ゲームと変わりゆく心

三条「はい、片付け終わり」


蓮杖「助かる。いつもありがとうな」


三条「いえいえ、お互い様でしょう。蓮杖くん、ここ最近私のことずっと手伝ってくれてるでしょう」


蓮杖「まあ、基本帰ったら暇してるしな。勉強しかやることがない」


三条「勉強って……結構真面目ね。なにか趣味とかないの?」


蓮杖「趣味か……そうだなあ、ゲームくらいか?」


三条「どんなゲームをやるの?」


蓮杖「RPGとかアクションとか……基本一人で出来るようなやつが多いかな」


三条「一人でじっくりやるようなゲームが好きなの?」


蓮杖「まあ、そうだな。オンラインプレイで複数人がやるようなゲームは基本あまり好きじゃない。じっくりそのゲームに没入できるような作品が好きかな」


三条「作品への没入か……少し分かる気がするかも」


蓮杖「へえ……三条もゲームやるのか?」


三条「ううん、やったことないわ。没入感のある作品が好きっていうのに共感できただけよ。私も小説をよく読むけどその作品を読むのに夢中になってしまう作品が好きだから。だから媒体が違うけどその感覚には共感できるなって」


蓮杖「なるほど。……なあ、三条、ゲームやってみるか?」


三条「え?」


蓮杖「いや、そっちさえよければなんだけど。やったことないならさ、どんなものか試してみないかなって思って」


三条「……うーん、でも私やったことないしちゃんと出来るかしら……」


蓮杖「大丈夫、基本はちゃんと俺が教えるよ。初心者が嫌になるようなことはしないから」


三条「そうね……あなたが教えてくれるならやってみてもいいかも。それじゃ指導をお願いしてもいいかしら?」


蓮杖「ああ、喜んで。それじゃゲームをやるための用意をするから待っててくれ」



1時間後。


三条「ねえ、蓮杖くん。だいたいやり方はこんな感じでオッケーかしら?」


蓮杖「……ああ、というか飲み込みが早い……。初めて1時間くらいでこのゲームの最高難易度のCPUを倒せるようになるなんて……」


三条「? 今対戦してた相手のレベルってそんなに強かったの?」


蓮杖「……そうだよ。というか、今の発言は場合によっては人を怒らせることもあるから気をつけような。しかしこれじゃ俺が教えることもすぐなくなりそう」


三条「あら、それは褒めてるのかしら?」


蓮杖「褒めてるよ。ここまで上達が早いと教えた側としてもうれしくなる」


三条「あら、ありがとう。ねえ、このCPU?っていうのと戦うのも飽きてきたわ。私他の人との対戦もしてみたい」


蓮杖「じゃあオンラインで対戦でもしてみるか?」


三条「オンラインで対戦?」


蓮杖「インターネットを使って世界中の人と対戦できるようになってるんだよ、今は」


三条「そ、そうなの? 凄いわね、今のゲーム……。でもその人達は強いのよね? 強いのなら是非戦いたいわ!」


蓮杖「……なんだその戦いを求める戦闘狂みたいな台詞は……。まあ、オンラインで対戦するような人達は相当に強いよ。自分でもなかなか勝てないし」


三条「ふふ……それを聞いてますます楽しみになってきたわ! 蓮杖くん、オンラインで対戦出来るように用意をお願いしてもいいかしら」


蓮杖(思った以上にはまってるな、これ。まあ楽しそうだから嫌だって言われるより全然いいんだけど)


蓮杖「分かったよ、準備をするから少し待っててくれ」



三条「はあーーーーーーーー、すっごく楽しかった! 本当に強いのね、オンラインで対戦してる人達って。本当にいい経験になったわ」


蓮杖「なに、この人怖い……なんで始めた初日でオンライン対戦でも勝ちまくってるの……規格外過ぎる……」


三条「? なにをブツブツ言っているの?」


蓮杖「いや、楽しんでもらえたみたいでよかったーと思っただけさ」


三条「ええ、本当に楽しかったわ。ゲームは今までやったことなかったけどこれははまってしまいそう……!」


蓮杖「嵌まるのはいいけど生活とか学業に支障がでないようにしろよ。そういうのでいろいろ駄目にしてしまう人間多いから」


三条「失礼ね、いくらなんでもそこまで馬鹿じゃないわよ。……ねえ、蓮杖君たまに君の家に来て今後もゲームで遊んでいいかしら?」


蓮杖「ん? ああ、俺としては別にいいぞ」


三条「本当!? ありがとう!! 次にまたやれるのが楽しみだわ!」


蓮杖(本当に楽しかったんだな! こいつのこんなに笑った顔初めてみたかも)


三条「なに? にやにやして。少し気持ち悪いわよ」


蓮杖「いや、なに三条の楽しそうな顔って初めて見たなって思って。本当に今回のことが気分転換になったなら本当によかった」


三条「私の笑顔ってそんなふうに見えてたの……?」


蓮杖「ああ、そうだな。なんでそんなふうにしてるのか分からなかったけどさっき帰り道での三条の話を聞いて理由は分かった」


三条「はあ、私もまだまだね。他人にバレるようじゃ駄目だわ。……でも少しだけ心が軽くなった気がする」


蓮杖「まあ俺に話して心が楽になったのならよかった」


三条「ええ、今日はいろいろとありがとう。それじゃまた学校で」


蓮杖「ああ。またな」


 去って行く三条、その姿を蓮杖は静かに見送る。


蓮杖「なんというか今日の三条は年相応の女の子って感じで可愛かったな……。って俺はなにを言っているんだ! あいつとはそんな関係ではないしこれじゃ俺があいつのこと好きになってるみたいじゃないか……!」


蓮杖「……今、思ったことは忘れよう。こんなことを考えてるって知れたら三条から怒られてしまう」


〇家への帰り道(三条)


三条「はあ……本当は帰りたくなかったなあ。もっと蓮杖くんの家でゲームしてたかったし、彼ともっと一緒にいたかった」


三条「最近、蓮杖君の家に自分から行きたいって思うようになってる。……はあ、どうしちゃったんだろ、私。あまり思わないようにしてたけどこれって私……彼のことを……好きになってる?」


三条「あはは……まじか、私。まさかこんな単純な理由で人を好きになるなんて自分でも驚きだわ……。でも……まあ……初めてなんだよね、私に対してあんな風に接してくれた人は……優等生として私を見ない人、初めてなんだよなあ……」


三条「いや、気持ち悪いでしょ。一人で変なこと考えて嬉しくなって笑ってるって。さっさと家に帰って勉強しよう。そうしたらこういう感情も気にならなくなるでしょ」


 家に帰りついた三条。


三条「ただいま」


 そのまま足早に自分の部屋に向かう。部屋に着くと荷物を置いて勉強を始める。


三条「よし、気持ちを切り替えて。勉強始めるわよ!」


 しばらく時間が経過。勉強に集中できず、机から離れてベットに飛び込む。


三条「駄目だ、集中できない。はあ……こんなことで気持ちを乱してしまう自分が嫌になるわね」


 三条、頭を抱えてしばらくベッドの上を転がるが、やがて決意したように顔をあげる。


三条「……よし、こんなふうにもやもやしたまま過ごすのも嫌だし……恥ずかしいけど……彼にきちんと気持ちを伝えよう!」

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