同窓会➇

「あれ? まだ敏哉話してんの?」

「もう終わるから。ごめん、長くて」

 透と樹は呆れてしまった。

 もう近況報告は終わっていると思いきや、まだ終わっていなかった。結構喫煙室で話し込んだはずなのに、敏哉はどれだけまとめ方が下手くそなのか、と樹は思った。

 樹が席に着くと「長かったやん」と小田に突っ込まれた。一瞬戸惑ったが、すぐに「昔話に花が咲いてね」と誤魔化した。

「トイレでも行ってたの?」

 あゆみが茶々を入れる。

「男二人の連れションも何か、引くよね」

「んな訳ないだろう。煙草吸ってただけ。喫煙室で話が盛り上がっただけだよ」

 樹は嘘を付いた。透から聞いた健太郎の話をそれから詳しく聞いていたのだ。健太郎が勤めていた企業は、大企業の傘下さんかに入っている子会社だ。当然本社からの古株が、出向や天下りでいるはず。パワハラがあってもおかしくない。健太郎の両親以外にも、おそらく

金を受け取っている元社員がいるかもしれない。

 だとしたら。

 健太郎が報われない。

「二次会、参加するよね?」

 樹が考え込んでいる間に、二次会の話が進んでいる。

 あさみは樹と隣りに姿勢良く座っている耕治に目配せする。

「久しぶりだからね。僕は参加するよ」

 耕治は笑顔で答える。

「オレは……どうしよう」

 樹は腕組みを、ついしてしまった。

 その姿を見たあさみや香織に、

「えー、行こうよー。久しぶりなんだからさぁ」

「ホンマやー。勿体無いわ」

 と、樹は二人にクレームの如く言われる。

 樹はそもそも、幸雄に誘われ参加しただけだ。二次会に行く事に関しては、全く考えていなかった。それこそ帰りの電車は新幹線で帰る様かな、と帰りの事を考えていた。

 そっと幸雄の方を覗いてみる。幸雄が座っていた席には既にいなかった。辺りを見回すと、幸雄と陽子が何かを話している。樹の視線に気付いたのか、幸雄は樹に向かって親指を立て、グッドサインを向けてくる。

 意味が分からなかった。

 だが幸雄の様子を見る限り二次会に行きそうではあると樹は判断した。

「分かった、参加する」

 渋々とそう答えた。

 やっと敏哉の長い話が終わった。

 各方面から「長い」や「まとまりがない」など、しまいには「奥さんが可哀相、長い話に付き合わされていると思うと」と散々な言われようだった。別に皆が本気で言っている訳ではない。ただからかっているだけだ。

 しばらく賑やかに、和やかな時間が続いていると、店員がラストオーダーだと報告してきた。

 それぞれ飲み物を頼んで、また賑わう。

 幸雄はこういう場に樹を連れてきて正解だと思った。最近の樹は酒に溺れ、酷い生活を送っていたのだから。樹の性格上、飲み会もあまり参加したがらない。ひとりで晩酌を楽しむ様な奴だった。

 最近のすさみ方は異常だったが、それが少しでも払拭されるのなら、とも思った。そして出来る事なら、余計なお世話ではあるが天野陽子と樹をひっ付けたいと思っていた。

 そう、幸雄はもう既に、一計を案じていたのだ。このままいけば、多少強引だが樹と陽子を二人きりにさせる事が出来るすべがある。

 樹は誘われて参加したものの、久々の顔ぶれに懐かしさを感じていた。

 最近は荒んでいたから、少しでも自分の心が選択出来た様な気がした。

 基本、嫁がいても会話は少なかったかもしれない。

 もっとちゃんと会話が出来ていれば、あんな事にならなかったかもしれないが、それは樹が勝手に思う理想であって、女性に対する見る目がなかった、と結論を付け、心の傷も少し癒されていた。

 陽子はこの場に参加して、本当に良かったと思った。ずっと地獄の様な、息の抜けない日々を過ごしていた。自分がちゃんとしていれば、あんな事にならずに済んだのに。そればかりを後悔していたが、同窓会に参加した事によって心の重りが、ほんの少しだけ軽くなった気がする。かつてのクラスメイト達の会話で、束の間でもいいから忘れたかった。ほんの少しの時間でも。

 そこへ幸雄による樹の事。

 まだちゃんと会話をしていない。

 樹は二次会に参加するのだろうか?

 もし参加するのなら少しでもいいから、樹と話をしたい。陽子はいつの間にか、樹を意識し始めていた。

 そろそろ同窓会も終わる。二次会に向けてそれぞれの思惑が交差していた。

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