日常に潜む吐物

苦贅幸成

第1話

 昼の十一時に目が覚め、十二時過ぎに布団を出た。カーテン越しの日の光が眩しくて目を逸らした。

 誰もいない一階に降り、冷凍庫から昼飯兼朝飯の冷凍ナポリタンを取り出す。皿に出してレンジにかける。明日は多分冷凍うどんか冷凍ラーメン。親の買い物のパターンは大体分かっている。

 温まったナポリタンを食べながら、テレビで適当な番組を流す。ふと思った。今日は平日なのに、まるで日曜日みたいだ。でも、思い返してみれば学校に行かなくなった三ヶ月前から毎日が日曜日みたいなものだった。

 毎日同じことを繰り返している。昼に起きて、飯を食べて、ゲームをして、寝て。なんの新鮮さも成長もない。それらを望んでいない訳ではない。だけど、この緩やかな怠惰の誘惑に耐えられない。あるのは将来への漠然とした不安だけ。

 腹ごしらえは終わった。昨日までやっていたゲームはクリアしたので、今日は新しいゲームをやり始める。一人称視点の3Dのアクションゲームだ。しかし、しばらくやっていても何の面白さも新鮮さも感じなかった。前のもその前のも同じだった。他にやることがないから、好きでもないのに半分義務感でゲームをしている。本当に何もせずに毎日を過ごせば、人生の時間を無駄にしているという意識に潰されてしまうから。

 始めて一時間ほどで、気分が悪くなってきた。画面酔いしたのかもしれない。だめだ、吐きそうだ。限界になり、トイレへ駆け込んだ。


 おえ、え、おええ…


 トイレの水面に浮かぶ吐物は鮮やかなオレンジ色だった。多分、昼に食べた冷凍ナポリタンの色だろうと思う…けど…。トイレで一人、思わず口に出していた。

「オレンジ色のゲロ、初めて見た…」

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日常に潜む吐物 苦贅幸成 @kuzeikousei4

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