね」

「イルマ先生は父さんを知っているのですか?」

「ええ、一緒のパーティーだったからね。カールとクレイン、そして私ね」

「クレインさんがお婆さんだと言っていたのでもっと年配の方だと思っていて気が付きませんでした」

「確かにクレインからすればお婆さんだからね。しょうがないよ」

「でも、まだ若く見えます」

「私はハイエルフだからね。人間よりも随分長生きするのですよ」

「それで若く見えるのですね」

「ふふふ。シア君は年上に可愛いって言われるタイプかもしれないね」

「いえ、シア君はカッコイイです」

「……ルーナ?!」

「えっ、いや、その、あの……」

「ふふふ、若いというのはいいわね。今日の試験はこれで終わりだ。帰っていいよ」

その後、俯き真っ赤になっていたルーナを連れてエマが帰っていった。シアは迎えにきてくれたコールマン伯爵の馬車に乗せてもらい、宿屋に戻ると、ルーナとエマが合格しているといいなと思いながら眠りについたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る