同窓会②

 天野陽子は森山未希と最寄りの駅で待ち合わせをした。

 未希は地元に残った同窓生であり、たまに連絡を取り合って食事をしたり、出掛けたりする仲でもある。

 陽子は同窓会の為に、店の入り口に臨時休業の知らせを、事前に貼り出しておいた。

 そして今日、朝早くから予約しておいた美容院の時間まで、チェーンの喫茶店で時間を潰してから美容院に向かい、セットしてもらってから、今駅前で未希を待っている状態だった。

 こうしなければ、いつ西山がやって来るか分からなかったからだ。

 定休日には必ずやって来る。

 でも恐怖心からくるのか、臨時休業であっても気は抜けなかった。

 だから朝早くに自宅を出るしかなかったのだ。

 とにかく陽子は、逃げる様に出てきた。

 嫌な気持ちで今日の同窓会に参加はしたくなかった。

 久しぶりの顔ぶれで、楽しく過ごしたくて出席するのだ。

 気持ちを切り替えなくては。

 陽子はそう自分に言い聞かせた。

 しばらくすると、未希がやってきた。

「ごめん、ちょっと遅れたかな?」

「ううん、そんな事ないよ。楽しみだね、みんなどんな風に変わってるんだろうね」

 改札口を抜け、ホームに向かう。

 ホームに向かいながら、未希は何だか嬉しそうな様子だった。

「でもびっくりだよね。香織ちゃん、神戸から来るんだって」

 小田香織。現在は澤村姓であるが、彼女は中学卒業とともに親の転勤に伴い、大阪に引っ越した。

 それ以来会っていないから、実に二十四年ぶりに会う事になる。

 中学の時から、英語にものすごく長けていて、とても流暢りゅうちょうな英語を授業で披露した事がある。因みに彼女は留学の経験もなければ、帰国子女でもない。将来は英語に関する仕事に就くんじゃないかと、陽子も未希も思っていた。

 会ったら確かめてみたいね、と二人で電車を待ちながら話していた。

 電車がやって来て、二人は車内に乗り込んだ。意外に空いていて、座席に座る事ができた。陽子は隣街にきょを構えてはいるが、たまに地元に帰ったりすると、近隣の移り変わりは多少なりともあったりする。

 だが地元の隣駅の辺りは、元々何もない閑散とした町だったが、最近は駅前のショッピングモール、新築マンションや新築住宅が立ち並ぶほど様変わりしていた。自分達が中学の時とは見違えるほどに変わった。

 地元はここまでの変わり方はせず、逆に退屈な町になっていった。

 地元の隣駅ではあるが、明らかに雲泥の差が付けられている。

 車窓から眺めながら、二人はだいぶ変わったよね~、と会話が弾む。

「そういえばさ」

 未希が何かに気付いたように尋ねる。

「この間の電話で言ってた自分の店。開店してからどう? 軌道に乗ってるの?」

 少しだけ、陽子は胸が痛かった。西山の存在が頭を横切る。

「整体師の資格取って、ようやくお店を開店出来たって言ってたじゃん?」

「そうね、そんな事言ってたね。色々と忙しくて。開店前に未希に報告したからドタバタしてたかも。ゴメンゴメン。そうだね、ある程度の固定客は付き始めたかな。今は少しずつだけど上向きにいっているよ」

「そっか。今度私も行ってもいい?」

 西山がチラつく。しかし陽子は振り払う。

「んー、来月と再来月も予約がいっぱいだから今度、ね?」

「えっ? 凄いじゃん! そんなに評判がいいの?」

 陽子は咄嗟とっさではあったが、未希に嘘を付いてしまった。苦笑いをしながらと同時に未希には来て欲しくないと思った。

 西山の事だ。

 別に何かがあるって訳ではないのだが、『未希にだけは知られたくない』と、陽子は何となくそう思ってしまった。

「子供は相変わらず反抗期?」

 陽子は話題を変えた。

 未希は結婚したのが早く、現在息子が中学生だという。

 反抗期まっしぐらだ、と以前未希が言っていたのを思い出したのだ。

「そう、聞いてもらっていい? この間もさぁ…」

 目的地のT原駅まで、未希の息子の愚痴大会が始まった。

 陽子はそれを聞いていても、嫌な気持ちもせず、逆に羨ましく思えた。

 自分が望んだ幸せな家庭を未希は送っている。

 この愚痴だって幸せだからこそ言える事なのだから。

 もし自分にも子供がいたら、こんな風に悩んで、友達に相談や愚痴を言えただろうに。

 今の私は、何も正直に話せない。

 それでも話を聞いているだけでも、陽子は今の自分の気持ちが、少しだけ洗われる様な気がして、逆に愚痴を聞いている方が楽だった。

「今日来るのって、何人だっけ?」

 唐突に未希が息子の話から切り替えてきた。

「えっ? ちょっと待って。えーっとね、確か…」

 陽子はショルダーバッグからスマホを取り出し、グループLINEを確認する。

「十四人かな。先生を含めたら十五人」

「約三分の一の人数かぁ、でも初めての同窓会だから仕方がないか」

 少し未希は残念そうに答えたが、それでも久しぶりに会う同窓生に、期待を膨らませている感じにも見えた。

「そういえば、ゆっきーも来るんだって。あいつ、結構クラスのムードメーカーだったよね。二年の時はあまりパッとしなかったイメージがあったけどさ」

「幸雄も来るんだ? って事は、樹も来るよね?」

「あの二人、仲良すぎて一時期、デキてるんじゃないか? って噂にもなったぐらいだもんね。そういえば、陽子はあの二人と仲良くなかった?」

 未希の言う通り、中学三年の春から仲良くなった。

二人の会話が面白くて、よく会話に混ぜてもらった。

「幸雄も樹も来るんだね。楽しみだね。あの二人、普通に面白いからね」

 陽子は未希に話を合わせた。

 卒業間近に、樹に告白された事を未希にも話したはずだが、すっかり忘れている様だった。

 それはそれでいいか、と陽子は思った。

 そんな事をしているうちに、T原駅に到着するアナウンスが車内に流れた。

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