第40話「三十年後の私は……」





 第四十話『三十年後の私は……』





「陛下っ、お下がりをっ!!」


「フッ、当たらなければどうと言う事は無い」



 南エイフルニアの乾燥した中央地帯、古くから大国としてエイフルニア南部一帯に覇を唱えてきた獣人の国、多くの獣人に加護を与えた半獣半神の女神『ヤカーカシュ』の名を冠した獣人王国。


 その国の名を『カシュナギー』と言う。


 魔皇帝シャズナブルはそのカシュナギーに親征した。


 皇帝が先陣に立ち、寄って来る『エサ』を眷属がむさぼり食う。眷属達は手堅く経験値を稼ぎ、順調にレベルを上げていく。


 眷属が得た経験値の一割は主のシャズナブルに自動で入る。シャズナブルは父による生体燃料注入で異常な強さをそなえているが、レベルアップによる強化の恩恵も得ている。


 彼は眷属達の強化を優先させ、自分でエサを狩る事はせずに眷属達へ与えた。


 魔族を率いる通常の一般的な『魔王種』とは違う、『経験値エサ』の独占を良しとしないシャズナブルの行いは、力こそ正義である魔族の世界に於いて最も愚かしく理解不能な行為だ。


 しかし、自動的に経験値を徴収出来る『眷属』を従え、生体燃料の注入により理論上は上限無く強化出来る『真祖吸血鬼』のシャズナブルにとっては、最も効率よく『兵』を鍛えられる方法だろう。


 親孝行の為に動く彼が必要とするのは軍隊の力だ。


 眷属が手に負えない強者のみ魔皇帝シャズナブルが殺す。

 他のエサ共は眷属が上手く分配すれば良い。

 そうすれば全体的なレベルの底上げが可能だ。


 国家が、全眷属が、国軍全体が強くならなければ意味が無い。そうでなければ、大帝国を両親にプレゼント出来ない。



「フッ、こんなものか、南部最強国家が笑わせてくれる」



 獣人魔法兵が放つ【火球】百余が魔皇帝を襲う。


 嘲笑する魔皇帝は腕を組み宙に浮いたまま【火球】を避けもしない。



「当たらんよ」



 シャズナブルに近付いた【火球】が彼の神気障壁に当たって次々に消えていく。もっとも、当たったところでどうなるモノでもないが。



「陛下っ、勇者が三名投入されました、あちらを」


「ん?……ほぅ、獣人勇者とは珍しいな、『転生者』か」



 中級吸血鬼の近衛隊長が指差す方向へ視線を送り、口角を上げるシャズナブル。



「私はヤツを始末する。なに、心配要らんよ、すぐに終わる。近衛は殲滅戦に加われ」


「御意っ」


「あぁそうだ、父上と母上がきの良い獣人を御所望だ、君が選別して捕獲したまえ」


「お任せを」



 右手を胸に当て敬礼する近衛隊長に、右手の人差し指と中指をコメカミの横で振る軽い答礼で応え、シャズナブルは天高く舞い上がる。



「さて、ケダモノ転生者諸君、ハンティングの時間だ」



 英雄シャズナブル、真紅の彗星、不可触神の御子がく。


 大量破壊兵器として扱われる勇者、抑止力としても重宝され、絶大な権力を持つそんな彼らが、若き魔族の皇帝から『三人同時に』瞬殺されたこの戦争は、エイフルニア大陸に強烈な衝撃を与えた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 とある日本人男性が客室のソファーに座って語る。



「私の中で三十年後を考えた時、三十年後の私は何歳なのかなぁと、あの東九州テロからずっと考えていました。イズアルナーギ神宮への参拝、世間は不要不急と言うかもしれませんけど、私としては不要不急でした」


「な、なるほど……」



 真剣な顔で奇妙なポエムをうたう男、日本の政治家『和泉いずみ新次郎しんじろう』四十歳が、緑夢グリムの第一使隷『山本 太銀河ギャラクシィ』三十三歳と会談していた。


 会談の内容は『ケモ奴婢ぬひ』についてである。


 ケモ奴婢売買を合法化出来れば、イズアルナーギ神道や日本国にとって有益な結果が期待出来る。


 その為の会談、なのだが……


 和泉新次郎が再びポエムを詠う。



「今のままではいけない、だからこそ、今のままではいけない。あなた方との約束は守らなければならない、ですから、約束を守る為に約束を全力で約束したんです。育休は休みじゃない、育休は休めないんです、オムツ交換は仕事です」


「そ、そうですね……」



 困惑する太銀河ギャラクシィ、眼前の政治家が何を言っているのか解らない。


 学の無い太銀河は悲しくなった。


 元首相の父を持つ男の話が理解出来ないのは、女子短大卒の自分に理解力がないからだ、イズアルナーギによる知識の欲張りセットを頭に叩き込まれたのにこの為体ていたらくっ!!


 涙目になる太銀河。


 美しい太銀河の涙を浮かべたその顔に、股間を反応させてしまった新次郎。自分の言葉が眼前の麗人に伝わったが為の感涙かっ!!


 ぜん食わぬは新次郎の恥っ!!

 男一匹新次郎、推して参るっ、略して推参っ!!



「毎日でもセクロスしたいと言う事は、毎日でもセクロスしていると言う事ではないです。だからこそ、毎日セクロスしているんです、つまり、楽しくセクシーにクールな毎日なんです、セクロスを毎日したいわけではないんです、だからこそ、毎日のセクロスを絶対に約束したい。四十歳の私は三十年後に何歳になっているのか、分かりませんよっ!?」


「は、はい、申し訳御座いません……」



 急に大声を出した新次郎に驚く太銀河ギャラクシィ、両目を強く閉じて俯く。


 その姿に益々勃起をきたす新次郎、ズボンのベルトを外した。



「だからこそ、しゃぶって欲しい。君は僕のギャラクシィ、選挙前のギャラクシィ、清い一票を君に入れたい」


「あ、そう言うのは結構です」


「ぐふっ……な、僕は、セクシー、なのに……ゲボッ」



 和泉新次郎、享年四十。

 心臓を太銀河の貫手ぬきてで貫かれ死亡。

 神宮はこれをパワハラへの制裁として日本政府に報告。


 日本政府はイズアルナーギ神宮に謝罪。

 和泉新次郎の『偽物』を神宮より贈られる。


 以後、神宮から『和泉コネ次郎』と呼ばれるこの偽物は、日本政府とイズアルナーギ神道の良き架け橋として活躍する。




「つまり、三十年後の私は、今の年齢に三十を足した年齢になるのかなぁと、あの東九州テロからずっと考えていました。だからこそ、三十年後を見越した三十年を見越さなければならない」



 新次郎の父親に『本物と変わらん』と言わしめたイズアルナーギの傑作、和泉コネ次郎。


 稀代の新次郎ポエマーが入れ替わった事に気付く者は居ない。







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