第48話「恐れよ、我が国の新兵器だーっ!!」





 第四十八話『恐れよ、我が国の新兵器だーっ!!』





「アレは我が国が開発した物だ」



 八月某日、午後二十時、日本国九州地方の遥か上空に浮かんだ『月』に世界が仰天した直後、日本国の隣に在る大国がそんな声明を出した。


 続いて、もう一つの隣国も同じ声明を出す。しかし、世界は両国の声明を無視した。


 現代の科学技術で建造出来る物ではなかったからだ。


 しかも、その『月』は九州上空から動かない。正確に言えばイズアルナーギ神宮の真上から動かない。


 地球の自転周期と同じ周期で公転している、とは言い難い。敢えて言うならば『現在はあの位置に在るだけ』、自転も確認出来ない。


 とにかく不気味で神秘的で不思議な物体。


 そんな物体を指して隣の大国は言った、『アレは日本の軍事大国化を見張る物である』と。


 それにならってもう一つの隣国も言った、『アレの調査には我が国から許可を得る必要が有る、ただし日本は許可しない』と。


 世界は再び両国の言い分を無視した、『言ってろ』と。


 世界中に居る権力者の大半には分っていた、神宮の真上に出現した時点でお察しだ。静観するが吉。


 緊急に開かれた国際会議でも八割の国家が静観を支持、残りの二割が共同調査や所有権を主張。


 その会議の中で、非静観派の二割に属するとある国家の外相が口を滑らせる。



「アレは最近噂のカルト宗教に……人民の心を惑わせるイズアルナーギ神道に、我らが神が天罰を与える為に遣わした『神の目』ではないのか、アレの中央に有る黒い円はカルトの『神宮』を見ている『神の瞳孔』であるように思えてならない」



 起立して堂々と持論を展開する外相。

 非静観派から拍手が贈られる。


 そして――


 外相は言葉を終えると同時に人外へ転生した。


 ムカデ人間となった外相は椅子に座り直し、ひたいから伸びる二本の触覚を揺らしながら姿勢を正す。体の側面から無数に生える細い腕がウネウネと動き、見た者を戦慄させ恐怖を与える。


 会議に出席していた者は言葉を失い動けなかった。


 比較的冷静と言えたのは日本の出席者数名のみ。それでも絶句している。


 例の隣国両国の代表は席を外し本国に連絡、両者とも本国に対して声明の撤回を求めるが逆に罵倒されて絶望を覚えた。


 現実に起こった事を正直に話しても信じて貰えない、遠回しな政治的表現で『世界中から批判がある』と言っても無理、直接的に『我々は死ぬぞ』と説明しても馬鹿を言えと一蹴される始末。


 両国の代表団はその日のうちに亡命を決意、家族の安否など気にせず無我夢中で伝手つてを頼り祖国を捨てた。




 緊急会議の翌日、ムカデ人間と化した外相の祖国に『神の瞳孔』が向けられ、その瞳孔から放たれた一筋の光によって約三百万人が蒸発した。


 東アジアの小国に下された天の裁き、連日のビッグニュースに世界中が驚愕する。


 だが、天の裁きはなお続く。


 カルト宗教呼ばわりされて黙っている神の眷属は居ない。


 オマーンとオズゥを除く九使徒の降臨。


 偉大なるイズアルナーギを侮辱した罪は必ずつぐなって貰う。


 天から舞い降りた怒れる九使徒が愚かな国に鉄槌を下す。


 見えない強固な壁によって塞がれる国境、封鎖される海岸線。


 使徒によって続々と召喚される神兵の大軍が、怒涛となって国を呑み込む。


 使徒や神兵に向けられた銃火器による一斉射撃、幾万の銃弾が王太女オルダーナの【状態維持】能力で空中に止まる、射撃体勢のまま兵士の動きが止まる、【状態維持】を解除された頭部を狙って使隷ペルゥが『イザークン44マグナム』の引き金を引いて回った。


 黒騎士アルトゥイが大剣を横に振り【断絶】を使って一軍を両断、白騎士ウルダイは【貫通】が乗った大剣を振り回して敵兵を虐殺。


 義賊トトナルカが【強奪】能力で物資を根こそぎ奪い、傭兵デイラムが持つ【統率】能力で大勢の使隷を手足の如く動かし軍事施設を破壊。


 教皇モッコスが自軍全体を常時【回復】、女官長カーリヤが短剣を振り下ろし【全体攻撃】で視界に入った敵兵を惨殺した。


 王女イルーサは右肩にテナーギを乗せ、お気に入りのアニキャラグッズで身を固め、可愛らしいスキップで前進しながら視界に入った敵兵を【圧縮】で潰して回る。


 大巫女緑夢グリムは日本の小さき神々に身を護られながら、『死ね』の一言を【言霊ことだま】に乗せて無差別虐殺。イズアルナーギに次ぐサイコパスに慈悲の二文字は無い。





 使徒襲来は世界中のメディアが生中継した。

 一般人が虐殺風景をネットに上げた。


 使徒や眷属達は他国の取材陣や旅行客等を攻撃せず放置、わざと泳がせる。


 明らかに人間とは違う神兵(甲虫兵含む)、その身体能力に世界中がド肝を抜かれた。


 九使徒に至っては言わずもがな。魔法と言われても納得の『力』をこれでもかと見せつけられては、人類との『次元の違い』を認識する他ない。


 そして、イルーサの右肩に乗ったその『幼神』を認識出来た者が世界中に何人居るのか不明だが、領域に入った生物や死体を神域に送り、新たな神兵として使徒に与え続けていたテナーギが最も恐ろしい存在だったのは言うまでもない。




 使徒に滅ぼされたその国は、天罰完遂時に『生物』が消えていた。国民は勿論の事、兵士の死体も動物も昆虫も微生物も、全て消えていた。助かったのは領海を泳ぐ海の生物のみ。


 その恐るべき事実に世界は震え上がる。


 しかし、『月』の所有を宣言した二国は少し違う。


 両国とも政府首脳陣は怖気おじけ付いたが、メンツにこだわる国民性故か、国民向けには強気な姿勢を崩さない。使徒襲来の映像も厳しく取り締まり国内での情報蔓延を阻止。


 対外的には『月型要塞が敵対勢力にジャックされた』と意味不明な苦しい声明を出し、飽くまでも所有権は自国に有ると言う姿勢を崩さなかった。


 ただ、使徒襲来の翌日から積極的に『イ神協』へ接触を試み始めた模様。


 イ神協代表の緑夢は面会した両国の政府関係者に『国に帰って家族を殺して死ね』と言う有り難い言葉を贈っている。



 両国では政府高官とその家族を巻き込む悲惨な事件が多発しているようだ。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る