キャプテン、襲来。
「おっ、これが交流戦MVPの車か。カッコいいじゃねえか。どうよ、EV車ってやつは」
「まあ、2週間に1回くらいは充電スポットに行かなくちゃいけないのがめんどいですけど、単純にガソリン台浮きますし、結構気にいってますよ」
「俺も次はそういう車にしようかな」
「えー!? こんないい車乗ってるのに」
「俺だって、いつまでこんな贅沢なもん乗ってられ分からんしな」
と、阿久津さんが言ったところで、着信があった。
みのりんからだった。
すかさず出る。
「もしもし!みのりん、どしたー!」
「あの、いつもより帰りが遅いっていうのと、今日の試合結果から察するに、阿久津さんと自主練習してるんじゃないかと思って、もしよかったら、うちで晩ご飯どうかなって!」
相変わらず、鋭い読みとタイミング。
「阿久津さん、今からうちで飯食っていきませんか?」
「おっ、てことは噂のみのりん飯か?」
「はい、そうでございますよ、旦那様」
「そうか。迷惑じゃなかったら頂いていこうかな」
「おー、みのりん!阿久津さん、オッケーだって。今から帰るわ! はいはいお疲れ、またねー! …………よっしゃ!それじゃあ、行きましょうか」
「よっしゃ、 まさかみのりん飯にありつけるとはな!たまには夜練やってみるもんだよな」
ちょっと阿久津さん。あなたには元アイドルの奥様がいるでしょうに!
「ただいまー!阿久津さん連れてきたよー!!」
「おかえり〜! あっ、キャプテン! はじめまして! 山吹みのりです」
エプロン姿であるみのりんがトテトテとやってきて、この道17年目のベテラン選手を肩書きで呼称して、ペコリとお辞儀をした。
阿久津キャプテンもそれに合わせるようにして、頭を下げる。
「今晩は、ご馳走になります。手土産1つなくて申し訳ない。後日必ず……」
「いえいえ!もうこんな時間ですし、お気になさらないで下さい。さあ、どうぞ、どうぞ。そちらの洗面所で手洗いうがいをしていただいて……」
「分かりました。お借りします」
阿久津さんは丁寧に靴を脱ぐと、洗面所に入っていき、袖を大きく捲って、泡が出まくるハンドソープを手に広げ始めた。
「時くんもこっちでちゃんと手を洗って」
「りょーかい!」
洗面所から戻ってきた阿久津さん。ダイニングテーブルに並べられた料理を見て、一瞬たじろいだ。
「おおっ、すごい品数だ!」
「さあ、阿久津さん、どうぞ、どうぞ。そちらの椅子に」
阿久津さんは俺の隣の椅子に腰を下ろす。ギャル美が座る時よりも大きな椅子の軋み。
「ちなみに阿久津さん、食べられないものとかは」
「いやいや、お前と同じで何でも食うよ。アイスやコーラは別としてな」
「あら、残念ですわ。牧場の美味しいバニラがありますのに」
「お前は、気持ち悪い喋り方するな。ともかく、何でも好きな人間でして」
みのりんが1つ、コホンと咳払いをした。
「なるほど。それでは、阿久津さん。まずは、そちらの蒸し野菜から食べて頂いて、マヨネーズとカウダソースがありますので……」
「蒸し野菜、これですね。………おっ、いい歯ごたえで美味しいですね」
おててを合わせていただきますをした後は、眼鏡を掛けたお奉行様の言うことをしっかり聞かなくてはいけない。
いいレストランのコース料理なんかにもあるように、ある程度食べる順番を考えることによって、栄養吸収よく、たくさん食べられる。
お決まりのように、まずは蒸し野菜から。
去年に家電量販店で購入した、3万円のスチーマーでじっくり温められた、ブロッコリーやヤングコーンの歯ごたえは抜群で、マヨネーズやにんにくソースに付けたらさらに美味い。
阿久津さんは、そのバーニャカウダソースが気にいったようで、自分の小皿の分がなくなってみのりん分を分けてもらう程、蒸し野菜をバクバクと頬張っていた。
お次は、トマトと玉ねぎとツナのサラダ。さらには、お豆たっぷりのグリーンサラダも平らげて、ようやくメインのおかずへ。
今日は、オーブンで皮がパリパリになるまでこんがりと焼かれたグリルチキン。スパイスとハーブの香りが食欲をそそるみのりん自慢の1品。
ナイフで切り分けられたそれに、阿久津さんがかぶりつくと、溢れ出る肉汁に驚きながら、口いっぱいにチキンを味わっていた。
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