第1話

キリスト教が母体の慈善事業組織。

そいつが真っ黒って話を聞いたのはいつだっただろうか。


歴史を漁りゃ分かるが、宗教ってのはたいてい黒い。

プライベート問題から、政治、カネとまぁいろいろあるわけだが、今回聞いたのも話すに足らんそんな一つだ。


オレの仕事は写真が主体のジャーナリスト。

……だが、やってることはパパラッチのそれに等しい。今じゃパパラッチの橘冬希だ。

金になりそうなもんは全部暴いて世間に晒す。相手のことなんざ知ったこっちゃない。


それが生きるってもんだろ。

どんなにお綺麗な言葉を並べたところで、結局一番可愛いのは『自分自身』だ。



「聖シベリア学園……噂には聞いてたがでかいな……」


聖シベリア学園――例の噂が絡んでいる慈善事業組織が経営する、ミッション系の小中高一貫学校。

傍には孤児院も併設されており、この学園に通う生徒の半分は孤児院の出身だと聞く。

オレの標的は、今日の午後現れるこの組織の幹部だ。政治的な裏の繋がりから愛人、不正金と黒いもんのデパートみたいなコイツが何やら大きな会議に出席するという。

噂は証拠がないと金にならない。だからその証拠を掴んでやろうと、オレは一般参加出来るという礼拝に乗じてこの学園に入り込んでいた。


の、だが――


「聖歌とやらは初めて聞いたが、あんなに凄いもんだとはねぇ……」


怪しまれないように参加した礼拝で見た聖歌隊の歌は、凄まじいものだった。

あれを聴いて入信する者がいると聞いた時はバカにしたもんだったが、あの光景と歌を見ればまぁ一定数いるわな、と思う。

聖シベリア学園聖歌隊は、オレでさえその名を聞いたことがある有名どころだ。

歌が上手くて当然と言えばそうなのかもしれない。



「聖歌隊、凄かったですね……さすがかの有名な聖シベリア学園聖歌隊!特にあの前のほうにいた白い髪の双子……凄いですね、人が歌ってるとは思えないくらい綺麗で」


「あら、聖シベリア学園聖歌隊の『純白の神童様』を見るのは初めて?美しいわよねぇ……見目麗しい姿と清廉としたあの歌声は、まさに神に愛されし存在。……いえ、神の遣いそのものだわ」


オレの横を礼拝に参加した人たちが通っていく。


さっきからちらちら聞く『純白の神童様』とは、聖歌隊の先頭に立っていた白い双子の子供のことらしい。

双子というのが浮世離れしたイメージに繋がるんだろうが、そうは言ってもあれは目を奪われるほどに、容姿も歌声も目立っていた。

耳を澄ませば彼らは有名人らしく、双子の姿を拝みたいがために礼拝に通う者も少なくないようだ。


「個人情報だから名前は分からないの。でも献金したら、もしかしたら教えてもらえるかも……!」


「……金積むって……そこら辺のエセ宗教じゃあるまいし……」


元は厳格な由緒正しいカトリックだったはずだ。組織も腐れば信者も腐るのだろうか。

信者が熱に浮かされたように語る様は狂気じみていて、正直気持ち悪い。



「……とっとと探るか……」


げんなりしたオレは、礼拝堂から離れることにした。

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