小さき天使に花冠を

有里 ソルト

序章

天使がいた。

いや、天使なんているわけがない。

そもそもオレは、仏も神も信じない無神論者だ。


それなのに。



礼拝前の、少年聖歌隊による讃美歌。

その先頭に、稀有なまでに儚く美しい白髪の少年が一対。


聖水を閉じ込めたような淡い碧の瞳。

穢れなき白雪のように柔らかな白の髪。

長い睫毛で同時に瞬きし、寸分違わない仕草で神を讃え歌う様は、人か天使か。それとも神に創られた人形か。



発せられた歌声は、小さな鳥の美しいさえずり。

まだこの世に生を授かってそう経たない幼子の光の声は、教会の空気から人の心まで全てを浄化する。


その一瞬。その瞬間。

一枚の写真のように、オレの脳裏に鮮やかに焼き付く。



――それはそう、あの時見た空色のように。くっきりと。



学のないオレに、あの光景を例える言葉はあいにく持ち合わせていない。


だが、並みな表現で言えば。あいつらは。






絵画にでも出てきそうな、白無垢の天使だった。





『小さき天使に花冠を』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る