これは素晴らしい。
ショートの選手に追いかけられ、今度はファーストが来て、次にセカンドが来て……。
というところで俺は追い込まれた。
昨日、三本間で挟まれた時は後ろのランナーがいましたから、粘ろうと思いましたけど、さすがに今回は無理。
べちゅに俺は悪くないし。よりによってな場所に打った柴ちゃんが悪いし。
という気持ちで、足を緩めたのだが………。
目の前に見えたファーストベースのマークが甘かったので、最後にもうひと踏ん張りだけ頑張って見た。
すると、キャッチャーともう1人の選手が中途半端なポジションになり、頭からベースに滑り込むと、セカンド方面からきたボールが地面に落ち、なんと俺は生き残ってしまった。
「あっと! なんと、これがセーフになりました! どうしましたか、フライヤーズ守備陣!新井にタッチしてなんなくチェンジかと思いましたが……」
「今は、あの………ランナーの新井がね、一瞬諦めてスピードを緩めたんですよね。それを見てフライヤーズ側もアウトになったなと、集中を切らした格好になったんですけども。
タッチされる瞬間に、また新井が1塁に向かって走ったんですよ。ベースカバーがしっかり入ってなかったんでね。それで、今ベース上で選手が重なってプレーが遅れましたねえ」
「ああ、なるほど。それでは新井のトリックプレーのような形になったわけですね!」
「確かにかっこよく言えばそうなりますけど、フライヤーズ側の守備にちょっと油断があったと言った方がいいかも分かりませんね。しっかり最後まで追いかけてタッチするか、ベース上に2人いてもどっちかはっきりしたところにボールを投げればよかったんですが………。
どちらの選手もグラブが届く中途半端な位置になってしまいましたよね。
これがまた新井ではなくて別のランナーなら、問答無用で強くタッチしにいってアウトだったでしょうけど。新井だったんでね。昨日も新井が挟殺プレーになりましたし……。本当に新井とは不思議な選手ですよ」
「その新井の頑張りもありまして、ランナーが1塁に残って、2アウトですが打席には阿久津が入ります! 今日はここまで2安打タイムリーツーベースが2本で3打点。当たっています」
「阿久津がどの球種に絞るかですねえ。新井が打ったようにある程度インコース寄りの速いボールにタイミングを合わせるのか、変化球を引き付けて待つのか、楽しみな打席になりますねえ」
同点の6回。ここで勝ち越し点が入るようなことになると、ある程度信頼出来る勝ちパターンのリリーフ陣を送り込むことが出来るし、広元さんにも勝利投手の権利がつくし。
というところだったのたが、初球のストレートを阿久津さんは高く打ち上げてしまった。
やっちまった! と、叫びながら阿久津さんはフォロースルーの形のまま上空を見上げた。
打球はサード後方。ファウルグラウンド。風に流されながら、サードもショートも追い付くかというところだったが、エキサイティングシートの中に、サードの選手が飛び込んでいった。
場内がどよめく中、打球は地面に跳ね返って大きく跳ねた。
風があった分、ファウルボール。
危ない、危ない。
そして打球が飛び込んでいったエキサイティングシートのところで、ちょっとざわつき、3塁審判おじさんがどうしたのー?と、見に行く騒ぎになっていた。
「今、打球が飛びました観客席、大丈夫でしょうか。選手が1人打球を追いかけて、ちょっとエキサイティングシートの中を気にしているようですが、怪我はなさそうです。戻ってきます。
打球がどうでしょう。ファウルボールになったボールがもしかしたら、観客の方に当たってしまったのでしょうか。リプレイが出ますが………。
あっ、やはりそうですね。地面に跳ねて高く上がったボールが1番前にいた男性の肩か背中の当たりに当たってしまったようです。避けようとはしておりましたが。
今、近くの管理スタッフが確認に行きましたが、大丈夫そう。笑顔が見えています。
その当たったボールも後ろにいた他のお客様が拾いましたが、男性に渡されました」
「優しいですねえ。結構微妙なところに飛び込んだボールはちょっと取り合いになったりするんですけど、こういう光景を見ると安心しますねえ」
2球目。ストレートの後の外角低め変化球。きわどいコースに投げ込まれたがボール判定で1ボール1ストライクとなり、3球目。
カアアァンッ!!
「変化球、打ち返した! 左中間に上がった! 深めに守っていたセンターがフェンスまで下がって、いっぱいのところ!…………ジャーンプ! …………入った、入りました! 阿久津に、勝ち越しの2ランホームランが出ました!これはお見事!今シーズンの第16号です!!」
ナイス! キャプテン、ナイス!!
俺は踏み忘れなどしないように慎重にベースを回り、投げられたバットを拾いながらホームイン。
そのバットを頬擦りしながらキャプテンの帰還を待ち、俺のことを見ながら苦笑いしつつホームインした彼のおケツを思い切り叩いてやった。
「オッケーイ、キャプテーン!!」
「阿久津さん、ぜっこーちょー!!」
「ナイス、ホームラン!!」
「流石キャプテン、やってくれるよ!!」
不振に喘いでいた阿久津さんの猛打爆発に歓喜するチームメイト。ベンチに帰ってきた、俺と阿久津さんが腰を下ろしても興奮冷めやらぬという雰囲気の中。
カアァンッ!
またしても快音響く。
いっちょ前に確信歩き。
赤ちゃんの放った打球は、阿久津さんのやつよりも高く、遠くに。右中間スタンドの深くに突き刺さった。
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