第28話「いや、駄目でしょ」





 第二十八話『いや、駄目でしょ』





「思ったんだけど……」



 養母に対するシャズナブルの尊い言葉でしんみりするお庭。


 そんな中、聖母サテンがフと思った事を口に出した。


 悪気など無い、本当に軽い気持ちで思った事をいっただけ。



「イザークがお父さんなら、シャズナブル君のお母さんはイザークのお嫁さんだねっ(ニコッ)」



 爆弾だった。


 イズアルナーギを敬愛してまない女性眷属の心に『義母のお墨付き』と言う名の爆弾が投下されたっ!!


 さらにっ!!



「んゅ?……うん」



 特に何も考えていない興味無いマンが無責任に肯定っ!!

 肉塊が神域の状況を使徒・眷属に共有っ!!


 イザーク殿下とうとみ隊の侍女達から魂が抜ける。


 第二使徒・女官カーリヤは気を失った。

 第三使徒・白騎士ウルダイが辞世の句を呟く。

 第六使徒・侍女オズゥは王城の中庭で紅茶を吹いた。

 第七使徒・義賊トトナルカは対ハデヒとの戦場で爆笑。


 そして、たった今第十使徒となった闇の女王、吸血鬼オマーンは聖母サテンを三度見した。


 普通に三回見直して『このお方は頭が……』と思った。



 第一使徒・教皇モッコスは拍手を贈る。

 イザーク教徒の神域住民達も盛大な拍手を贈った。


 第四使徒・黒騎士アルトゥイが空気を読んで拍手(白目)

 第八使徒・傭兵デイラムは戦場で爆笑する同僚に引いた。


 第五使徒・王太女オルダーナが公務を中止、神域へ転移、ひざまずいた状態の弟嫁を発見、その顔を網膜に焼き付け『メス豚が』と呟き王城へ帰還。


 第九使徒・七女イルーサがテナーギと共に転移、小姑こじゅうとパワーを全開にして嫁イビリを開始、『みかんジュース買って来なさいな』とオマーンに告げ、イズアルナーギを抱きしめ三分間ほど可愛がった後、宮崎県の航空自衛隊新田原にゅうたばる基地へ帰還。


 こっそりイルーサに追従していた豊穣神パイエが絶望、主神を寝取ったアバズレに激しく嫉妬、泥棒猫オマーンにガンを飛ばしながらイルーサを追う。



 薄汚れた大人たちのドロドロ劇場を余所よそに、不可触神の御子シャズナブルが母に祝辞を贈る。



「おめでと(にぱー)」



 母性爆発必至の無垢むくなる微笑み。

 闇の女王オマーンが本日二度目の吐血。

 ついでにモッコスが栗の花のつぼみを膨らませる。


 エサの分際でこのオマーンに二度も吐血させるとは、やりおるっ!!


 ちなみに、シャズナブルと名付けたのはオマーンである。


 古い魔族語で『真紅の彗星(高級ワインの名前)』と言う意味だ。


 美味しく育つように願った母の思いは天に届いたのだろうか……


 それはさて置きっ!!


 たとえ大聖母の強制嫁入り神託が告げられたとしてもっ、二千年の時を生き抜いた闇の女王がっ、『はいかしこまりました』と外見三歳児の幼神に嫁ぐなどあってはならないっ!!


 オマーンは上級吸血鬼の矜持に掛けて大聖母に物申すっ!!



「ご無礼とは存じますが――」



 だがしかしっ、天然娘の大聖母は息子とお話を始めたっ!!



「あっ、そうだイザーク、お嫁さんと式を挙げなきゃねっ!! 式の時は小さいままじゃお嫁さんが可哀そうだから、大きくならなきゃ駄目よ? 練習してみよっか?」


「んゅ?」


「アルトゥイお兄ちゃんくらいの大きさになれるかな~?」


「むっ、かんたん(キリッ」



 それくらい出来らぁっ!!

 イズアルナーギはフンスとふんぞり返って成長開始。


 一瞬で成人男性の体になるイズアルナーギ。

 肉体の成長によって破けそうな衣服は転送済みで全裸。


 今回限りの一時的な成長だが、周囲に与えた衝撃はエゲツない。


 精神は幼児、体はオトナ、最も世に出してはいけない存在が誕生した。超絶美青年だった事が救いか。でなければ秒で立件されるだろう。



「なん、だと……っ!!」



 闇の女王オマーンは愕然とした。

 鮮血の二千年処女、即落ち三コマの恋物語。


 仕方ない、大聖母の宣誓ならば是非も無しっ!!


 両膝を突いた状態のオマーンは、サテンに向き直り深々と頭を下げる。



「料理は得意ですっ、家事全般こなせますっ、資産はそこそこ有りますっ、地上の隠し拠点は夫(ポッ)に差し上げますっ、浮気はしませんっ、不倫は大嫌いですが夫(ポッ)の不倫は妻の私が受け入れますっ、シャズナブルの養育費は頂きませんっ、趣味と生き甲斐は義母孝行ですっ!!」


「そ、そうですか、宜しくお願いします?」


「はいっ、夫(ポッ)はこのオマーン・ハーン=キュベレイが、必ず幸せにしますっ!!」


「うふふ、楽しい方ですねぇ~、あっちで一緒にお茶でもどうですか?」


「有り難くっ!!」



 サテンは右手を差し出しオマーンを立たせると、長身であるオマーンの左腕を抱き『あはは、お姉ちゃんみたい』と言いながら侍女を引き連れ東屋あずまやへ向かった。


 オマーンは頬を染めつつ超絶イケメン全裸の夫にペコリと頭を下げ、シャズナブルの頭を撫でて義母と共にその場を離れた。


 残されたカーリヤとウルダイは真顔で全裸の主君をガン見していた。


 侍女達はその神々しい裸体を必死の形相で脳内フォルダに保存していく。


 モッコスは御子シャズナブルを抱き上げ、何やら楽しそうに話をしている。全裸の青年イズアルナーギには股間が反応しなかったようだ。警察が居ないのが悔やまれる。



 大きくなっても心は幼児、イズアルナーギは昆虫採集がしたい。


 息子の教育は使徒に任せれば良いだろう、強化は肉塊が適度に行ってくれる。


 となれば……

 イズアルナーギは考える。答えはすぐに出た。


 父の威厳を示す為、『カッコいい甲虫』を息子へ贈る必要があるっ!!



「むむっ(キリッ」



 イズアルナーギは成人男性姿(全裸)のまま、エイフルニアの孤島に転移した。



「いや、駄目でしょ」



 黒騎士アルトゥイは呟いた。


 その場に居た女性陣は驚異的な速度で神域に創造された神殿へ向かった。


 神殿内に与えられた自室へ飛び込んだ彼女達は、全員がイズアルナーギの名を呼びながらなまめかしい声を上げていたと言う。


 彼女達が室内で何をしていたのか……

 それは誰にも分からないっ!!



 孤島に住む親切な女性達にイケナイ事を沢山やられて、面倒臭いと思ったイズアルナーギは幼児に戻った。


 幼児に戻ったら親切なお姉さん達にイケナイ事を沢山やられて、面倒臭いと思ったイズアルナーギは自分を『イナイイナイ空間』で覆った。










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