第45話「あの夏が始まる」





 第四十五話『あの夏が始まる』





 イズアルナーギが生を受けて二度目の夏。


 ポアティエ王国と大不可触帝国エヒ・ヤナトゥル・オルスが起こした侵略戦争以降、両国は地中海周辺国家と半島北側の山脈を越えた大陸西部一帯を支配し、今現在も止まる事無く支配領域を増やし続けていた。




 占領地で真っ先に建てられるイザーク神殿とイザーク大社、属神の豊穣神パイエを祀るアルパイエ教会も必ず近くに建てられる。


 イズアルナーギから与えられる加護は、加護を得た人々からすればその【加護等級】に関わらず貴重なモノだが、イズアルナーギからすればどれもゴミのような恩恵に過ぎない。


 そもそも加護に等級を付けると言う愚かな行為は人間が勝手にしたもので、イズアルナーギやモッコス等は一切関わっていない。


 イズアルナーギの加護はその信仰心によって『トンデモ度』が変わる。イズアルナーギの加護設定は他の神々とかなり違う。


 一般的には【火に強い】や【筋力○○%上昇】のように、加護の恩恵を固定されたまま人々は一生を終える。


 実際、パイエの加護を得た者は一般的な加護しか得られていない。


 例外は神のお気に入りになった存在や、神の神格が上がった場合、また、加護を得た存在の変質・昇華があった場合だ。


 イズアルナーギの加護はそれらの条件を無視して信仰心のみを査定対象にしている。無論、イズアルナーギや肉塊に興味を持たれた者はその限りではない。


 幼神をあがたてまつる事によって得られる加護の恩恵は所謂いわゆる『異空間への収納能力』だ。


 本来、この能力は『異世界人ゆうしゃ』や『転生者』にしかそなわらない固有スキル。ただし生物が入らない、これは収納系スキルや魔道具に繋がった神域倉庫側が下界の生物を弾くからだ。


 だが、イズアルナーギから授けられた『収納能力』は『不思議空間への収納』であってスキルですらなく、何を入れても構わないと言うブッ壊れ能力。


 そのトンデモ能力に人々が付けた等級とは、すなわち体積や最大収納量等の多寡たか。その数値が大きければ上等、小さければ下等、舐めた話である。


 舐めた話ではあるが、皮肉な事に『等級絶対論者』の多くは信仰心があつい。その上イズアルナーギがまったく気にしていない。モッコスや緑夢グリも主君にならって気にしない構えだ。


 とにもかくにも、不可触神の加護は『不思議空間』がそなわると言う万人が重宝する能力だった。


 たとえ30㎝四方の立方不思議空間だったとしても、老若男女問わず『入れたい物』を入れておける、『隠したい物』も『少しの間だけ仕舞う物』も、『とにかく何でも』入れておけると言うのは便利と言う以外に無い。


 不思議空間と言う能力は使い勝手が良すぎた。しかも、善人悪人関係無く授かる能力だ。


 当然、イズアルナーギやその眷属に対し悪意が有れば加護は貰えないが、授かった後の使い道にイズアルナーギは関与しない。不利益を確認した時点で肉塊や使徒が裁く。イズアルナーギが動く前に裁くのがコツだっ!!



 イズアルナーギの加護は商人や荷運びを生業なりわいとする者には大人気。商売の神などより人気が高い。狩猟関係者や軍人にも人気が有る。


 眷属神パイエの加護も子作りや農林業等で役に立つが、パイエの場合は彼女が大地に注ぐ慈雨の恩恵が絶大なので、加護よりも喜ばれている。


 このように、幼神と豊穣神の分かり易く目に見える恵みと御利益に人々が飛び付くのは必然だろう。


 大陸西部で人気の高かった神々はイズアルナーギが滅ぼした。


 滅ぼされた神々を信奉していた人々を救済出来るのは、その地域に信仰を広めた不可触神と眷属神のパイエのみ。ただでさえ人気の二柱が支配地の信仰心を独占する形になった。


 神々の神核を取り込んで更なる高みへ昇った幼神は、体のムズムズ解消の為に母や使徒に生体燃料を注入しまくり、ついでにナマイキな神々を滅ぼして回る。そしてムズムズ解消の生体燃料注入と言う極悪ループ……


 豊穣神パイエは主神の人気にぶら下がって以前にも増す信仰心を得られた。


 神格が上がったパイエは胸の大きな格下の女神達を脅して蟄居ちっきょを命じ、敬愛するイズアルナーギの目に入らないように神界を飛び回ったが、彼女の背後には二千年処女が居たようだ。


 イズアルナーギの故郷惑星と『浅部第101宇宙域しんかい』の夏は、幼き不可触神一強時代の幕開けとなった。



 しかし、地球圏神域を統括する『辺境第116宇宙域』と、エイフルニア大陸が在る惑星の神域を統括する『浅部第98宇宙域』は、イズアルナーギの一強とは言えない状況だ。


 辺境第116宇宙域には多くの古代神が居る。


 そして浅部第98宇宙域には……




「母上……」


「このプレッシャー……」



 南エイフルニアの海で海水浴を楽しむイズアルナーギの左右に控える妻と息子、二人は同時に北東の水平線を睨み付けた。


 オマーンは古い記憶と知識を擦り合わせる。



「……【スマップの森】、地竜がむ大森林か」


「あぁ、森を塞ぐ長城が在ると言うあの……しかし、先ほどのアレは地竜如きのプレッシャーでは御座いますまい」


「クックック、貴様に似たプレッシャーだったがな」


「……フッ、なるほど、面白い」



 妻と息子の会話に関心を寄せず、イズアルナーギは巨大な亀を捕獲して御満悦だった。なかなかコネり甲斐のありそうな亀である。



「むむむっ!?」



 イズアルナーギはひらめいたっ!!


 これを日本のカブトムシとコネれば……

 頭と脚を甲羅に引っ込めるカブトムシが出来るのではっ!?


 それってカッコイイのではっ!?


 しかしここで肉塊が水を差したっ!!


『逆で良いじゃん』とっ!!

『亀にツノ付ければ良いじゃん』とっ!!


 イズアルナーギはひざから崩れ落ちたっ!!



「イザークっ!!」

「父上っ!!」


「んっ、負けないっ……」



 オマーンに抱きかかえられたイズアルナーギ。少し涙目だっ!!


 甲蟲のカッコ良さを求めたイズアルナーギと、合理的なコネり方を追求する肉塊。


 仁義無き不毛な戦いはコッソリ続くようだ。



 イズアルナーギの熱い夏がまた始まる。










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