第37話「君は、小宇宙を感じる事が云々……」





 第三十七話『君は、小宇宙を感じる事が云々……』





 年間を通して気温が高いエイフルニア大陸、降雨量も少なく全体的に乾燥した大地、七割が荒野と言える。


 そんなエイフルニアにも春は訪れる、しかし、ほんのわずかな緑地を除けば季節の変化に影響される場所は無かった。


 だが、南エイフルニアは麗しき春を謳歌している。


 魔皇帝シャズナブルが征服した土地には緑が溢れていた。



「あぁ~、だめだめ、駄目ですぅ~、あ、イッぐぅぅぅぅ!!」



 プシャーーッ!!


 豊穣の女神から放たれる恵みの雨が、乾いた荒野に降りそそぐ。


 南エイフルニア上空での遊覧授乳。


 イズアルナーギは十時のオヤツを、いや、オッパイを飲んでいた。


 豊穣神パイエは主神の舌技に悶え苦しみながら、乾いた大地に恍惚の表情を浮かべて慈雨を降らす。


 止まらない恵みの雨、イズアルナーギが右の乳房から左の乳房へ狙いを変えた。乳房変更のロスタイムなど無い、無駄に権能を使って連続授乳を可能にしたイズアルナーギの恐ろしさよ。


 豊穣神に休憩を与えない非道な不可触神、『こんなの無理ですぅ』と泣き言を言いながらニヤケ顔を隠せないパイエ。彼女は今、幸せを噛み締めていた。



「俗物が……」



 可愛い夫が寝取られた感じでゴキゲン斜めな女吸血鬼オマーン。


 アバズレからの授乳後は必ず時間をかけて念入りに夫の歯磨きをする二千年処女。氷のように冷たい視線をアバズレに送る。


 夫との外出時は必ずそばにいるので、オマーンは授乳を間近で見せつけられていた。


 オマーンは視線を落とし、アバズレの腹を見て軽く舌打ち。


 パイエの腹は少し膨らんでいる。


 肉塊がもたらした天の光は豊穣の女神にも降り注がれていたのだ。


 あの光は不可触神による受胎告知、いや、強制受胎だった。


 可愛い夫の子がアバズレのはらに居る、アバズレをボコボコにしたいが出来ない状況にオマーンは歯噛みする。


 せめて自分にもあの光が注がれていれば……そう思うがオマーンには打つ手が無い。


 オマーンも子は欲しい、しかし、彼女の『願い』はセクロスしてからの受胎、熱いセクロスの後に授かりたいっ!!


 それなのにっ!!


 可愛い夫は成人にならないっ!!

 セクロス不可っ!! イタズラ可っ!!

 このやるせなさが歯痒いっ!!


 ちょっとお願いして『成人イザーク』になってもらおうか、そう考えてしまう、だが、肉塊の方はあと十五年ほどでセクロス可能な肉体を得る。頑張れば十年でイケる。


 その時まで待つのが妻の務めではなかろうか?

 本能を優先する肉塊とのセクロスはスゴイのでは?

 ひょっとしたら吸血しながらセクってしまうのでは?


 二千年処女は葛藤する。


 乙女ゆえに、夫を愛するが故に答えが出ないっ!!


 夫の授乳を見つめながら『ぐぬぬ』と悩む母を尻目に、両親の横で宙に浮きながら緑溢れる大地を眺めるシャズナブル。


 黒いマントの裏地は真紅、魔力で作った黒い軍服、父が創った何か変な蟲の甲殻こうかくで作った16ホールの黒いブーツ、叔母イルーサのお勧めで作った遮光しゃこうゴーグル付きの白い軍用ヘルメット(上級士官用ツノ付き)で身を包むシャズナブルの姿は英雄そのものっ!!


 腰に巻いた白いベルトの左側に吊り下げた豪奢な軍刀のつかに左手を乗せ、ベルトの右側に付けたガンホルダーに刺さる『イザークンp38』を右手でもてあそぶ魔皇帝。


 遮光ゴーグルで隠れた瞳が北の地平線に狙いを定める。



「見せてもらおうか、獣人王国の実力とやらを……」



 若き皇帝シャズナブルの呟きは、南エイフルニアの暖かい風に乗って消えた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 北別府小宇宙きたべっぷコスモは二十三歳の日本人女性。165cm。


 彼女もまた、テナーギによって神域に招かれたイズアルナーギ神宮の参拝者だった。


 その奇抜な名前の所為せいで彼女の人生は暗いものとなった。その辛く悲しいだけの人生を終わらせる為の旅行で、隣県に出現した話題の神宮に立ち寄る。


 その結果、小宇宙コスモは大巫女緑夢グリムいざなわれ、小さな神に拝謁を許された。


 テナーギはコスモに何かを感じ、すぐに神域へ送った。


 肉塊がコスモを査定、その優しい気質を見抜いた肉塊はコスモを自らの守役に抜擢。


 続いて、セゾン三世との結婚で何かと忙しいオズゥに変わってコスモを王城へ召喚。


 オズゥにコスモへの業務引継ぎを任せる。

 オズゥは厳しいしゅうとめのようにコスモを鍛えた。


 オズゥの太鼓判を得たコスモに肉塊が生体燃料を注入、彼女の願う理想の容姿へイズアルナーギがコネた。


 そして、北別府小宇宙コスモはオズゥの第一使隷となり、名をただの『コスモ』と改めポアティエ王国へ移住し、王城暮らしの王城勤務が始まった。


 コスモは天職を得た。


 彼女は欧州貴族文化が大好きだった、ご飯三杯イケる感じだった。


 そう、北別府小宇宙は日本漫画やアニメが生み出した『なんちゃって欧州貴族文化マニア』だったのだ。喪女でオタクだったのだっ!!



「おっほん、イザーク殿下、本日のご昼食は豊州大分は竹田生まれのこのワテクシ、忠臣コスモの右乳からこぼれましたる濃厚オパーイ汁で御座います」


「……ばぶぅ」


「はぁ~い、たぁ~んとお召し上がり下さい。ンァ、何これスッゴイ……」



 肉塊あかんぼうの舌技もイズアルナーギ並みに凄かった。

 優しき喪女コスモの心は肉塊にガッチリ握られた。


 頑張れコスモっ!!







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る