第43話 一歩
「あなたが使者としてくるなんて。一体どういう風の吹き回しかしら」
ジークに乗せてもらっての帰陣である。接敵するや否や火球の弾幕にいじめられたが、俺をたまたま知っていた龍が待ったをかけてくれた。ルーの友人で話を聞いていたらしく、そのままジークを通してくれた。
『あ、ルーのダチじゃん。みんな攻撃しないでやって、いい人間だから。攻撃中止』
そんなことがあって、ジークと共にバルクーゼルの前に帰ってこれた。
「あ、
「お手数をおかけしまして申し訳ない」
「……そいつよりは礼儀のある人間でほっとした」
「それでジーク。私の前に現れたってことは、もしかして」
「生憎ではございますが、戦さを止めるという話ではありません」
ではなぜ、とバルクーゼルは俺を視線で射抜く。
「それに代わる方法があるんだ。マレイルも賛成したから、それの打ち合わせをしようかと」
「打ち合わせ? 何をしようとしているの?」
六鱗杯を開催してもらいたい。とジークが恭しく申し上げたが、バルクーゼルはいまいちピンときていない。
「え、いや今じゃないでしょ。あれはお祭りよ? 憂さ晴らしみたいなところもあるけどね。停戦の記念にはするかもしれないけど」
「その六鱗杯で戦争に終止符を打つんだ。誰の参加も自由にして、一位になった陣営の勝利ってこと。マレイルも参加するから、奴が勝ったら六鱗杯が四鋭杯になるだろうけど」
「な、なぜ紋章の長が出場を」
「この競技で戦争の行方を決めるためには、彼に参加させることが不可欠なのです」
マレイルの心中は、バルクーゼルもわかっている。その逆もおそらくは。
奴の独りよがりが起こしたすれ違いは、おそらく力によってでしか解決しない。多くが犠牲になるよりも大会として競技にすれば被害は減るし期間も短く、また己を誇示するにもうってつけだろう。
そういう説得の仕方をしたので、マレイルも参加する。しなくてはこの作戦は成り立たない。
「銀城、きみもなかなか考えたね」
「思いつきだけどな」
「……ちょっと信じられませんが、本当のことなのでしょうね。ジークがいなければ人間不信になるところでしたよ」
「お戯れを。あなたは万人を愛する。私がきたのはそれともう一つ、この六鱗杯は通常あなた方だけで遊ばれるものだ、四鋭の連中も混ぜた時にどうなるかわからない。それに勝利の条件、優勝者への褒美、それら細々とした規則の定めなければまりません。私もその裁定に加わればこちらから不満は出ますまい」
「なるほどねえ。そちらから一時停戦の報せは出したのかしら」
「すでに」
「そう。じゃあ我々も」
側近がすぐに飛んで行った。「ジーク。久しぶりに会えて嬉しいわ。ゆっくりくつろいでね」
するとジークの巨体が、消えた。消えたと思ったら、俺と同じような背丈の男が立っている。
「感謝いたしますバルクーゼル様。お言葉に甘えさせていただきます」
「しれっと擬人の法を使ったな。龍にも術師がいるんだな」
「貴様は学生だったな。黒辻、か。これくらいは造作もない。龍はこうして、時に人や獣に化ける。そこでの生活を好む者もいる。他の種族だってそうだ。世の異形や混交生物はそうやってできている」
「まじかよ。じゃあ人が龍にもなれんの?」
「可能だろうが、修練には途方もない時間が必要だろう。貴様らは老いやすいから」
老いはどこにでも現れ、何をするにもつきまとう。克服する一歩目は踏み出したが、いったい何十、何百歩み進めればいいのかわからない。しかし、諦めるほど踏み出した一歩は小さくない。
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