だいぶ年上ですけれど、これはおケツもんみですかねえ。
マウンドに上がっている小河というピッチャーは、右のオーバーハンド。コントロールのいいオーソドックスなタイプ。
昨日の神沢がギュインギュインとバッターを力でねじ伏せるタイプだったが、このピッチャーはコーナーにきっちり投げ分けて打ち取るタイプ。
俺からすれば、まだ相手にしやすいピッチャー。
問題は、昨日からどれだけ試合感が戻っているか。昨日は正直、神沢のボールがあんまり見えなかったですからね。
一応は2軍の練習場を使ったり、みのりんのお尻をペンペンしたりしながら、それなりにバットを振り込んできましたけど、やはり1軍の試合で思い通りにバットを振るのは難しい。
昨日はそんな打席しかなかった。
初球のストレートを見逃し、2球目、3球目はスライダーだった。スイングしていった結果、3塁コーチおじさんにキャッチされるゴロと、カメラマン席に飛び込むライナー。
共にタイミングはやし。
そしてその後のストレート。高めのボールだったが、差し込まれたバッティングになってしまった。
なんとか最後の瞬間に押し込んでは見たものの、ちょっとダメな打球。
「打ちました! ライトに上がった!流し打ち! ………ですが打球に勢いがありません。ライトが定位置からやや前に出まして掴みました、1アウトです」
あー! 打ち上げてしまった。
俺は力なくライトの選手の青いグラブに入る自分の打球を見てがっかり。
上げたらだめよ。あー、下からバット出ちゃったなあ。上から出して叩いていかないと。
1塁ベースを踏んだところでベンチに戻りながらバックスクリーンのリプレイを確認しつつ、拾われたバットを受け取る。
「新井さん、真っ直ぐすか? 動いてない?」
俺のおケツをバチンと叩きながら、赤ちゃんがそう訊ねる。
「真っ直ぐだね。4シーム。ちょっと振り遅れててたかな」
「あれっす。結構伸び上がってたというか、脇が甘かったっすね。当てにいっちゃってるみたいな」
「やっぱり? あー、まだ全然体の感覚戻ってないかもだわ」
「みのりんさんにがっかりされちゃいますよ」
「みのりん!?」
「ギャハハハ!」
「赤ちゃま。1度みのりん飯食ってるからって調子に乗るなよ!」
「へいへい。それじゃ、柴すけが打ったんで、俺も行ってきますね」
気付くと、柴ちゃんが上手く変化球を拾ってセンターの左に運んでいた。昨日から絶好調。打率も2割5分台に戻してきた。
確かにこの辺りでしっかりやれるところを見せておかないと、センターのポジションを誰かに奪われてしまうわけだからね。
やはり今の段階では、塁に出ればいろいろとうるさく出来る柴ちゃんがチームを勢いづかせないといけないからね。そうすれば後のバッターも助かるんだから。
問題は3番のおじさんですよ。
「初球投げました! ストライク!ん〜、真ん中のストレートでしたが、阿久津は手を出しませんでした」
「どんどんいいボールには手を出していって欲しいですけどねえ」
初球を簡単に見逃し、ちょっとまずいなあと思っていたら、2球目を阿久津さんは打ちにいった。
いや、打ちにいったというよりは、当てにいっただけという感じ。
外角低めのボールになりそうな変化球に手が出てしまった形だ。
打球はファースト正面のゴロ。逆シングルからの2塁へのナイスな送球からダブルプレーが完成してしまった。
2回、ビクトリーズの守り。2アウト1、2塁。バッターは8番。変化球3つでカウント1ボール2ストライクと追い込み、碧山君と鶴石さんは、もう1球変化球を選んだ。
外いっぱいのところに逃げるスライダーを左の小柄な体格のバッターは、おっつけるように打ち返して3塁線へ。
3塁線ギリギリのフェアゾーンだが、バットの先。それほど速い打球ではなかった。
だが、阿久津はさんはその打球に対して、体を半身にするようにして構えた。
レフトから見ていた俺からすれば、打球が通り抜けそうなコースが見える嫌な予感。
人工芝と土の境目で跳ねたボール。
阿久津さんはようやく反応。
転がるようにしてグラブを伸ばしていったが、打球はその下を抜けてしまった。
3塁審判おじさんが、フェアグラウンドを何回も指差す。
あんまりパワーのない左バッター。若干前目に守っていた俺の足では追い付けず、打球はレフト線を切れるようにしながら、フェンスまで到達した。
フェンスの角っちょの角っちょ。守備練習の時のおサボりゾーンに入ったボールを拾い上げる。
映像で見れば、ボールを拾う俺のお尻だけが写し出されるサービスタイム。
1塁ランナーも3塁を回る。
そんな俺がぶん投げた送球。赤ちゃんの頭を超え、その後ろで待っていた阿久津さんがポロった。
その間に2人目のランナーがホームイン。ビクトリーズが2点を奪われてしまった。
その後は、碧山君がなんとか踏ん張って追加点は許さず。
俺はちょっとがっかりする碧山君の背中を擦るようにしながらベンチに戻った。
ちょっとまずい守備になってしまった阿久津さんも、碧山と鶴石さんにそれぞれ謝る。
そしてベンチに腰を下ろし、帽子を外してドリンクに手を伸ばす阿久津さん。そのドリンクが、俺の飲みかけだと気付かないくらいに、どこか集中を欠いてしまっている。
そんな様子だった。
「8番、セカンド、並木」
カキッ!
長野の片田舎にある喫茶店の長男坊が放った打球は、三遊間を真っ二つにした。
そして、9番ピッチャーの碧山がナイスバント。
1アウトランナー2塁となって俺に打順が回ってきたのだ。
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