第44話「素敵すぎワロタ」





 第四十四話『素敵すぎワロタ』





 五月、日本もポアティエ王国も南エイフルニアも五月。

 次第に緑が目立ち始める季節になった。


 最近、イズアルナーギは体がムズムズする。


 三惑星でのイズアルナーギ信仰が急激に増えた事による『成長ムズムズ』であった。


 人口の母数がダントツに多い地球からの信仰が、最もイズアルナーギをムズムズさせている。『明確な神の存在』を認識した地球人の信仰力は凄まじいものがあった。


 イズアルナーギ神道が広まった地域では、古くから多くの信仰を集めていた宗教の主神にイズアルナーギが置き換えられる事もしばしば。


 またはイズアルナーギと主神が別の存在と認識しつつも、その事実と名を隠したまま都合良く主神として祀り続ける場合もある。


 だが、そんなに美味い話は無い。


 イズアルナーギ神道の別天津神ことあまつかみたるイズアルナーギ大御神以外をあがめても、イズアルナーギがもたらす神の奇跡は手に入らない、奇跡を経験出来ない、それを見る事すら出来ない。


 結果、奇跡と利益をたまわる事が出来るイズアルナーギ神道に人々は流れ、信徒を騙していた宗教はすたれ神界に住まう主神も力を失う。


 欲にまみれた信仰心など、本来は神にとって不要、不可触神にとってのそれは気にした事も無いゴミ以下の概念、成長の足しにもならない。


 イズアルナーギ神道がオークションで出品する数々の下賜かし品は、そんなけがれた信仰心を持つ者が多く参加するが、その参加者はほとんどが富豪や権力者、影響力と言う点では申し分ない。


 影響力を持った人物がイズアルナーギを熱心に信奉し、多くのメディアがその確かな奇跡を世に広める。


 無論、各メディアのトップもドップリとイズアルナーギ神道にかっている。批判などあっという間に叩き潰す。


 あとは簡単。


 お茶の間でテレビを見た不幸な夫妻が神宮へ足を運ぶ。

 ネットニュースを見た不幸な若者が勇気を出して足を運ぶ。


 奇跡を賜った隣家の老婆に話を聞いた不幸な主婦が……

 重病で死の淵に立っていた不幸な女子児童の母親が……



 富豪や権力者と一般人との数は比較にならない、世界人口の九割九分が一般人だ。その中でお金に余裕の有る者は如何いかほど居るのだろうか?


 イズアルナーギ神道に寄進は不要、お布施も不要、免罪符を買う必要も無い、賽銭箱に五円玉を入れる必要すら無い。


 奇跡を信じて欧州のとある場所まで向かい、万病を治すと言われる奇跡の泉から『ただの水』を飲む、と言った行為も必要無い。


 奉納された物品や献上されたお金の量で信者に優劣を付ける事は無い、献じた総額を信者に競わせる事も無い。


 ただ、幼神を認識せよ、奇跡を知れ。


 イズアルナーギ神道が望むのは基本的にこの二つ。

 感謝すら求めていない。


 崇拝や畏敬の念などは後から勝手に付いてくる。

 そんなものはオマケ、付随品に等しい。


 ただ、幼神を認識せよ、奇跡を知れ。


 この簡単な基本方針はモッコスと緑夢グリムが決めた。


 偉大なる不可触神イズアルナーギを知り、その御業みわざを見よ。それで十分だと二人は判断した。


 触れるから


 モッコスは懇々こんこんと緑夢にいた。


 触れる可から不……触れる可から不…………



「これだけは絶対に、絶対に忘れてはいけないよ」



 若き緑夢は教皇モッコスの言葉を深く胸に刻んだと言う。


 緑夢はモッコスの教え通り、ただ大神の存在を説き、その奇跡を見せ、手にした利を信者に還元し続けた。


 その結果……


 怒涛のように集まる信仰心によって、イズアルナーギのムズムズは酷くなってしまった。



「ん、むじゅむじゅする……」


「それは大変だ、この妻がナデナデしてやろう、ポリポリが良いか?」


「ん~、おそとで『メッ』てしてくる」


「そ、そうか、程々ほどほどにな?」


「ん」



 体をモジモジしながら砂場から消えた夫を見て、二千年処女オマーンはとても嫌な予感がした。



「下界は……荒れそうだな」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 オマーンの予感は半分当たった、荒れたのは下界ではなく神界だった。


 イズアルナーギが暴れたのはポアティエ王国が在る惑星の神界、即ち『浅部第101宇宙域』だ。


 その場所を勧めたのは王城でコスモの乳を吸っていた肉塊。


 地中海を囲む国から信奉される神々が大量の勇者を投入してきたので、少しばかり鬱陶うっとうしいようだ。


 勇者ゴミは使徒や神兵に任せ、大本を滅ぼす。

 そんな肉塊の勧めをイズアルナーギは特に何も考えず承諾。


 ムズムズが解消されるなら何でも良い。

 イズアルナーギは神界へ突撃した。


 肉塊が示した『滅びのリスト』に載る神々にメッてするのだ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 最初のメッ対象が居る神域に到着したイズアルナーギ。


 神域はそこに住む神の物である。基本的に、と言うより絶対に神域を所有する神の許可無く立ち入る事は出来ない。対話以外は何の干渉も出来ない。


 だがしかしっ、イズアルナーギにそんな法則は関係無い。


 不可触神ヤナトゥにそんな原則は通用しない。


 神域の上空に浮かぶ怪しげな幼神を見た消滅対象の眷属達がゾロゾロ湧いてきた。武器を持って警戒している。


 何だか態度がナマイキだ、イズアルナーギはムッとする。なるほど、ボクが神様だと言う事に気付かないのかっ!!


 ならば是非も無しっ!!

 教えて差し上げる事にした。


 イズアルナーギが己を包んでいた『力をナイナイする空間』を解除。


 おぞましいほどの荒ぶる神気がほとばしる。


 今まで幼神に見えていた存在が急激に膨れ上がり、その大きさも彼我ひがの距離も把握出来なくなった。



“んひぃぃぃ……”

“あば、あばばば……”

“な、何だアレは……”

“オメッコ様にご報告をっ!!”

“いや待てっ、動くなっ!!”



 恐慌の様子を見せる眷属達。

 そんな彼らをイズアルナーギは無感情に滅ぼす。


 ムズムズ解消の為に滅ぼす。


 イズアルナーギは両腕を広げ、勢いよく柏手かしわでを打った。


 神界にパァァァンと耳をつんざく音が響き渡る。


 オメッコ何某なにがし神が住まう神域は、幼神のたわむれにも似た無慈悲なムズムズ解消手段によって消滅した。


 同時に、神とその眷属が有する神核を全て吸収するイズアルナーギ。


 幼き不可触神の神格がまた上がった。



「ん~、むむむ? つぎっ」



 神格が上がった事によってムズムズに拍車が掛かったアホなイズアルナーギ、かなりムッとしながら次の標的目指して転移。


 これが、浅部第101宇宙域に伝わる悪夢の始まり。




 最終的に、肉塊から『体内で荒れ狂う神気を放出しろアホ』と指摘されるまで、イズアルナーギは八柱の神々と八つの神域を滅ぼした。


 その報告を肉塊から聞いたオマーンは『素敵……』と頬を染め胸を高鳴らせた模様。














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