第33話「夫のセクハラに耐えられない……」





 第三十三話『夫のセクハラに耐えられない……』





「イザーク、これがダンジョンだ。こらこら妻の胸をオモチャにするな、ンッ、どうせなら吸え、少し早い昼食だ」


「んゅ? まだいらない」


「残念だ、非常に残念だよイザーク」



 女吸血鬼オマーンに抱っこされて初デート中のイズアルナーギ。豊満な乳房の触り心地が良いのでついつい生で揉んでしまう。母サテンの若々しい張りの有る触り心地とは違い、しっとり柔らかい。


 新婚初デートの場所は南エイフルニア大陸に在る小さな【ダンジョン】だ。


 イズアルナーギの故郷にも地球にもダンジョンなど存在しない。所謂いわゆる『魔素』と言う物質を放出する不思議な場所である。


 今回、イズアルナーギはモッコスと妻オマーンの勧めでデート先をダンジョンに決めた。無論、イズアルナーギ本人はダンジョン自体に興味は無い。不思議な昆虫が居るかもしれないとさとされただけだ。


 果たして、新妻オマーンと一緒に訪れたダンジョンにカッコイイ甲虫は居るのだろうか?


 わずかな期待を胸に抱き、イズアルナーギは妻の胸を揉む。



「ダンジョンにはそれを支配する魔人マスターが存在し、そのマスターを補佐し能力を与えしっかりと人格を持った『ダンジョンコア』が有る。ダンジョンはマスターの『眷属適性』によって召喚出来る魔物が変わる。ここのダンジョンは傀儡くぐつ適性だな。ンッ、も、もっと揉んで良いぞ」


「ん……」



 妻の説明を聞きながら周囲を見渡すイズアルナーギ。

 昆虫適性のマスターが居れば良いなと思いながら胸を揉む。



「昆虫……いや、魔核を持つ『むし』は何処どこにでも居るが、マスターの性格や適性によっては適性眷属以外の魔物をダンジョンから弾く。ここのマスターは気にせんようだ、そこら中に蟲が居る。もっと先端をまむのだイザーク……ンッ」


「ん……蟲、ちいさい」



 目当てのカッコイイ甲虫が見当たらないので不満なイズアルナーギ。その不満を新妻の豊満な胸の先端に在る小さな野苺にぶつける。なかなかのテクニックだ。



「我々には『経験値・レベル・スキル熟練度』が有る、ダンジョンはこれらを効率良く上げるのに丁度良い場所だ。まぁ、ある程度の強さになると効率は悪くなるがな。もうそろそろ吸ってはどうだ、お昼になるぞ?……ンァ」


「ちゅぱちゅぱ……ん、階段」



 浮遊しながら前進するオマーンに抱かれ、近付く魔物や視界に入った『冒険者』を神域に放り込みつつ授乳されるイズアルナーギ。


 女神パイエを悶絶させた舌技に澄まし顔で耐える新妻オマーン、第二階層への階段を降りる頃には十八回目の絶頂を迎えていた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 お昼の休憩を神域で挟み、第二階層の登り階段からダンジョン攻略を再開する新婚夫婦。何故かオマーンの息遣いが荒い。



「ハァハァ、マスター契約を結んでいないコアが支配する『魔窟まくつ』も基本的にはダンジョンと同じだ。生物の『生気』を徴収して様々な能力を行使する。あ、今度はこっちの胸を頼む」


「ん、やわい」


「ンッ、うむ、宜しい。ダンジョンの生気徴収とイザークの生体燃料搾取は似ているが、手に入れたエネルギーの使い方は全然違うな。まぁ、魔人如きが得た仮初かりそめの能力と不可触神の権能を比べるのも何だが。こらこら先端を引っ張るな、愛が止まらなくなる」


「ん、また階段」



 絶妙な力加減で新妻の野苺を摘まむイズアルナーギ。その絶妙な技術は地球で手に入れたモノだ。二千年処女が感じる下腹部の切なさは限界に近い。


 オマーンは旦那に三分間ほどトイレ休憩を申し出た。


 最新式の嫁イビリに頬を染める女吸血鬼、胸の高鳴りがうるさい。


 神域へトイレ休憩に戻ったオマーンを待つ間、イズアルナーギは冒険者と魔物をコネコネして遊んだ。変な生物になったので祖父の蒸気船艦隊に送った。



「ふぅ……待たせたな。参ろうか」


「ん」



 抱っこバンザイをする夫にハートを撃ち抜かれる新妻、余りの可愛さに犬歯が伸びる。チュッチュしたい。


 妻の犬歯を見たイズアルナーギ、コテンと首を傾げ己の細い首を差し出した。


 生唾を飲み込む女吸血鬼。


 ええんか? ホンマにええんか? イてまうで?


