第43話「いや、むしろ飛び入りのほうが……」





 第四十三話『いや、むしろ飛び入りのほうが……』





 その人魚の名は『ユイリン・フワァ=ゼェタ』百十七歳。


 光が当たる角度によって青み掛かる金髪が黒騎士を狂わせる。


 人魚ユイリンが目覚めた直後、アルトゥイは結婚を申し込んだ。



「お、俺と、セックスして下さいっ!!」



 黒騎士アルトゥイは間違えた。

 緊張の余り結婚とセックスを間違えた。



「……はい(ポッ)」



 人魚ユイリンは頬を染めて承諾した。

 海棲かいせい魔族にとって性交申し込みは正式なプロポーズ!!


 昨今では『ほぼ強姦』となって久しい結婚申し込みが、太古からの伝統的な清く美しく正しい作法にのっとって行われたのであるっ!!


 しかも、大神が御座おわす神域での神前結婚申し込みっ!!


 この出来事は『フワァ=ゼェタ氏族』にとって千余年越しの快挙と言っても過言ではないっ!!


 ユイリンは黒騎士が繰り出した会心の一撃によってハートを貫かれた。


 闇の女王オマーンは驚愕した。

 馬鹿な……有り得んっ!!



「カスまみれの不潔な『お粗末そまつ様』をぶら下げた俗物を受け入れると言うのか貴様……それでも海神を祀る『フワァ=ゼェタ氏族』の姫かっ!!」


「ぶほぁっ」

「きゃぁっ、大丈夫ですかっ!?」



 黒騎士三度目の吐血っ!!

 新郎の吐血を心配する人魚姫。


 アルトゥイを介抱するユイリンはオマーンを睨み付けた。



けがれをはらうのは我が氏族の宿命っ、お粗末様に纏わり付く穢れ程度っ、私が毎日お口で祓って差し上げますっ!!」


「……クックック、見事っ!! さすがだな人魚姫。その言葉、忘れるなよ」



 フフッと微笑を浮かべ、オマーンはイズアルナーギを抱き上げてきびすを返した。


 オマーンは可愛い夫(肉塊の方)からユイリンの情報を入手した時点で、ユイリンの出自に心当たりがあった。予想は大当たり、ユイリンは有名な人魚一族の末裔だった。


 腐っても鯛、絶滅まで追い込まれた人魚だが、その姫には気高き精神が残っている。


 あの様子なら、第四使徒・黒騎士アルトゥイの妻として十分やっていけるだろう。オマーンは夫を強く抱きしめながら安心した。


 イズアルナーギのきさきとして、使徒の嫁には口を挟む権利が有るのだ。それが不可触神を夫に持った正妻の務めっ!!


 背後から聞こえるバカップルのイチャつく声に眉をひそめつつ、オマーンは義母が待つお茶会に戻る。どさくさにまぎれてイズアルナーギの捕縛にも成功、喜びが胸を駆け巡るオマーンであった。


 特に何の抵抗も無くオマーンに回収されたイズアルナーギは、肉塊と共に新婚カップルの強化・改造を勝手に始めていた。


 先ほどから強く感じるアルトゥイの『お願い』も考慮しつつ、『お嫁さんが人魚だから』とテキトーに海洋哺乳類をコネたようだ。



 約一時間後、トイレに行った黒騎士から絶叫が上がった。



「デケェェェ!! 骨が入ってるぅぅ!! 仕舞しまえるぅぅ!!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 深夜、日州日向は宮崎県のとある山麓、そこにポツンと建つ小さな商店は天国へ向かう為の関所、幼神が主催する地下オークション会場への入り口。


 商店の横にある地下駐車場に収容限界は無い。

 その不思議な駐車場へ高級車が続々と入っていく。


 裏手の小山にはヘリポート、そこに在る小さな格納庫も格納限界は無い。


 無論、オークション会場にも収容限界が無い。


 全て個室で管理せれているにも関わらず、なお空間に余裕が有る。


 そのオークション会場は何処どこを歩いても同行する人物や指定した人物以外に遭遇する事は無い。


 これほど安心出来る秘密オークションは無い。


 競売は個室に据えられたモニターとテンキーボードのみで簡単に参加出来る。


 今日もまた、秘密オークション『ケモビーズ』に新たな『神の下賜かし品』が出品されていた。


 モニターに『本日の目玉商品』が映し出される。


 スタートは五千万円からと言う、いささか弱気なお値段。


 だが――



『二十五億』



 目玉商品の競売が始まった直後にブッ込まれたのは二十五億。


 ブッ込んだのは超有名ハリウッドスター、ガチのオタク。


 果たして、スターが一発目で二十五億を提示した目玉商品とは何なのか?


 スターはモニターを見つめる。

 頼む、競うな、『彼女達』は俺のモノなんだっ!!


 目玉商品としてモニターに映る五人の美少女……

 金髪、茶髪、青髪、黄髪、紫髪……

 何かセーラー服的な感じの衣服……


 幼神の姉、第九使徒イルーサが監修した至高の逸品。


 五人一組の欲張りパラダイスセット。


 その商品名は……【美少女戦隊・水兵服月子と四人の仲間】


 スターは興奮と勃起を抑えきれなかった。


 コスプレではない、頭髪は自前、染めてもいない。

 身体能力は一般人の五倍と言う高スペック。

 性行為可、ハーレム可、6p可、って言うか不可無し。


 スターは全財産を投じる構えだ。

 月子にお仕置きされるのは誰でもない、俺だっ!!


 結果……


 中東の大富豪が一千七百億円で落札。

 スターは燃え尽きた、真っ白に燃え尽きた。

 り開始から十秒後に五百億を超えて敗北した。


 背中がすすけた負け犬状態で帰宅準備を始めるスター。


 そんな時、モニターにお知らせが届いた。



『飛び入り出品、【美少女戦隊・水兵服チビッ、ランドセル装備】一千万からスタート』



 スターは豪華な椅子に座り直し、電話を入れる。



「ハロー、ミセス緑夢グリム、懐妊おめでとう。ところで、融資の相談なんだが……」




 三十分後、スターは元気な桃色ツインテールの美少女と共に会場を出た。



 めでたしめでたし。









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