アーラーイーツ始めました。
「ウィー! 赤ちゃんやるぅー!!」
「よっしゃあ!新井さん、完璧に捉えましたよ!」
「ああ!すごい飛距離だったよ!上段までいったよ、上段まで」
「それじゃあ今晩は、みのりんの和食でお願いします!」
「ああん!?」
赤ちゃんは初球を狙っていましたね。阿久津さんの勝ち越しホームランの次の初球。当然ピッチャーとしてガックリくるところだったし、真ん中低めの甘めにきたボールだったけど、それをひと振りで仕留めたのはデカイ。
2アウトというところだが、これ以上はあかんと、フライヤーズはピッチャーを交代するようだ。
そんな雰囲気になったので、ちゃんと水道で汚れた腕を洗おうとベンチ裏に向かうと、そこに宮森ちゃんがいたので俺は呼び止めた。
「宮森ちゃん、宮森ちゃん!」
「あ、新井さん!さっきはナイス粘りでしたね。ホームランに繋がりましたよ」
「ああ、ありがとう。それよりさ、その阿久津さんのホームランの前にエキサイティングシートにファウルボールが飛んでいったじゃん?」
「え? ……ま、まあ。確かにそうでしたね」
「その時に、1番前にいた男の人がびっくりしてお弁当落としちゃったみたいでさ」
「え!? そうなんですか? 私だったら、1週間はへこみますよ」
「そうでしょ? かわいそうだからさ、お弁当をプレゼントしてあげようと思いましてね」
俺がそんなサプライズ作戦を告げると宮森ちゃんは、少しだけ驚いた表情をした後になるほどと、微笑んだ。
「おっ、優しいですね! もしかして、またプレー以外での見せ場を作って好感度上げよう作戦ですか?」
「おっ、鋭いね! さすがは広報ウーマン。段々と分かってきたじゃないの」
「ふふふ。実は最近、お給料も上がりましたし、今の私はイケイケ状態なんですよ!」
「すごい!9月の査定でちゃんと評価してもらったんだね」
「ふっふーん。まあ、ちょっとだけですけどね。もう誰も私を止めることは出来ませんよ」
「あはは。調子に乗るなよ。まだ2年目のひよっこなんだから」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
「アハハハ!」
「アハハハ!」
「……とか、そんな話じゃなくてさ。その男性のためにちょっとお弁当買ってきてもらえる? お金は後で渡すからさ」
「いいですよ。ホームラン談話は、二室さんが行きましたし、ちょっと時間あるんで。どんなお弁当がいいですかね?」
「そうだなあ。せっかくだから、1番高いやつにしようよ」
「1番高いやつですか。それだと、ビクトリーズDXサーロイン弁当になりますがそれでいいですか?」
「オッケー、それでよろしくぅ! 俺が渡しに行くから、買ってきたら教えてね。後適当に飲み物も」
「分かりました。それでは宮森行って参ります」
「これも外れました!フォアボール! フライヤーズ、2番手の根岸ですが、これで3者連続のフォアボールです。満塁となりまして、8番の並木がバッターボックスに入ります」
2者連続ホームランで勝ち越して、スタジアムの空気が一変した影響があったのか、代わって出てきたピッチャーはコントロールがイマイチ定まらない。
うちは労せずして、満塁というチャンスをいただいた。
そのおかげで………。
「新井さん、新井さん! お弁当買ってきましたよ!」
ベンチ裏から、宮森ちゃんが俺を呼んだ。
「仕事が速いね、宮森ちゃん」
「これでいいですよね、ビクトリーズDXサーロイン弁当。あと、そこの自販機でペットボトルのお茶も買ってきました」
「サンキュー」
受け取ったお弁当はずっしり重く、食欲をそそるいい匂い。
「宮森ちゃん、このデラサーはおいくらだったの?」
「2800円です」
「たかっ! そりゃこんだけ重いわけだわ」
カキッ!
「オッケイ、ナイバ…………ああーっ!正面かー!?」
「おしい、おしい!しっかり守っていきましょう!」
並木君はいい当たりのショートライナーに倒れてしまい、3アウトチェンジ。
俺はグラブとキャップを頭の上に乗せ、右手にサーロイン弁当、左手にペットボトルのお茶を持ってグラウンドに飛び出した。
えっほ、えっほ!
誰よりも早く1塁ベンチを飛び出した俺は、守備位置には向かわずに3塁側のエキサイティングシートに一直線。
せっかくの高級なステーキ弁当を崩さぬようにして、新井デリバリーは配達先まで無事に到着した。
エキサイティングシートの周りにいるお客さんはびっくりしている様子だ。
「あの、さっき、ファウルボールが飛んできてお弁当をひっくり返しちゃった方というのは?」
キョロキョロしながら俺はお客さん達にそう訊ねた。
すると、ワイシャツ姿の男性がすっと立ち上がりながら手を上げた。
「わ、私ですが……」
「あなたでしたか。大丈夫でした? ケガとかは………」
「あ、いえ。全然。軽く背中に跳ね返ったボールが当たっただけなんで」
「それは良かったです。これ、お詫びというわけで、代わりのお弁当持ってきましたので、良かったら召し上がって下さい」
俺がそう告げると、その男性は目をぐーっと大きく開けるようにしながら差し出した弁当を受け取る。
「いいんですか、もらっちゃって」
「ええ、うちのキャプテンが下手っぴなファウルフライを打ち上げたせいですから。あと、このお茶もどうぞ」
「ありがとうございます!」
俺は配達を終えると、周りの観客達にも手を振ってサービスしながらレフトの守備位置に向かった。
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