第36話「その都の名は……」





 第三十六話『その都の名は……』





「んゅ? おーくしょん?」



 神域神殿の中庭で新妻オマーンの右乳を揉みながら、イズアルナーギは妻の言葉に首を傾げた。可愛い。


 今日の乳揉みは激しいな、コラコラ先端を摘まむのはさないか、可愛さ余って肉欲百倍になってしまう。そんな事を考えつつ、オマーンは話を続ける。



「ンッ……そうだ、ケモ奴婢ぬひとやらを売るなら競売にすると良い。奴婢にも質の上下が有ろう? 同じ値で売っては勿体無いぞ。コラコラ昼食にはまだ早いチュパチュパするな、あ、素直にめなくて良い、まったく、可愛いにも限度が有……無いな、限度など無い」



 夫の可愛さに限度が無いと言う真実、その考えに至った自分を誇りに思う闇の女王オマーン。


 競売の話など最早どうでも良い、可愛い夫を左側に抱き直して左乳を差し出す。


 新たな揉み乳を用意されたイズアルナーギ、妻がまとう魔力製の黒いドレスを権能で貫通させ生乳を揉む。不可触神による乳揉みに容赦など無い、新妻への気遣いも無いっ!!


 誰が何と言おうと柔らかい物を揉み続ける、絶対にだっ!!


 イズアルナーギのジト目から不退転の決意がうかがい知れる。



「クッ、あんなに揉まれて……悔しいっ!!」



 そんな新婚夫婦の様子を近距離で見せつけられる第二使徒・女官長カーリヤ。


 主君夫妻のお世話をするのは女官長の務めっ、夫妻の要望を即座に叶える為にすぐそばで控えるのは責務っ、しかしっ、つい先日まで自分の胸こそが主君専用『幼児のオモチャ』だったと言うのにっ!! 泥棒猫めがっ!!


 この神域では既に二十年ほど経過しているが、カーリヤの美しい想い出は色褪いろあせる事なく、主君による可愛いセクハラは昨日の出来事として記憶されている。


 カーリヤの背後に並ぶ侍女軍団も悔し涙を流す。



 自分達は揉まれた事すらないっ!!

 シャズナブル様も御成人遊ばしたっ!!

 お世話出来る高貴な幼児が居ないっ!!

 イタズラ出来る美幼児が居ないっ!!


 ほぼ全てのイタズラに無関心な美幼児が居ないっ!!


 ほぼ全てのイタズラに過剰反応していたドちゃクソ可愛いシャズナブル様が御成人遊ばしたのは絶望しかないっ!!


 性的な意味を待たずにお触りしてくる幼児が居ないっ!!


 性的な意味を知ってお触りしてくれずに赤面していたドちゃクソ可愛いシャズナブル様が御成人遊ばしたのは本当に絶望しかないっ!!


 肉塊様は生後九か月の乳幼児なのでちょっと違うっ!!



 侍女軍団の悲哀と寂寥せきりょう、その十数年溜め込んだ切なる想いが神殿の中庭に奇跡を運んだ。


 眷属の強い願いを叶えるのは主神の務め……っ!!


 イズアルナーギが三歳児から成長しないのは、眷属と信者の『可愛いままの殿下で居て』と言う願いに対して肉塊が『その利』を本能で見抜いて叶えた結果っ!!


 そして今回もっ、肉塊は哀れな侍女軍団の願いを本能に従って叶えたっ!!


 中庭の侍女軍団と同じ願いを持った女性眷属の頭上から、不可触神の温かな光が降りそそぐっ!!


 その光は下界で活動中の女性眷属にも注がれたっ!!


 北方戦線で指揮を執っていた白騎士ウルダイは己の身を照らしたその温かい光に『おぅふ』と感激の涙を流し、空中御本殿で瞑想めいそうしていた緑夢グリムは『ぃよっしゃぁぁーっ!!』と雄叫びを上げたと言う。


 無論、女官長カーリヤにも光が降り注いだっ!!

 彼女は目を細め一言『勝ったな』と呟いたっ!!


 その光景を見ていたオマーンが舌打ちする。



「チッ、俗物共め」


「んゅ?」


「何でもない。さぁイザーク、競売用の上質な奴婢を造ろう、何なら獣人と人間を混ぜてみるのも良い、狩りに行くか? 蟲さんも居るぞ?」


「行く」



 オマーンは愛する夫を強く抱きしめ、南エイフルニアの孤島に転移した。


 果たして、肉塊は女性眷属に何をしたのか……っ!?


 主君夫妻が消えた中庭、真っ白いテーブルに残されたワイングラスと幼児用クッキーを下げるようにと指示する女官長カーリヤ、彼女は嬉しそうに頬を染める侍女達に指示を出しながら熱く火照ほてった腹を右手で撫でた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 シャズナブルが生まれた名も無き島、そこに在る唯一の街にも名は無かった。


 そんな島にシャズナブルは城郭都市を築いた。

 島全体を囲う城壁、島の全てが街、住民は魔族のみ。


 偉大なる父イズアルナーギから賜った宝玉コアを使い、島全体をダンジョン化。


 城も街も城壁も全てシャズナブル一人で創造した。



『ここから始まる』



 愛する両親に覇道を誓う。


 シャズナブルは神域で二十年を過ごし、彼の願い通りに大人の体を得た。


 彼の願いはただ一つ、両親への恩返し。


 その為に早く大人になりたかった。

 祖母サテンと恩師モッコスは応援してくれた。


 幼いままで居てくれと言う侍女達の願いをけるほど強く願った。


 肉塊は息子の願いを叶える。


 成人したシャズナブルは南エイフルニアを蹂躙した。


 人間を駆逐し、獣人を一掃し、魔獣を捕らえ、『魔王種』へと進化した魔族をくだして支配下に置き、庇護を求めて来た魔族達を吸血鬼化して眷属にした。


 捕縛した人間や獣人をダンジョンで人畜として飼い、繁殖させて効率良く生体燃料と『生気』を徴収し、自勢力を強化する。


 シャズナブルが生まれた何も無い島は、エイフルニアの歴史上最も栄えた城郭都市になった。


 シャズナブルは敬愛する父に都市の命名を頼んだ。


 父に授けられた名をシャズナブルは布告した。



「この都の名は『バ・アオア・クー』だ」



 城郭都市ダンジョン『バ・アオア・クー』、不可触神が改造したコアによって創造されたダンジョン。


“世界”のことわりから外れたダンジョン。


 その凶悪な城郭都市に『獣人狩り』目的で両親が訪れた。


 シャズナブルは微笑みを浮かべ、嬉しそうに二人を出迎える。


 今日の午後は獣人が住む街を滅ぼそう。


 明日は勇者を殺しに参りませんか?


 親孝行を天命と胸に刻んだ男が笑って告げた。










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