同窓会の章
同窓会①
・LINEでの平野幸雄と川瀬樹の、同窓会当日のやり取り。
樹
オレ、今電車乗った。
とりあえず新幹線じゃなく急行で行くわ。
平野幸雄
マジで?
オレはまだ自宅だぜ?
新幹線で行くつもりなんだけど。
樹
別に良いんじゃね?
ロマンスカーもありだけど。
急行でゆっくりも良いかなぁって。
普段、そんなに電車、乗らねぇし。
平野幸雄
そうだよな。
そういえばそうだった。
だいたい原チャリでしょ?
しかもカブ。好きだね~。
樹
愛車をバカにするなよ。
あれはあれで、中々良いんだぞ。
その辺の原チャリとは訳が違うんだ。
見てくれはカブだけど、イジッてるから。
結構速いんだぜ?
平野幸雄
違法じゃねーか!
警察にチクるぞ。知らなかった。
あのカブ、改造車だったんか。
樹
でも改造したから、燃費が悪い。
平野幸雄
それは自業自得だろ。
・それから数時間後のLINEでの
やり取り。
樹
着いたぞ、駅に。
まだお前、新幹線か?
平野幸雄
おう、でも後10分ぐらいかな?
一応18時だろ?
着くのはそうだなぁ。
17時30分だな。
樹
そっか。
とりあえず改札前で待ってるわ。
川瀬樹はスマホでメッセージを打ち込み、
そのまま送信した。
思い返すと中学卒業から、かれこれ二十四年は経っていた。
その二十四年、まともに連絡を取り合っているのは、平野幸雄だけであった。
『腐れ縁』といっても過言ではない。
昔から馬が合い、よく一緒に行動していたのは、幸雄ぐらいであった。
腕時計を見ると、まだ時間はある。
樹は駅前近くのコンビニに目が止まる。
幸雄が来るまでコンビニ前の喫煙所で煙草を吸う事にした。
コンビニの前には喫煙者共用のスタンド灰皿が置いてある。先客がひとり、煙草を吸っている。
樹はコートのポケットから、無造作に煙草とジッポライターを取り出す。箱から煙草を一本咥えると、火を点けて上を向いて紫煙を吹かす。樹の癖であった。
昨今、喫煙者の形見は狭い。煙が少しでも蔓延すれば、通行人は嫌な顔をして通り過ぎる。
喫煙者のマナーを守ってほしいものだが、樹は自分なりに気を使い、自分の吸った煙草の煙は上に向けて吹かす様にしている。
酒をやめろと言われても、おそらく煙草はやめられないな、と樹はふとした時に思う。
以前、煙草の受動喫煙について取材をした事があり、煙草そのものの危険性を調べた事がある。
結論から言ってしまうと、煙草、酒類などは『麻薬』と一緒である。
ただし、国が認めている合法麻薬。
煙草ならまだ『受動喫煙』という言葉があるぐらいだ。分からんでもないが、酒類も入っているとは思わなかった。
だが、『アルコール依存症』という、中々治療が難しい病だってある。
結局は麻薬の依存と何も変わらないのである。
アルコールの場合、人に迷惑をかけやすいし、依存となってしまえば尚更だ。
だが煙草は、他人に迷惑を掛けさえしなければ、自己責任なのである。程度の問題だと樹は勝手に解釈している。
だから、きっと煙草はやめられない、という結論に達したのだ。紫煙を再び、上に向けて吹かす。
いつから煙草、吸い始めたっけ?
樹はふいに思った。
古い記憶では、高校生の時からの様な気がする。
興味本位だった。
多分その頃からじゃないか、と樹は思い返す。今は吸う量も減ったが、ほんの十数年前まではヘビースモーカーであった。
一日三箱なんて当たり前。一日中吸っていたような気がした。
しかし煙草を吸い始めてから、初めての風邪を引いた時に、酷く治り方が遅く、咳も止まらなく喉も異常に痛かった。
原因は煙草である。
尋常じゃない吸い方をしていた為に、喉も鼻も粘膜も、酷く荒れてしまっていた様だった。
それがきっかけで喫煙をやめれば良かったものを、結局やめられずに一日一箱というペースで現在に至る。
この時に煙草はやっぱり麻薬だな、と思った。
腕時計を見ると、そろそろ幸雄が着く時間であった。
樹は吸いかけの煙草をスタンド灰皿に押し潰してから捨てて、再び駅に向かう。新幹線の改札口に。
降りてきた乗客達が、まばらに改札口に向かってくる。
その中に幸雄の姿が見えた。
樹は右手を軽く上げると、幸雄はそれに気付いて向かってきた。改札から出た幸雄の開口一番が「煙草臭い」であった。
「お前、臭えよ。すっごいヤニ臭い」
「うるせえな。煙草ぐらい、どうってことないだろう? オレの部屋だってヤニ臭いだろうが。何度も来てて気付かねぇのかよ」
「いや、気付いているけど、今日は特別に臭いよ」
「さっきまで吸ってたから」
「あー、なるほどね、だからか。これから同窓会だぞ? そんなにヤニ臭い状態で行く気なのか?」
「分かったよ、うるせーな、ホントに。途中で水でも買って飲むよ。そうすりゃ少しは軽減されるだろ?」
「ホントかぁ?」
二人は中身のない会話をしながら、同窓会の会場に向かって歩き出した。
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