あっ

「よっしああぁぁっ!!」



「うおおっ!? マジかよ!!」



「すげえ弾道だ!!」





球界でも何年に1回あるかないかのランニングホームランの直後の初球に見事なホームラン。シェパードの離脱がなんぼのもんじゃないと。




ワシがいるんじゃ!この川田がいるんじゃ!




という意地を見た。




川田ちゃんが涼しい顔でホームインすると、何すかしてやがんだと、チームメイトから手荒い祝福。



いつものお返しとばかりに、俺も川田ちゃんのデカイおケツを揉む。




「やったな、川田ちゃん!でも、これで満足するなよ!」




「あったりまえじゃないすかっ!まだまだ打ちますよ!」






よし、これで2点差だ。






後は、ロンパオ、キッシー頼むぞ。逆転されんなよ。今日はマジで頼むよ!








「空振り三振!! 最後はやはり得意のフォークボールでした!スカイスターズ、ランナーを3塁まで進めましたがここまで!最下位ビクトリーズ相手にこのカード負け越しまして、3位東北レッドイーグルスとの差が4Gに開いてしまいました!



ビクトリーズは序盤に大量点を許す展開になりましたが、粘り強くコツコツと得点を返し、8回の1発攻勢で一気に逆転! ベテラン左腕の奥田に久々の2勝目が付いています!」





よっしゃ、よっしゃ!早く宇都宮に帰りまっせ〜!






翌日はビクトリーズスタジアムに帰りまして、埼玉ブルーライトレオンズさんとの3連戦。



試合前のバッティング練習を終えた俺はミックスエリアで記者からの取材に答えていた。




「お疲れッス! 週間東日本リーグの大本ッス!」



「おうっ!大本ちゃんおつー!」





「新井選手は、昨日までのスカイスターズ戦で再び規定打席に乗りまして、今の打率は4割8厘。ペナントレースもあと1ヶ月ちょっとッスけど、ズバリ打率4割を達成出来る自信はあるッスか?」



「もちろん相手がいての勝負なんで、そうそう簡単にはいきませんし、やってみないと分からない部分は常にありますけど、結構調子はいい感じなんで目指していきたいですね」




「プロ野球ガイドの須本です!」




「おおっ、ガイドの須本さん!お疲れっす!」




「去年今ごろの時期は少しヒットが出ない期間がありましたが、その辺りの対策は……」



「まあ、去年のあれは時期的な問題というよりは、執拗にインコース攻めを食らっていたのを意地になって力で打ち返そうとしていた若気の至りみたいなものですから。


そのインコースを無理やりヒットにしなきゃいけないわけではないですし、ファウルで凌いだり、センターに返したりして、とにかく自分らしいコンパクトなバッティングをするだけですよ」




「なるほど。ありがとうございます」




「いえいえ」




「えー、プロ野球ダイジェストの前田です」




「はい、どうぞ」




「最近のデータだと………」







取材はいつもより長く続いた。








「さあ、間もなく北関東ビクトリーズ対埼玉ブルーライトレオンズの試合が始まります!


スカイスターズ相手に敵地で勝ち越してホームに戻ってきたビクトリーズと、ホームで横浜ベイエトワールズに負け越して宇都宮にやってきたブルーライトレオンズの試合です。解説はお馴染みの大原さんです。よろしくお願いします!」




「はい、よろしくお願いしまぁす!」





「今シーズンも残りどの球団も30試合ほどとなりまして……」






1回表、フォアボールを2つ出しながらも無失点で凌いで、1回裏のビクトリーズの攻撃。





今日の埼玉さんの先発である、駒井というピッチャーは技巧派のサウスポー。俺からすれば、シーズン後にお歳暮を送りたくなるくらいの大好物なピッチャー。




そのお歳暮の中身も、洗剤や油ではなく、ブランド牛の盛り合わせセットみたいなものを送ってあげたいね。




そんなわけで、今日のビクトリーズの1番は柴ちゃんではなく、右バッターの並木君。スカイスターズとの試合では見事なホームランを打ちましたし、いきなりガツンとかまして欲しいですわよね。







カキィ!





「打ったー!痛烈な当たり………も、セカンドの正面のライナーでした、1アウト。並木、非常にいいバッティングは見せましたが、惜しかった!!」




ほぼ真ん中のストレートを打っていった並木君の無念は俺が晴らす。






「新井も速いボールを打っていった! 流し打ち、いい当たり! ですが、セカンド豊田へのライナーでしたー」





俺もかよ。








埼玉さんの先発ピッチャーに対し、1番の並木君と2番の俺が見せた通り、いい当たりをされながらも、飛んだコースがよかったり、野手のファインプレーに救われたりとそんな立ち上がりになっていた。



うちの先発である千林君も、ランナーは出しながらも最後を踏ん張って相手に得点許さず。




3回裏、ビクトリーズの攻撃。





打順は8番の柴ちゃんから。




打率が2割3分台に落ちてしまい、トップバッターを外された彼の意地のスイング。



会心の当たりではなかったが、右中間の真ん中へしぶとく落とすヒットを放った。





1塁ベースを踏んだ柴ちゃんに笑顔はなく、打順を下げられた悔しさというか、妬み嫉みみたいなもので険しい表情になっている。




いつもそのバッティングをやれ。





先制点へノーアウトのランナー。9番ピッチャーの千林君が、1塁側へナイス送りバント。




1アウト2塁として並木君。




1ボールからの2球目。低めの変化球を打ち返した。




カキィ!




1打席目同様、快音が響く。



打球は三遊間へ。サードが横にステップした後に飛び付く。グラブは届いたが、その先からポロっとボールがこぼれた。




立ち上がってボールを拾いにいくサードに、ショートの選手が………。



「ランナー!ランナー!」




と叫んだ。




それに反応したサードがボールを拾った右手で3塁を狙っていた柴ちゃんにタッチする!

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