第50話「ボクはまちがっていたの……?」





 第五十話『ボクはまちがっていたの……?』





 石川や

 浜の真砂まさごは尽きるとも

 世に盗人ぬすびとの種は尽きまじ……


 安土桃山時代の大盗賊、石川五右衛門がんだ辞世の句。


 海辺を覆う無数の砂粒が尽きる事はあっても、世界から盗人が消える事は無い、五右衛門は死の間際にそううたったとされる。



 彼の予言めいた辞世の句は間違いではなかった。『盗人』の部分を『悪人』に変えても同じだろう、恐らく今後も悪人が尽きる事は無い。


 五右衛門が言う『世』から悪人が尽きる事は無いだろう。


 セゾン三世が治める国も、シャズナブルが治める帝国からも、悪人が消滅する事は無い。一時的に居なくなっても必ずまた現れる。


 悪に染まる存在が居る限り、根絶は難しい。


 しかしそれは『悪』と言う概念があって初めて『悪人』と言う存在が認識されるとも言える。


 そして、善悪の概念があって初めてその対比を論じる事が出来る。善悪どちらを支持するのかは人々の価値観による。


 善悪は片方からの視点だけでは論じる事は出来ない、常に表裏一体、『善人だけ』や『悪人だけ』の世界は存在しない。最低でも『善悪の二元』は必要だろう。


 だがしかしっ、その不可能な『一元論』で新世界を構築出来る神が居た。


 しかも善悪ではない『イズアルナーギ一極一元』のとがり過ぎた世界の創世っ!!


 世にイザークの種は尽きまじっっ!!

 不可触神の眷属以外はクルクルパーのペットっっ!!


 イズアルナーギが気に入ったモノ以外はゴミっ!!


 モノの善し悪しは語らず、モノのイズアルナーギを語るっ!!



“その言葉にイズアルナーギは有るのですか?”

“君の行いはとってもイズアルナーギと言える”

“朝の挨拶は基本的なイズアルナーギですよ?”

“それって貴方のイズアルナーギですよね、ソースは?”

“こんなイズアルナーギはもう沢山だっ、離婚するっ!!”



 そんな会話が成立する恐ろしい世界っ!!

 イズアルナーギの眷属以外は頭がオカシクなる世界っ!!


 だがそこに、五右衛門が予言した存在は居ない。


 使徒眷属は善も悪も無い、常にイズアルナーギ至上主義。

 それ以外は善人も悪人も全てクルクルパーなのだ……

 コネコネされて善悪もクソも無い神兵しか居ないのだ……



「わぁ~、悪い人が居ないの? イザークは凄いねぇ~」



 大聖母サテンは愛息の創世を称えた。

 悪人は居ないが善人も居ない創世を称えたっ!!


 母の称賛に気を良くしたイズアルナーギが気合を入れ直して創世を進める。


 それを温かく見守る使徒の中で唯一ツッコミを入れたのが黒騎士アルトゥイだった。『その世界の住人になりたくないかなぁ』とっ!!


 街を歩けばコネられたクルクルパーの住民しか居ない世界っ!!


 そんな場所は御免だと、空気を読まない事に定評の有る黒騎士アルトゥイは物申すっ!!



『それって住民はゴーレムでも良くないっスか?』


『何ならイザーク殿下がロボ住民創れば良くないっスか?』


『殿下&聖母様&正妻様、使徒&使隷、その他眷属、神兵、最下層にゴミ……の五層構造なんてどうスか? クルクルパーと一緒って何か嫌だなぁ』



 そんな事をつい口走ってしまった比較的軽いサイコの黒騎士アルトゥイっ!!


 比較的軽いサイコ三羽ガラスの二羽目、傭兵デイラムも禿げ上がるほど同意。


 比較的軽いサイコ三羽ガラスの三羽目、義賊トトナルカも嬉し気に頷く。ちなみにデイラムとトトナルカは大人の関係だっ!!


 三羽ガラスの比較的真っ当な意見に愕然とするイズアルナーギ。



「ご、ごかいそう、こうぞう……ッッ!!」



 主君の悲し気な顔を見た白騎士ウルダイと女官長カーリヤが、頭を搔きながらヘラヘラ笑って新妻人魚姫ユイリンとイチャつく黒騎士アルトゥイの両腕を掴み神域の訓練場へ引きずって行く。



「あぁっ、あなたーっ、死なないであなたーっ……」



 人魚姫の哀哭あいこくが神域に悲しく木霊こだます。


 傭兵デイラムと義賊トトナルカは王太女オルダーナに【固定】されて訓練場へ連れて行かれた。



“お兄ちゃーん、死なないでお兄ちゃーん……”

“お姉ちゃーん、死なないでお姉ちゃーん……”

“逝く前に十時のオヤツを用意してお兄ちゃーん……”

“逝く前に三時のオヤツを準備してお姉ちゃーん……”



 デイラムとトトナルカが救った孤児達の悲痛な叫びが教皇モッコスの股間に鋭く刺さった。安心しなさいキッズ達よ、さぁ、あっちで栗の花の香りがする料理を振る舞おう。


 混沌とするイズアルナーギの『秘密基地(モロバレ)』内、悲しむ可愛い夫の横に立つ闇の女王オマーンは落ち着いた様子で呟く。



「俗物共が……シャズナブル、進捗しんちょくはどうか?」



 偉大なるイズアルナーギの寵愛を受け過ぎて吸血鬼を辞めちゃった感のあるオマーン。大聖母サテンに次ぐ実力者として神域に君臨する不可触神の妻が息子に問い掛けた。


 そんな母の背後に控えていた魔皇帝シャズナブルがオマーンの耳元で小さく返答する。



「秋に入る頃に西エイフルニアはちそうです」


「遅い、夏が終わるまでにとせ」


「使徒をお借りしても?」


「理由は?」


「高難易度ダンジョンが一つ」


「フン、私が出る」


「ハハハ、ならば西側の制圧は十日ほど早まりますな」


「よく言う」



 少しばかりバイオレンスな母と息子の会話だが、二人はこれでも楽しんでいる。


 オマーンとシャズナブルはイズアルナーギの創世で消費されるであろう生体燃料と、その消費量を抑える為の神格上昇をイズアルナーギに捧げるべく、迅速な大陸制圧に向けかじを取った。



 この二人と同等の行動を取ったのはポアティエ王国のセゾン三世、そして王女イルーサと大巫女緑夢グリムだ。ちなみにオズゥは妊娠中。


 セゾン三世の蒸気船艦隊が地中海から大洋へ進出、南下して海岸沿いの国々を砲撃、相手が白旗を上げるまで延々と艦砲射撃を続けている。


 イルーサと緑夢は『治安維持』と『弱者救済』をうたい文句に地球で大暴れしていた。


 治安維持はイルーサとその兄姉が『戦隊』を組織して主にマフィアを血祭に上げ、弱者救済は緑夢が『イ神協職員』を貧困地域等に派遣して神の奇跡を実践して回った。



 彼らの働きはイズアルナーギの創世を大いに助けている。


 サイコな幼神が創造する楽園の完成はもうすぐ。







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