二次会の章
二次会①
二次会の場所は、同窓会の会場になった居酒屋の隣の店だった。
同窓会となった店に比べると、いかにも居酒屋風でテーブル席が酷く狭かった。
予め敏哉は予約を取ってくれていた為、店員に広いテーブル席に皆案内された。
そして二次会が始まった。改めて乾杯の音頭を取り、同窓会の続きと言わんばかりに会話が弾む。
ただひとつだけ違うのは、同窓会の時の席順が違うぐらいだった。二次会では幸雄の前に樹と透。対して幸雄の隣には宮下紗江子が座っていた。
紗江子と透は中学時代はとても仲が良く、異性として、お互いを認識していない雰囲気で下世話な話題を繰り広げていたのを幸雄は覚えていた。
樹以外は酒やら生ビールを頼んで懐かしい会話を弾ませていた。時折、「ホント、お前の考え方は悪いヤツの考えだねぇ」とお互いにそのフレーズがツボに入ったのか、透と紗江子は何かあるとそれを繰り返しを会話でを楽しんでいた。傍から見たら何が面白いのか分からないフレーズだ。
一方で樹は、一次会で一緒に会話をしていた、あさみ、香織、耕治とは席が離れた。そして目の前にいるのは幸雄である。
「誘ってくれてありがとな。久々に楽しめたよ」
樹はジンジャーエールを飲みながら、幸雄に礼を言う。
「良かっただろ? 参加して。久々の顔ぶれも中々良いじゃんか」
そう言われてみれば、確かにそうだと樹は思った。
これに関しては、本当に幸雄に感謝している。少しは樹の心が晴れた気がした。
「そういえばさっき、天野と何を話してたんだよ」
つい樹の口からこぼれてしまった。過去に好きだった女性、やはり意識してしまう。
「別に。どうってことのない世間話だよ。ただお前、天野さんと全然話、していないだろう?」
痛いところを突かれたと樹は思った。離婚したばかりではあるが、過去に告白した女性に話を振る勇気は持ち合わせていない。
「ま、まぁ。そうだなぁ、話はしてないかなぁ? ていうか、ホラ、アレだ。お前も知っているだろう?」
「あぁ、知ってるよ。でも、もう二十四年も経ってるじゃないか。別に平気だろ?」
意外と奥手である樹。
異性を意識してしまうと何を話せばいいのか、冷静な判断さえ出来なくなってしまう。それでよく結婚なんて出来たものだと樹は思う。
「なぁ、せっかくだから彰と席を代わってもらって話でもしてきたら?」
「何で?」
「何でってそりゃあ…」
幸雄は小声で、
「中学の時の初恋相手じゃないか。積もる話もあるだろう? 話してこいよ」
「話してどうするの?」
幸雄ははぐらかす樹に、溜息をつく。
「お前さぁ、そこまで拒むって、意識してるって事だろ? 別に良いじゃん、会話するぐらい。それとも何か? 話さないまま、二次会を終わらせる気か?」
「んな事はないけど。ただ何を話せばいいのか、ホント分からないだけだよ」
とんだ
樹は意外と頑固な一面がある。
良かれと思って勧めても、「何で?」「どうして?」「それって意味あるの?」と話を
幸雄は強行突破と言わんばかりに、彰を呼び樹と席を代わってやってくれと頼んだ。
「席、代えるんだか? いいけんど、どしただか?」
「ほら、樹がさ、天野さんと全然話してないからさ。代わってあげて欲しいんだ」
「何でぇ、一次会で何も話してねえのか?」
彰は呆れた様に樹を小突く。
「うるせえなぁ、たまたまだよ。それからくどい様だけど、お前のその独特の訛り、方言何とかしろよ。聞き辛くて敵わんわ」
そう言って立ち上がり、陽子の隣に樹は座った。
正面には中川が座っている。中川はすっかり出来上がっていた。少し眠そうな顔を見せていた。
陽子は他のクラスメイト達と会話していたが、隣が樹に変わっている事に気付いた。
陽子も少し出来上がっていた。赤ら顔で笑顔を振りまいている。
「あー、樹じゃん。いつの間に彰とせきをかえたのぉ?」
「たった今だよ」
余計に樹は仏頂面になっていく。
その光景を幸雄と彰は遠目で眺めていた。
「何だか不機嫌になってねえか?」
「彰、分かってないなぁ。あれでも樹は機嫌が良いんだよ」
「そうなんか?」
「よく見てみ」
二人で樹の表情を眺める。樹は明らかに仏頂面に拍車が掛かっている。
「眉間にシワが寄ってるだろ?」
「んだな。寄ってる」
「いつもの樹は、もっとシワが寄ってるんだよ。だけど今はそれほど寄ってない。だからそこまで機嫌は悪くないよ。むしろ恥ずかしくて照れもあるんじゃないのか?」
「恥ずかしいって? なして?」
幸雄はつい、口を滑らせてしまった。
樹が陽子の事を好きだったのは幸雄しか知らない。幾らクラスメイトとはいえど、そんな事がバレたら樹に何をされるか。
しかし。
それは幸雄にとって想定内の事であった。
幸雄の計画は着々と進んでいる。
「アンタぁ、私の事ぉ、わざと避けてたでしょ? 違う?」
「いや、そんな事は。っていうかお前、飲み過ぎじゃないか? 大丈夫か?」
少し時間を
まさか酔っ払うと絡んでくるとは思わなかった樹。
中川に助けを求めるが、元生徒が戯れていると思っているのだろう。ニコニコしながら眺めているだけだった。
駄目だ、先生は使い物にならない。
「どうなんだよ、樹ぃ~」
悪酔いによる絡みが酷くなる。
樹は思った。
中学卒業間近。
何故、天野陽子に告ったんだろう。
社会人になって、こんなに酒癖が悪いとは思わなかった。
樹はほんの少しだけ、二次会に参加した事を後悔した。
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