これがみのりんよ。

「ごちそうさまでした。とても美味しかった。聞いていた話以上の腕前でした」




「お粗末様でした。ところで聞いていた以上の話とは?」




食後のお茶を出しながら、みのりんは不思議そうな顔を浮かべた。




「赤月がみのりん飯を食べたとみんなに自慢していまして。あいつそれからバッティングの調子も上がりましたし、そんなに美味しいのかと。油淋鶏が絶品だったと言っていましたので」





「なるほど。赤月くんでしたか。彼もキャプテンと同じように、ご飯をたくさんおかわりしてくれたので、喜んでくれて何よりです」




みのりんがそう言ったように、阿久津さんはご飯を4回もおかわりした。今日は真っ白なご飯でなくて、2キロで3000円する、高級スーパーに置いてあるいい五穀米のご飯。




さらに野菜スープも、グリルチキンも明日の朝ごはん用のをとっ返して見事に平らげたのだ。




「いやー、品数豊富で栄養満点でさらにこんなに美味い飯は久しぶりでしたよ。……ちゃんとこれからも大事にしてあげなきゃダメだぞ」




阿久津さんは俺の方を見てそう言ったのだが……。




「はい、心得ております。これからもしっかり食事を取ってもらって、もっと野球で頑張ってもらえるように大事にしていきます」





と、キラリと光らせながらみのりんが真面目に答え、俺と阿久津は揃って大笑いした。







翌日。





フライヤーズとの3戦目。




この日の先発はベテランの広元さん。しかし、先頭打者の藤並君にいきなりツーベースを打たれるなど、いきなり初回に3失点してしまった。




裏の攻撃。1番の僕ちんがセカンドゴロに倒れ、柴ちゃんがフルカウントからフォアボールを選び、1アウト1塁でバッターグリルチキンキャプテン。







その2球目。ベンチからサインは出ていなかったが、柴ちゃんがピッチャーのモーションを盗んでスタートを切る。





そして阿久津さんが打っていく。




形的にはランエンドヒットとなり、打球はライナーでライト線に入った。





スタートを切っていた柴ちゃんがグングン加速して2塁を蹴って3塁に向かう。ライト線のフェンス際でボールに追い付いたライトの選手が若干もたつく。




柴ちゃんが3塁を蹴る。





セカンドからバックホームされたボールがワンバウンド。




上手く捌いたキャッチャーがタッチに行くと、それを柴ちゃんが上手く掻い潜るようにして、スライディングを決めてホームインした。








「ホームはセーフ!1塁から柴崎が俊足飛ばして長駆生還。実に20打席ぶりのヒットとなる阿久津のタイムリーツーベースで、ビクトリーズがまずは1点を返しました!!」





「高めに浮いた球でしたが、上手く打ち返しましたねえ」








タイムをかけた阿久津さんがアームガードを外しながら2塁ベースを離れる。



その外したアームガードとフットガードを丸山コーチに渡した後、阿久津さんは1塁ベンチに向かって小さくガッツポーズをした。




しかし、それに応える選手がいない。




最初はベテラン仲間である、先発の広元さんやキャッチャーの鶴石さんに向かってやってるのかと思った。



しかし、2人はドリンクがたくさん入っている冷蔵庫の側で込みいった作戦会議中。初回にいきなりの3失点だから、かなり長々と断続的に話し合いをしていて、グリルチキンキャプテンに気付いていない。



もう1人のベテランである奥田さんはロンパオとキッシーと一緒に、今はお風呂に入ってるし。




仕方ないから、同じ釜の飯を食った仲間ということで、俺がそのガッツポーズに手を上げて応えた。





阿久津さんは2塁ベースに戻った後にそれに気づいた様子で、再びこちらに向かって小さくガッツポーズを見せた。





試合終盤、競った場面での会心の1打とかならともかく、ベテランの落ち着き、冷静沈着さがスタンダードな阿久津さんがガッツポーズをするなんて珍しい。




いきなり3点取られてがっくし来たところで、すぐさま奪った1点だから決して小さいものではないが。




外野の守備位置を確認してリードを取り始める阿久津さんの表情は、昨日までとは比べ物にならない程に勇ましい。






3回の守り。



2回は0に抑えた広元さんだったが、初回同様、2巡目の上位打線に連打を浴びてしまい、1アウト満塁のピンチ。




バッターは4番。1ボール1ストライクからの変化球を叩かれた。




打球は痛烈なゴロとなって3塁線、長打コース。




痛い追加点だと覚悟した瞬間。






バシッ!!





横っ飛び1番。完全にヒット性の打球を阿久津さんがスーパー反応からのスーパーキャッチ。ワンバウンドでグラブにボールを収めていた。




立ち上がりながら3塁ベースを踏み、1塁へ送球。かつて4度のゴールデングラブ賞を獲得した頃のとまではいかないが、真っ直ぐ強いボールが、ファースト川田ちゃんのミットにあっという間に届いた。




バッターランナーが土を巻き上げながらのヘッドスライディング。




一瞬間を置いてから、1塁審判おじさんが握った右手を大きく振った。







「よっしゃああぁっ! 阿久津さん、ナイス!!」




俺はそんな風に叫びながら、ダッシュで阿久津さんを追いかける。




「昨日と同じミスは出来ねえからな」





と、言いながら、阿久津さんは俺に向かって真っ黒のグラブを出し、ピンクグラブでタッグした。




「いやいや!今のスーパープレーですよ!今日のハイライト間違いなしって感じで」





「なんだか今日は体のキレ良くてな。みのりんにお礼を言っておいてくれ」







みのりんすごすぎ!



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