第13話【ステータス・オープン】

 『ステータス・オープン』とは聞いたことがある。ジョブだかスキルだかレベルだかステータスだか、人間の能力を数値化・文字化した一覧表のことだろう。


 しかしゲームの世界じゃあるまいし、そんなものがなぜ存在しているのかよく解らない。この世界には〝魔法〟があるのはラムネさんが既に証明済みだが、あるいはこれもまた魔法であるのかもしれない。


 しかし、イギリスやアメリカがこの世界にあるとも思えないが、なぜ〝英語〟が普通に存在しているのかは謎だ。もっとも、僕はいま日本語で会話を成立させている。あるいは単に僕にはそう聞こえるだけなのかもしれない。


 男はカウンターと思しきスペースからタブレット端末のような物を持ちだしてきた。店主は「確かめろ」と言ったのみ。

「ステータス・オープン」男は言った。タブレット端末状の物の画面に何かが表示されているのか指で何事かを操作しながら、なぜか難しい顔をしている。

「店主、どう解釈したらいいでしょう?」男はなぜか店主に尋ねた。明らかに様子が見える。

「見せてみろ」と言って店主はタブレット端末状の物を受け取る。本格的に〝タブレット〟なのかスワイプを繰り返している。少し難しい顔をした——、だが次には、

「これは無双だな」と店主は断定するように言った。これ以降この店主には僅かもとまどうような様子はうかがえない。続けざま「秤を持って来い」と命令した。


 

 きんの小粒を一つまみ一つまみ、ピンセットのようなものを使い秤に乗せていく。もう一方の皿には分銅。ちょうど今、秤が平衡になった。ポケットに詰め込んでいたきんの小粒はまだテーブル上に割と残っている。


「ではこれにて〝売買成立〟です。証明書類を付けますので今しばらくお待ちを」 

 店主は確かにそう言った。それを聞いた男はいったん奥へ消え、そして平たい木箱を持って再び現れた。木箱の中からなめし革を二枚に付けペン、そして極小の壺を取り出した。男が壺の蓋を開け、付けペンを突っ込む。そのペンを手渡された。中にインクが入っているらしい。そして、

「ご署名を二枚分、ここのところへお願いします」と男が書類の上の一カ所を指差す。

 皮にインクで書けるんだろうか? 思いつつ漢字で自分の名前を書いていく。普通に書けた。

 一枚終えてもう一枚。僕が書き終わると今度は店主が二枚分、おそらく自分の名前だろうか、記していく。

 その間に男が秤の上のきんの小粒を袋の中へと回収していき、ほどなく終えた。袋の口を紐で縛っている。テーブルの上にはまだきんの小粒が残っている。ふと思った。

 全部取ることもできたはずだ。なにせこっちは〝相場〟など分からず言い値をそのまま信じる他ないのだから。


 扱う〝商品〟はアレだが、割と誠実なのか?

 とにかくラムネさんの計画ではこれでまだ終わりじゃない。男が秤を片付けてしまう前に切り出した方がいい。


「あの、まだきんが余っています。それを使って女奴隷を買えるだけ買いたい」

きんが余っているとは中々に豪気ですな」と店主。言いながら記し終えたなめし革の書類を二枚、傍らの男に手渡す。その男がささやいた。

「しかし店主、まるで足りませんが、」

「分かっていることをいちいち抜かすな」店主が男の言い分を遮った。そしてこちらの方に顔を向け、

「まずはお持ちのきんの総量を把握しなければ、この話しは進められません」そう言った。

「そりゃそうですね」

「ここからは互いに〝信用取引〟になります」

「と言うと?」

「私どもに〝きんの隠し場所〟を明かしてもらわねばなりません。ここまでご持参頂けるのならその限りではないのですが」

「それは難しいですね」

「なるほど、少し離れた所に隠してある、と」

「そうです」

「森の中ですか」

「その通りです」

「となるとこちらも難しくなります。森には魔物が出ますから私ども素人ではとてもとても。誰かが護衛に付いてくれれば安心できるのですが」

「どのみち案内しなければならないのですから僕もいっしょに行きますよ」

「案内は案内、護衛は護衛です。護衛して頂けるということで間違いはありませんか?」

「やりましょう」

「ではこちから三十人ばかり人を出しましょう」と店主は言ってニッコリ笑い、ぱんぱんと手を叩く。

「ダリー、今からお前が率いて行ってこい」

 男の名前は〝ダリー〟だった。明らかに気乗りのしない顔をしながら、

「承りました、店主」と返事だけは立派だった。

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