第21話「ミツケタ」





 第二十一話『ミツケタ』





 昼過ぎ、島民の調査を終えたテナーギは、捕まえて強化した巨大カブトムシにまたがり西の空を眺めていた。


 イズアルナーギ的にはどうでもよい事だったが、モッコスにわれて勇者ユウトを調査することになり、テナーギにその行方を追わせている。


 調査の結果、勇者は約三ヵ月前に次元坑を抜けて来たと分かった。島内に勇者の実家が在る事も確認済みだ。


 そして、勇者が両親と若い男性三名を殺害したのち『内地』へ渡った容疑者であることも知った。


 容疑者と言っても、両親以外の三名殺害は目撃者が多数存在する為、その罪はほぼ確定している。ただ裁判による判決が出ていないだけだ。


 両親の殺害方法は恐らく撲殺。他三名は刃物による斬首だった。


 首をねられた三名の共通点は数点ある。


 まず『非島民』であり、三名は全員二十歳で、職業は漁師、水産高校時代の友人宅へ二泊三日で遊びに来ていた『元ヤンキー』だった。


 殺害現場に居た島民達の記憶によれば、殺された三名に非は無い。まったく無い。釣竿を持って道を歩いていただけである。


 その三名の前に勇者が立ち塞がって言った。



『俺の嫁達をイヤラシイ目で見た……それがお前らの罪、だ』



 言い終えると同時に背負っていた大剣を一閃。三人の首を刎ねた。


 殺された三人は確かに勇者の背後を歩く四人の女性を見た。だが決してイヤラシイ目で見たわけではない。


 彼らは『うわぁ、コスプレ?』と四人の服装に驚いていただけである。厳密に言えば勇者の黒いコート姿や大剣に一番驚いていた。


 むしろ目を合わせないように、そっとしてあげようと気を配っていた。


 これがたとえ田舎ではなく都会だったとしても、大多数の日本人が目を逸らす格好だったと三人は断言しただろう。


 現場は大騒ぎになったが、殺人犯の勇者は気にする様子も見せず、『俺のくににゴミは不要、だ』と、島民のアイドル漁協のK子(21歳・独身)に流し目を送り、西の空へ飛び立った。


 K子は凄まじいキモさに脳を焼かれて死んだ。


 恐るべきは勇者の気色悪さか、人類を圧倒するその身体能力か、それは誰にも判らない……




 テナーギは島民の記憶によって得た勇者の容姿を的確に把握しつつ、西方面に領域を拡張、内地に向かってカブトムシと共に転移した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 テナーギが転移した海岸沿いの都市は破壊の跡が著しく、警察と自衛隊による厳戒態勢が敷かれていた。


 テナーギは民衆の脳内を探り、勇者の足跡を辿る。


 神域でテナーギからの勇者情報を受け取っていた使徒達から困惑と呆れの声が上がった。


 不良少年が多く通う工業高校襲撃から始まり、連日のヤンキー狩り(殺害)。無銭飲食や窃盗は当たり前、恐喝・巻き上げは日課。


 男性高身長者に対する執拗な暴行と幼女誘拐に情熱を傾け、警察の呼びかけには器物破損と銃器強奪で応え、衆人環視の中で機動隊を制圧後『やれやれ、俺は目立ちたくないんだがな』とうそぶき、そのキショい素敵オーラで四人の嫁を絶頂させる。


 勇者ユウトは控えめに言ってゲスだった。

 嫁の四人も勇者に勝るとも劣らぬクズだった。


 勇者一行の戦闘能力を分析したイズアルナーギ、何を思ったか歳の近い兄姉けいしにアイツらを贈ろうと思った。


 王城で静かに眠る肉塊もイズアルナーギの考えを推す。


 イズアルナーギは神域を駆けまわる兄姉をテナーギの周囲に強制転送。


 宙に浮くテナーギの周りを浮遊する少年少女が囲む。


 彼ら兄姉は使徒と使隷、不可触神の眷属。

 主神イズアルナーギとの意志疎通など一瞬だ。


 一番地位の高い七女、使徒イルーサがテナーギをカブトムシごと肩に乗せ、勇者一行に目を遣る。その視線からは勇者一行への興味を感じられない。



「アレがハデヒの勇者? あら、第三王女も居るじゃない。殺していいの?」



 イズアルナーギに創造して貰ったカラフルな『アニキャラゴムシューズ』を履き、金髪のツインテールを磯風にフワリと乗せ、膝丈の真っ赤なドレスの裾をヒラヒラ揺らしながら、手の平サイズの可愛い弟に問うイルーサ。


 テナーギはジッと勇者の腰を見つめる。


 そして、小さな右手の指先を手前にクイッと曲げた。


 テナーギの眼前に出現する小さな革袋。

 勇者の腰に下げてあった『亜空間袋』だ。


 テナーギはその鹵獲ろかく品を神域へ送った。


 これが運命の分かれ道。


 不可触神と女神の運命は決まった。

 決して、それがくつがえる事は無い。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 一人で砂遊びをしていたイズアルナーギの眼前に、テナーギから送られてきた革袋が浮かぶ。


 いつもの眠たそうな目でその革袋を見つめるイズアルナーギ。


 砂遊びを見守ると言う崇高で高難易度の護衛を引き受けていた侍女達に緊張が走った。


 そんなっ、ドちゃくそ可愛いイザーク殿下の砂遊びが終わってしまうのかっ!!


 侍女達は苦悶の表情を浮かべた。あの革袋を制作したアホを殺したい。


 イズアルナーギが砂まみれの左手で革袋をガシリと掴む。


 ああ、そんな見窄みすぼらしい革袋をお触りあそばすなんてっ!!


 砂遊び見守り隊は声にならぬ悲痛な叫びを上げた。

 本気で革袋製作者の抹殺を考えねばなるまい。


 革袋を掴んだイズアルナーギは、袋の口を縛ってあった革紐かわひもを念力でほどき、開いた袋の口に右手を突っ込んだ。無論、右手も砂まみれだ。利き手なので左手より汚れている。


 小さな革袋に右手を、いや、右腕を肩まで突っ込んだイズアルナーギは、しばらくボーっとしていた様子だったったが、ゆっくりと右腕を引き抜き始めた。


 固唾を飲んで見守る侍女達。

 孤児達も『なにやってんのー』と集まって来た。


 革袋からイズアルナーギの右ひじが見えてきた。


 あと一呼吸で革袋から右腕が抜ける。


 そして――



「痛っ、ちょ、痛い痛い、放してっ!!」



 イズアルナーギの右手には美しい金髪がモッサリにぎられていた。







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