第30話「赤毛のシンデレラ」





 第三十話『赤毛のシンデレラ』





「来たか……」



 玉座の肘置きに右肘を置き、頬杖を突いたポアティエ王国国王セゾン三世が眉間にシワを寄せつつ呟いた。


 王の左隣に立つ宰相アーライが報告を上げた兵士を下がらせる。


 静まり返った玉座の間にわずかな緊張が走った。


 聖国アノーラから異端審問の審議団が王城に到着。

 二名の異世界勇者が審議団の護衛に就いている。


 玉座の間に居る数十名の将軍達は王の言葉を待った。

 彼らの表情に恐れの色は無い。


 将軍達の思いは一つ、『ブッ殺して良いスか?』だった。


 早く勇者をブッ殺したい。

 早く生臭坊主をブッ殺したい。


 巨大な魔導船団で漁師達を威圧し、南の港に到着した直後から高圧的な態度をとる聖国のゴミ共をブッ殺したい。


 イズアルナーギが遊びで造った多くの蒸気船(超高性能)が並ぶ港を見て馬鹿にしたクズ共をブッ殺したい。


 セゾン三世に城門まで迎えに来いと言ったクソ共をブッ殺したい。


 出迎えた王太女オルダーナに接待を命じたカス共をブッ殺したい。


 何より、肉塊が殺してしまう前にブッ殺したい。


 現在、ポアティエ王国で生き残っている貴族や官吏かんりは全てイズアルナーギに加護を授かり、肉塊による査定によって肉体強化されている。


 彼らはもはや普通の人間ではない。

 その装備も幼神の下賜かし品、恐れるモノなど無い。


 使徒や使隷が居らずとも、勇者の一人や二人に後れは取らない。


 早く『ブッ殺して来い』の勅令が聞きたい。


 既に肉塊による生体燃料搾取が始まっている。

 下衆共は巨大な蜘蛛の巣に掛かってしまった、時間が無い。


 セゾン三世は顔を右に向けた。


 王妃が座るはずの場所に、赤ん坊を抱いたオズゥが座っている。


 視線に気付いたオズゥがセゾン三世を見つめて首を傾げた。


 セゾン三世が視線を逸らす。

 甘酸っぱい、何だこれは……


 意見を聞こうと思っただけなのに、侍女に胸キュンする中年。


 王妃の椅子に座っているからだろうか?


 セゾン三世はもう一度オズゥに視線を向けた。


 交差する二人の視線。


 痛い、痛たたた、胸が痛いセゾン三世。更年期障害か!?


 セゾン三世は痛みを誤魔化す為に肉塊の方針をオズゥに聞く。



「お主は処女か?」


「え、あ、はい」



 セゾン三世は口が滑った。

 思っていた事が口に出てしまったっ!!


 宰相アーライがセゾン三世をガン見する。

 オズゥは少し頬を染めた。


 セゾン三世は鋭い眼光をオズゥに向ける。今は大事な時だ、ちょっと可愛い侍女如きに思考を割く余裕などない。



「結婚して欲しい」


「え、あ、はい……ポッ」



 セゾン三世は鋭い眼光をアーライに向ける。今は大事な時だ、ちょっと強い程度の勇者如きに思考を割く余裕などない。



「ブッ殺して来い」


「御意」



 アーライが将軍達に向き直り、軽く頷いた。


 ひざまずいていた将軍達が一斉に立ち上がり王に一礼、次々と玉座の間を後にする。


 将軍達が負ける事は無い。誰も心配などしていない。


 聖国アノーラの勇者や国民は豊穣の女神パイエを奉じる『アルパイエ教』の信者、その女神パイエはイズアルナーギの眷属神。


 主神を奉じるイザーク教会のお膝元、主神が生まれた場所、主神の家族が住む城、そんな場所で無礼を働く愚か者を、眷属神のパイエが赦すはずもない。


 審議団の面々は既に女神パイエの加護を剥奪されている。


 勇者は女神に与えられた能力を失い、『少し強い人間』程度の存在になっていた。肉塊に強化された将軍達はそれを認識している。


 もはや我慢する必要も無い。

 視界に入ったゴミを片っ端からブッ殺すのみ。


 静かになった玉座の間で、一人ピンク色の世界に入り込んだ中年オヤジが目をギラつかせながら告げる。



「オズゥ、やらないか?」


「え、あ、はい……ポッ」



 セゾン三世は初めから審議団など眼中になかった。

 最近気になり始めたオズゥの事で頭が一杯だった。


 セゾン三世は鋭い眼光を宰相アーライに向ける。

 阿吽の呼吸でアーライが動く。



「オズゥ、イザーク殿下は私が抱こう。陛下を頼む」


「え、あ、はい……ポッ」



 差し出されたアーライの両手に主君を渡すオズゥ。

 王太孫を渡されて栗の花が満開になるアーライ。

 これぞまさしくウィンウィンの関係。


 玉座から立ち上がり右手を差し出すセゾン三世、その手に赤髪碧眼ソバカス侍女の可憐な手が優しく置かれる。


 セゾン三世の股間はイライラを感じた。



「では、参ろうか」

「え、あ、はい……ポッ」


「アーライ、後を頼む」

「ごゆっくり」



 祖父と第六使徒オズゥの様子をうかがっていた肉塊は、中年オヤジと使徒のセクロスは成り立たないと判断。


 肉塊は祖父セゾン三世の強化を開始。

 特に下半身を強化した。金の玉は新品に換えた。




 優しい孫のお節介を受けたセゾン三世は、ポアティエ王国の新たな王妃オズゥと激しく燃え上がった。



「明日の朝まで、やらないか?」


「え、あ、はい……ァン」



 イズアルナーギに年下の叔父が出来るのはもうすぐだっ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 聖国アノーラの審議団は全滅した。


 侍女にセクハラやパワハラを働いた者は肉塊によって干物ひものにされた。


 衛兵に稽古を付けてやるとイキった者は訓練場で少年衛兵に首を刎ねられた。


 オルダーナに接待を命じた勇者の一人は、使隷ペルゥに頭を撃ち抜かれた後に首を切断された。


 ポアティエ王国の王位簒奪を目論んだ勇者は、将軍達に追い回され袋叩きになった挙句、王都の中央広場で拷問の末に首を落とされた。



 翌日、新王妃をお姫様抱っこしながら玉座に腰を下ろしたセゾン三世は、勃起をきたしつつ国民に向け『余はここいくさせんす』と告げ、聖国アノーラに宣戦布告した。


 ポアティエ王国海軍の蒸気船艦隊が勇者二人の首をたずさえ、聖国アノーラに向けて出陣したのは布告から四日後。



「余の愛するオズゥ、朝食後に、やらないか?」


「え、あ、はい……ポッ」



 肉塊は祖父の肉体をもう一段階強化した。

 今度はイライラ棒の太さと長さも二割増しにした。


 サンキューイザーク。

 セゾン三世は肉塊にウインクを飛ばした。








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