第41話 敵陣へ
『なんだこいつら』
『人間だろ』
『なんでここに人間がいるんだってことだろ。わかれよそのくらい』
『ああ? 六鱗より先にお前からやってもいいんだぞ?』
八匹の龍に囲まれ、その鼻息の荒さに慄きながらも、なんとか四鋭たちとの会話に成功…させる予定である。
『そこまで。六鱗からの使者だ。マレイルに会わせてくれ』
心臓が止まるほどの雄叫びが吐き出され、怯むなという方が無理である。しかし我が友人の頼もしさといったらなく、俺の脇腹を小突いた。
「や、早いとこ頼むよ」
せがまれても喉が動かず、硬直したまま龍たちに相談の機会を与えてしまうばかりだ。
『別に途中で死んでたってことにすればいいだろ。せっかく暴れられるんだから、停戦になっても面白くない』
『ばれたらことだぞ』
『誰もばらさねえだろ。食っちまおう』
いただきますといわんばかりに、視線が集まる。
近々、命の危機が多すぎる。ついさっきの空中落下もそうだし、ルーと出会った時もそう、遡れば飲まず食わずで数日生活したこともあった。
そういう、危険が近づけば近づくほど、それが命に関わるようなものであればあるほど、向こう見ずな蛮勇が胸に飛来するのだ。
『ただの人間じゃない』
右手をかざす。そこには輝く六鱗の紋章がある。龍たちの表情が変わった。
『……なんで人間が』
『あれ、本物だぞ』
『マレイル様んところに連れてった方がいいんじゃねえの?』
『そうかも。俺はイヤだけど』
『誰でもいいんだよ。早いとこ背中に乗っけてくれ』
その場にいた最年長がその役目を引き受けてくれた。この判断が間違っていても処されるのは俺だけだといって、若い連中を黙らせた。
『人間よ、マレイル様にその言葉遣いじゃいかんぞ』
親切なのか、自分の命が惜しいのか、そんな忠告をしてくれた。
『古代龍語がいいかな?』
『その方がいい』
やってみろと言う。練習しておかないといざという時にできないからと、黒辻そっちのけで俺は指示に従った。彼女は最後のチョコレートバーを噛んでいる。
『えーと、お会いできて光栄です。私は銀城と申します……こんな感じだろ? 時代劇みたいな感じでやればうまくいくと思う』
『なんだそれは。とにかくしっかりしてもらわねばならん。最近のマレイル様は様子が不審だから、逆鱗に触れれば使者だろうが噛みちぎるだろう』
『あんたは付き合い長いの?』
『礼儀のなっていないやつだな……まあ、ここ千年くらいは。俺の方が少し長生きだ、彼が、空に焦がれていた頃からの仲だ』
ほー、焦がれるときたか。察するにあまりあるが、しかしこの手の話題は苦手だ。俺自身に経験がない。
『この戦争で、マレイルは何がしたいのかな。バルクーゼルにいいとこ見せようってんなら、なんか違う気がするね。同胞を皆殺しにした後じゃ、威張っても誇っても惨めじゃないか』
『……礼儀はないが、勘はいいようだな。バルクーゼル様に事情を聞いたのか』
『なんであんたが様をつける。礼儀か?』
『そうだとも。見習えよ』
『じゃあ名乗ってくれよ』
『……ジークだ』
「よろしく。俺は銀城。こっちは黒辻。いいヤツだよ』
自分でもわかるが、俺の態度はよろしくない。いつからこんなに馴れ馴れしく、かつ傍若無人になったのだろう。
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