お人よし

〇翌日、学校の廊下で


蓮杖「朝学校に来たら誰かの視線を感じると思ったら……」


三条「おはよう。蓮杖くん」


蓮杖「……本当に監視してくるやつがあるか!」


三条「あら、私はやるといったらやる女よ。手は抜かないわ」


蓮杖「いや、そのバイタリティはもっと他のことに使えよ! 本当に息苦しいなあ……」


三条「恨むのなら昨日屋上まで私を追いかけてきた自分を恨むのね。普通あんなのに誰も気を払わないでしょ。好奇心に身を任せて行動したあなたも悪いわ」


蓮杖「いや……だってあんなものを見るとは……」


三条「そのことを学校で口にしないで。みんなから信頼のある私があなたのことを悪く言えばあなたをここにいることが出来なくすることも可能なんだから」


蓮杖「勘弁してくれ……はあ、まあ三条が懸念してることはおきないぞ。昨日も言ったが俺は面倒なことは嫌いだしな。昨日も言ったとおりなにもしないぞ」


三条「……まあいいわ。とにかく昨日のことを黙ってくれていれば私もなにもしない。お互い普通に過ごしましょう」


蓮杖「はいはい、分かりましたよ。あ、もうすぐ一限が始まる」


三条「あら、早いわね、席に戻らないと。それじゃあね、蓮杖くん」



〇放課後、教室


蓮杖「結局一日監視される羽目になった。早く帰りたい……。ん? あれは……」


女性クラスメート「ねえ、三条さん。今日もまた残るの?」


三条「ええ、クラスの委員長としてまだ終わっていない仕事がいっぱいあるから。せっかく一緒に帰ろうって誘いをかけてもらったのにごめんね」


女性クラスメート「そっか。ううん、謝らなくていいよ、三条さんがいろいろやらなきゃいけないことを抱えているのは知っているし。それじゃまた明日ね」


三条「ええ、また明日。あら蓮杖くん、お疲れ様」


蓮杖「お疲れ様。また今日も残って仕事か?」


三条「ええ。まだまだ、やることが残ってるのよ。今日みんなで話あった秋にやる文化祭の企画案を整理して提出したりとか進路調査表の整理とか」


蓮杖「うわ……なんてことないふうに言ってるけど結構な仕事量だぞ」


三条「もう慣れたわよ。皆、こういう面倒なことは誰かがやってくれることを望んでるから私任せよ」


 三条、頬杖を付きながら大きく溜息を付く。


蓮杖「手伝おうか?」


三条「え?」


蓮杖「だから手伝おうかっていったんだ」


三条「……こっちはありがたいけどいいの? 帰りはかなり遅くなると思うけど」


蓮杖「構わない。家には今俺一人だしな」


三条「? ご両親はいないの?」


蓮杖「今は両方とも仕事で出張で家にいないから自分一人だ」


三条「だから昨日は夕飯を買いに行ってたの?」


蓮杖「ああ。そうだよ。一人の時に自炊なんて面倒じゃないか」


三条「……栄養偏るわよ」


蓮杖「お前はオカンか……。っと話がそれたな、なんでお前を手伝っても俺は特に問題がないんだ。というわけで早く終わらせよう」


三条「……蓮杖くんってさ」


蓮杖「ん?」


三条「変な人って言われない?」


蓮杖「すげー失礼なこと言ったな、お前!」


三条「ぷっ……あはは、ごめん、ごめん。私に対して手伝おうかなんて言ってくる人いなかったからついおかしくて笑っちゃった」


蓮杖「そこまで笑わなくてよくないか。流石に傷付くわ……」


三条「本当にごめんって。でも本当にお人好しだなって。普通の人は優等生を助けようとか言わないよ」


蓮杖「困ってる人間放っておくのは気分がよくないだろ。単にそれだけの理由だ」


三条「……昨日も言ったけど本当今時珍しいタイプの人間ね。善人なのは違いないけど。けどそこまで言うなら好意に甘えさせてもらうわ。私も早く終わらせて帰ることができるなら帰りたいし」


蓮杖「決まりだな。それじゃ早く終わらせよう」

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