川瀬樹⑤

 この事実を昨夜、初めて幸雄に話した。

 アイツは何も知らなくてごめん、大変だったんだな、と言ってくれた。改めてアイツに感謝したいと思う。少しだけ前向きになれたから。後は這い上がるだけだ。

 気が付けばもう夕方だった。最近一日経つのが早く感じる。それだけオレは歳を重ねたって事なのか。何だかそう、しみじみ思ってしまった。

 とにかく予定を組まなくては。同窓会の日程と、仕事の日程の調整をしなければ。

 と、思ったのだが同窓会の予定日は完全に空いていた。調整もクソもなかった。しかも三日間も空いているときたものだ。

 まぁ、年末って事もあって、仕事納めの時期でもある。暇になるのは仕方がない。 

 ちょこちょこスケジュールは入っているが、それでも半日丸々空いたり、場合によっては一~二時間だけのミーティングがあるぐらいだ。今年の年末のオレの予定はこんなもんだ。また来年から、心機一転、心を新たに気合いを入れなければ。

 そういえば、『気合いを入れる』で思い出した。

 昨夜、幸雄は天野陽子も同窓会に出席すると言っていた。

 懐かしい名前。

 オレの初恋相手。

 中学の時は、幸雄とつるんでいるのが当たり前だったが、やたらと絡んでくる女子がいた。その女子が天野だった。あまり女子っぽくなく、サバサバとしていて、女子から人気が高かった。女子と絡んでいるところは殆ど見た事がなかった。

 天野から絡んでくるので、放課後などによく三人で教室や公民館で喋り倒していた事もあった。

 三年に上がると同じクラスになり、より一層三人で行動する様になった。

 そんな何も飾りっ気のない女子、天野陽子に次第に恋心がオレの中で芽生えた。

 すぐ幸雄に相談したが、二人とも恋愛なんかした事もないから、相談というより女子に対してどう接するべきか、なんて幼稚な事ばかりを話していた。

 そんな話をしていると、必ずと言っていいほど天野があいだに入ってくる。

「なぁ~に、ヒソヒソ話をしてるのよ」

 と、言われても口が裂けてでも言えなかった。今じゃとんだ笑い話だが。

 だけどそれが楽しかった。今でも昨日の様に思い出せる。

 そしてそれぞれの進路も決まり、卒業間近に幸雄に手伝ってもらい、屋上に天野を呼び出してもらった。

 告白を決めたからである。

 幸雄は「大丈夫だよ、頑張れ!」と背中を押してくれた。

 そして天野陽子に告白をした。自分の気持ちを全部伝えた。

 だが物の見事にフラれてしまった。他に好きな人がいると断られた。でもありがとう、と言っていた。

「フッておいて何がありがとうだ」と、当時はふて腐れていたが、女心も分からないクソガキだったオレは、そのまま天野とギクシャクした状態で卒業した。

 天野陽子は今、どうしているだろうか?

 天野の事だから、人当たりの良い、それなりの幸せな生活を送っていてほしいと、オレは勝手に思い願った。

 とにかく、久々にクラスメイトに会う。

 そう思うと少しずつ楽しみにしている自分に気が付いてしまった。

 そんな自分が少し、照れ臭かった。

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