そういうこともありますわよね。

まずいな。




一応休んでた間の後半は、2軍の練習場に行って、協力してくれた若手のピッチャーに速いボールをビュンビュンと投げ込んでもらって、目鳴らしはしてきたつもりではあったんだけど。




今シーズンも沢村賞最有力のピッチャーはちょっと違いますわ。まだスライダーとか、フォークとか色々エグいボールはあるのに、ストレートだけで三振を喫してしまうとは。






そういえば、初めて三振食らったのも神沢だったっけ?





腹立つわー。







カキィ!





鶴石さんとのサインの交換を終えたうちの18番連城君が2塁ランナーの動きを見ながらセットポジション。



2度、ホーム方向から2塁方向へと首を振ってから投球動作に入り、投球モーションに入る。




インコース低めのいいコースにストレートを投げ込んだが、バッターの藤並君がそれを上手く打ち返す。




打球は三遊間。ショートの赤ちゃんが飛び付くも僅かに届かずに、打球は抜ける。





スーパーレーザーチャンス。





2アウトランナー2塁。俺がいるレフト前に転がるヒット。フライヤーズの3塁コーチおじさんがもう打球が抜けた瞬間からぐるんぐるんと腕を回す。



俺はある程度しっかりと前にチャージしながら、ボールをピンクグラブに納め、少し大きめのモーションながらワンステップでバックホームした。






「レフトの新井からワンバウンドでいいボールが返ってきました! クロスプレーになったぞ! アウト、アウトだー!…………しかし、しかし、北海道フライヤーズ、粟山監督がすぐに出てリクエストを要求します!」





よっしゃー、プロ野球史上最強のレーザービーム炸裂ぅ! と叫びながらベンチに向かってダッシュ仕掛けたのだが、フライヤーズさんから物言いが入った。



俺のスーパーバックホームに盛り上がったビクトリーズファンも水を差された格好となり、スタジアムは静まり返る。






「えー、責任審判の辻田です。ただいまのプレーで、フライヤーズ粟山監督からリクエストがありましたので、リプレイ検証に入ります」





4人の審判おじさんが我先にとバックネットに駆け込んでいき、センターから柴ちゃんが来た。




「新井さん、なかなかいいバックホームでしたね。コントロールばっちりだったじゃないですか」




お兄ちゃんやるやんけと言いたげに、柴ちゃんは外野手用の長いグラブの先で俺のおケツをつついた。




「確かに横のコントロールはよかったけど、ちょっとバウンドが高かったよね。もうちょい低ければ文句なしでアウトだったんだけど」




「いやー、あのバウンドはもう仕方ないっすよ。ほら、映像出ますよ」






腕組みをしながら、バックスクリーンに写し出されたリプレイ映像を眺める。



バックネットのちょっと右側からの映像。3塁を回ってきたランナーがファウルグラウンドの方に少し進路を変えるようにしてヘッドスライディング。



ボールを受けた鶴石さんが体を捻るようにしながらランナーの手にミットを伸ばす。



それを掻い潜りながらのベースタッチが写し出される。




「……ああー……!!」




ため息混じりの歓声を上げたのはビクトリーズファンの方だった。




逆に………。



「よっしゃあっ!」



「セーフ、セーフじゃない!?」




そんな風に喜んだのはフライヤーズファン。




俺の横で同じくバックスクリーンを見上げる柴ちゃんも口が半開きになっている。



やっぱりコリジョンがありますから、キャッチャーはブロックに移れないタッチプレーの中で、僅かではあるが鶴石さんのタッチよりも、ランナーの伸ばした手がベースに届いているように見えてしまった。




鶴石さんのタッチがあれだったというよりも、ランナーが抜群のスピードでここしかないところに手を伸ばしていったという印象。





審判おじさんチームが出てきた。




バックネットから走りながら出て来て、ホームベースを指差し、腕を大きく広げたのだった。







結果的にセーフだったとはいえ、最初アウトと言われたものはやっぱりよく見たらセーフだったので、ソーセージの会社に1点ですと言われるとなかなか厳しいもの。




しかも3アウトチェンジだからと、ベンチに帰るところだったからね。



その後はなんとか連城君が後続のバッターを打ち取って、ビクトリーズのチャンスは3回裏。



1アウトランナーなしで、柴ちゃま。





カキィ!




低めの変化球を弾き返すナイスバッティング。



打球は低いままグイーンと伸びていって、ワンバウンドでライトフェンスに当たる打球。





あっという間に2塁へ楽勝で到達し、スタンドから拍手が起きる。




シーズン終盤に来て、よく振れているようだ。




なんとか俺も続いて得点チャンスを広げていかなければ。





ランナーを得点圏に置いて、神沢のピッチングはギアを上げる。



ここにきてまた150キロオーバーのストレートを投げ込みながら、得意のスライダーや落ちるボールで決めようとする。



しかし、俺も負けてられない。





カシッ!





カッ!





バキッ!






バットを1本折りながらも、必死に神沢のボールに食らい付いていた。前の打席は三振してますから、特にね。続けてやられるわけにはいかない。





力んだり、ワンバウンドしたフォークボールを見極めながらの9球目。



インコースストレート。打ちに行きかけたが、若干シュート気味だったので、バットを止めて見送った。











「ストライク! バッターアウト!」







……ええ。

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