第38話「つぎはないよ」





 第三十八話『つぎはないよ』





「可愛い私のイザーク、暫しの別れだ……」


「ん」


義母はは上との茶会は断れん、赦せイザーク」


「ん」


「……一人で大丈夫か? お外は危険が一杯なのだぞ?」


「んっ」


「オヤツの時間には戻って来るのだ、このオマーンが義母上から『聖母ミルク』入りの哺乳瓶を胸に仕舞しまって待っておく。胸の谷間に、お前が大好きな柔らかい私の胸に挟んで待っておく」


「んっ」


「人間や獣人のメスに触れてはならんぞ、お手々が汚れるからな、柔らかそうな胸は幻だ、惑わされるな、揉みたくなったら私を呼べ」


「ん~、んっ」


「では、お別れのチューだ、ン……少し離れるのが早くないか?」


「行ってくる」


「クッ、何と言う冷酷な態度っ、闇の女王と呼ばれたこの私を場末の娼婦か愛が冷めた恋人のように扱うとはっ……いや、そんな悪い男に惚れた私の負け、か」



 何やらブツブツ言って『クズ旦那を愛してしまった嫁』的な立ち位置を得た感じになったオマーンに『バイバイ』と手を振り、イズアルナーギは南エイフルニアに転移した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 シャズナブルが創り上げた『バ・アオア・クー』の中心にそびえ立つ皇城に転移したイズアルナーギは、転移先となった『父の間』の扉を念力で開けて部屋を出た。


 飛行せず長い廊下をトコトコ歩くイズアルナーギ。


 魔皇帝より恐ろしい『神君しんくん』、魔皇帝の父『神祖様』の来訪に城内は大恐慌。


 イズアルナーギを見た魔皇帝の眷属達が顔面蒼白でひざまずく。


 息子が獣人国へ親征中で城内に居ない事など承知しているイズアルナーギ、息子の眷属にして興味も湧かずに黙々と歩を進める。


 シャズナブルに会う為の来訪ではない。

 では、イズアルナーギは何処を目指しているのだろうか?

 何故、飛行も短距離転移もせずに歩いているのか?


 答えは『特に意味は無い』だっ!!


 歩きたいから歩くだけっ!!

 皇城の自室から歩いているだけっ!!

 特に何も考えてないですマンを舐めないで頂きたいっ!!


 何かこの廊下は細いなぁ~と思ったら空間拡張っ!!

 何かあっちのお部屋は小さいなぁ~と思ったら空間拡張っ!!


 何かあの眷属のオッパイ柔らかそう~と思ったら距離概念も障害物も無視して直揉じかもみっ!! ついでに先端を摘まんでからのオシャブリ吸引と言うワガママハッピーセットっ!!


 幼神にお手付きされた女眷属は絶頂と幸福の欲張りセットで二千年処女に目を付けられるオマケ付きっ!!


 責任は取らないっ、きずりの乳は投げ捨てっ、これぞ不可触神ヤナトゥっ、まさに外道っ!!


 ショタニズムに目覚めた女性眷属の今後など気にしないっ、幼児の文句は俺に言えっ、バブらせたいなら乳を出せっ、抱っこ先を選ぶのはこの俺だっ!!


 傍若無人と書いてイザーク殿下と読めっ!!

 唯我独尊と書いてイズアルナーギと読むのは常識だっ!!



 そんな感じで皇城を後にしたイズアルナーギ。


 特に何も考えていない不可触神が去った皇城に残されたのは、無駄な空間拡張によって魔改造された城内と、幼神に恋焦がれるショタニストへと成り果てアヘ顔を晒す女眷属達だった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 豊穣神パイエによる恵みの雨は、酷く乾いた南エイフルニアの大地を緑溢れる樹海に変えた。



 そんな深緑の森に入ったイズアルナーギの心は踊った。


 展開したイズアルナーギの『領域』に数多あまたの生命を確認。


 一瞬で取捨選択を終え、カッコイイ蟲を一匹ずつ眼前に召喚、空中に蟲を固定してそのイカすフォルムをじっくり観察。



「むむむっ」



 大きさは及第点、形も及第点。

 次はそれぞれの動きを見なければっ!!


 一辺が50cmほどの密閉空間を蟲の数だけ創り、その中に蟲を入れて再び観察開始。



「む、むむむっ」



 良い、なかなかの動きだ、グロテスクな多脚の運びもイカす。


 奇妙に動く頭の上げ下げも、そこに確かなびを感じる。


 イズアルナーギはサソリに似た甲蟲に顔を近付けた。


 ドピュッ、ピュピュピュッ!!


 威嚇だろうか、ファンタジックな色彩の毒液を飛ばすサソリ似の甲蟲に畏敬の念すら覚える。


 しかし、この甲蟲の毒液連射性能……


 イズアルナーギは『ハッ』とした。

 ポアティエ王国に居る肉塊も『ピン』とキた。



「むむむっ!!」



 イズアルナーギは密閉空間の蟲達を神域へ送り、サソリ型甲蟲のみもう一体捕まえて帰還した。


 帰還する際、自分を隠れ見る何者かの視線にイラッとしたので、イズアルナーギはその不快の元凶となっているであろう何者かの『目』を右手で握り潰した。


 遥か遠く離れた神界の片隅に絶叫が上がる。


 神殺しをして神格を上げ、空間を制する不可触神に天地の距離など意味は無い。その存在を不可触神が認識すれば確実に捕捉されるのだ。


 握り潰したついでに引き抜いた何者かの眼球。

 イズアルナーギは神域でそれを分解し吸収した。



 神の覗き見と言う恥ずべき行為、その愚かな一柱の行いは、幼き不可触神ヤナトゥによる『浅部第98宇宙域しんかい』の特定と場所の把握に繋がった。



 今回はイズアルナーギが『優先すべき遊び』があったから神界は助かった。


 何事にも興味を持ち難く、何事に対してもほぼ無関心である不可触神と言う特殊な神だったから助かった。


 偶然に助かった。

 甲蟲がもたらした幸運。



 しかし、恐らく、次は無い。










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