 これは新婚初夜と言っても過言ではないのでは?

 昼間からさかっても初夜と言えるのでは?


 オマーンは旦那の首筋に牙を突き立てる。


 得も言われぬ最高の美酒、オマーンは気絶した。

 その絶頂に耐え切れる吸血鬼など居ない。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 第十九階層を進む新婚夫婦。

 新妻からほとばしる魔力と神気が凄まじい。


 不可触神の血を生で直接飲んだ史上初の生物となったオマーンは、魔族ではない何かへと昇華した。ダンジョン攻略の速度が尋常ではない。旦那への愛も尋常ではない。


 胸に抱いたイズアルナーギの頭を優しく撫でながら、オマーンは子守唄のようにダンジョンの話を続けていた。



「ダンジョンは生気さえあれば理論上無限に物資供給が可能だ、今後の為にコアを奪取するのも良い、どうする? こらこら、乳を吸いながら眠ると私の愛でダンジョンが壊れてしまうぞ、ねんねは帰ってからだ」


「んゅ、ねむい。コア取る」


「そうか、次は最下層だ、コアに直接触れると洗脳されるが……イザークや今の私には関係の無い事だな。ならばマスターを滅ぼしてコアを頂こうか」


「しゃずなぶるに、行かせる」


「ほう……それは良い」



 愛する夫の提案に頷くオマーン。息子の初陣には丁度良いかと微笑みながら最下層への階段を目指した。





 美しい女吸血鬼に群がる冒険者共を文字通り血祭に上げながら、新婚夫婦は最下層の最奥『コアルーム』前に到着。


 眠い目を擦りながらイズアルナーギは息子を召喚。


 両親の前に現れる美少年、『名探偵コーマン』の半ズボン姿が可愛らしい。神域で成長したのか、歳の頃は十歳前後に見える。



「お呼びで」


「ん」

「この部屋に居る魔人を殺して来い、コアには触れるなよ」


「魔人にコア……なるほど、承知しました。あ、母上、魔人は吸血鬼化出来るのでしょうか?」


「さぁな、私は知らんが……貴様が試してみろ」


「はいっ!!」



 元気よく笑顔で返事をしたシャズナブル、両親に一礼してコアルームの扉を開いた。


 何も恐れるものは無い、そんな様子で部屋に入るシャズナブル。両親が浮遊しながら後を追う。


 アンティークな家具が一式揃った広い部屋、中央の大きなソファーに猫獣人の女が裸で座っている。


 この世界の獣人は二足歩行する獣だ、萌える要素が無い。


 その萌えない猫娘がシャズナブルを一瞥いちべつ、左手に持った水色の水晶型コアを右手で撫でながらニヤリと笑った。



「へぇ、一日で最下層まで攻略するヤツが居るなんて驚いたけど……吸血鬼か、なるほど、後ろの女も吸血鬼かな? 抱いてる子供は……ッッ!!」


「父上に『鑑定』を掛けるな、死ぬぞ」



 シャズナブルが猫娘の喉元に右の貫手ぬきてを突き付ける。指先から伸びた鋭い爪が猫娘の首に食い込んだ。


 猫獣人の魔人でも捉えきれないシャズナブルの攻撃。猫娘のコメカミに冷や汗が流れる。


 猫娘とコアは瞬時に念話による対策会議を開始、『サブダンジョン』への転移逃走を決めた。


 しかし――


 転移出来ない。


 空間を支配するイズアルナーギと言う名の不可触神が、息子のエサを鳥籠から逃すはずがない。


 戸惑う猫娘の下腹部が急に熱くなった。

 この非常時に性的な快感を覚える驚愕。


 猫娘は自分の首に噛み付く吸血鬼少年の存在にようやく気付いた。


 痛みは無い、鋭い二本の犬歯が己の首を穿うがっているのに、まったく痛みが無い。吸血鬼が持つスキル『穿通せんつう』による防御力無視の無痛効果だ。


 猫娘の左手からコアが転げ落ちた。

 コアの必死な念話も猫娘には届かない。


 猫獣人の魔人は下級吸血鬼となった。

 絶望するコアが敬愛するマスターの名を叫ぶ。


 イズアルナーギはわめくコアを神域に送り、ただのアイテムとして分解後に吸収、ダンジョンの支配権を奪うと欠伸あくびをして眠った。


 スヤスヤ眠る愛おしい夫を強く抱きしめ、初陣の息子を褒めるオマン。



「よくやった、次は軍を率いてやってみろ」


「はいっ!!」


「戻るぞ」



 息子の頭を軽く撫で、眠る旦那と神域へ戻るオマーン。


 母に褒められたシャズナブルは、初めて出来た眷属の猫娘にダンジョンの管理を任せ、興奮気味に両親の後を追った。







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