第46話 協力的な試練
二回戦、三回戦と、俺は勝ち進んだ。勝ち進んでしまったというべきだろう。
「なーんでこうなるのかなあ」
黒辻にぼやくと、贅沢だなと背を叩かれる。
「一回戦のあの龍のおかげじゃないか」
そのセルクリという龍は、俺が男を上げようとする血気盛んな、それでいて相手に怪我をさせたくない優しさを持つ偉丈夫だと他の勝者である龍に触れ回った。
「あれをうまい具合に目立たせるにはどうすりゃいいかな。ルーやマシの友達みたいだし、きっとツレの嬢ちゃんにいいところを見せたいんだ、お前らいい考えはないか」
そういうふうに龍語を使って堂々と騒いだ。もちろん黒辻にはわからないことだ。俺がそれを伝えるわけにもいかず、伝えたとしてもどうにもならず、また否定してもすでに話は出回っている。
「女のために命を懸ける男。俺たちも野暮じゃない。ちょっとした試練になってやろう」
というトーナメントにあるまじき協力関係が出来上がった。しかしそこは龍なので、殺さないだけで試合には全身全霊で臨む覚悟がある。
すなわち、徹底的に痛めつけてやるということになる。
三回戦での骨折は二箇所。頭部の裂傷は止血のみ回復魔法で行い、痛み止めの薬草を煎じて服し、黒辻に縫ってもらった。裁縫は得意だというので、任せた。
その際、彼女は呪術も一緒に施した。
「銀城、不老不死になったら、きみは変わってしまうのかな」
「意味ありげなこと言うなよ。何をしたんだ」
「私はきみがきみのまま勝利することを望んでいるんだ。私がしていることは保険だよ」
「ヒントじゃなくて答えが欲しい」
「野暮だよそれは」
「……料理の具材と一緒かよ」
「あはは。そうとも。そうだ、優勝したら一つその具材を明かそう」
それくらいでやる気になるもんか。とは顔には出さない。黒辻は満面の笑みで、俺がそれを本気で望んでいると思ってそうだから。
「ようし。じゃあ、聞かせてもらうぜ」
「その意気だ」
俺にまつわる噂と、黒辻による身体強化の魔法により、実にスムーズに試合は進んだ。体は軽く、擬人の法を使われていなければ勝負は違ったかもしれないが、人体である以上、力学がある以上、重心がある以上、柔というものは付け焼き刃の俺にも味方をしてくれる。
『ドラゴン転ばしのギンジョーだ! ねえ、もう一回賭けをやり直さないか? あ、だめ? そう、あんた四鋭のマトラでしょ。顔覚えたから』
裏でやれと野次と笑声。そんな中で、優勝候補とされる龍が相手になった。
『後であんたツラ貸しな。それはともかく、次の試合は見ものだぜ! 全ての予想を裏切った人間コンビ、ギンジョーとクロツジ! 対するは我が愛しの誇り高き六鱗の英雄、ルー・バックロックだ!』
「誰が愛しのだ。それに英雄でもない。が、優勝すれば自他ともに認めてもいいよな」
微笑は柔らかく、俺たちを救った時と同じ声音だ。
「……俺にとっては恩人だよ」
「そうだろうとも。んで、どうだ」
「何が」
「擬人の法は久しぶりでな。おかしくないか」
光を吸収しそうなほどに黒いロングヘア。背丈は俺より少し低いくらいで、均整の取れたスタイル、鱗の鎧と、彼女の爪は長くはないが、特筆するのならばその目つきだろう。といっても、どこにでもあるといえばある。しかし、似ている。顔の印象が、セコンドに重なった。
「親戚?」
「は? 誰と」
「なんでもない」
「銀城! 発情しているのか!? 相手がルーでもさっさと片付けるんだ!」
「してないやい!」
「だってなんか、私に似ているじゃないか!」
「ふむ。湖面に並べば比べることもできるだろうな。いつかやってみようか」
「それはあれか。顔には傷をつけないでって——なんでもない」
「最後まで言っているようなものだろう。それにな、それはお前が私に頼むべきことだよ」
「いや本当にそうなんだよ。どうだ、頼まれてくれるか」
「殺すなと連中は騒いでいるが、まあ別にかまいやしないだろう。一人前になりたいなら、自分でなってみせろ」
試合開始の合図とともに、彼女は真っ直ぐ突っ込んでくる。これまでに感じたどの殺気より、どんな境地での息苦しさより、彼女のそれが恐ろしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます