第19話「アタイは見たのさ、小さな神様を、ね」
第十九話『アタイは見たのさ、小さな神様を、ね』
「あ、はい。陛下、オルダーナ王太女殿下が処刑を終えたと連絡が」
「然様か。しかし、凄まじいな銃声と言うものは。広場から城まで音が届くとは思わなんだ」
王城の中庭で異世界の紅茶を楽しんでいたセゾン三世に、無粋な報告を上げるオズゥ。彼女の胸には相変わらず睡眠状態の
宰相アーライはオズゥの報告を聞きながらテーブルの上に置かれた武器を見つめ、
「聖国も勇者知識由来の銃を開発していると聞いておりますが、コレを大量に所持しているのでしょうか?」
「いや、聖国の銃は杖に似た魔道具の一種と聞いたぞ? 量産は分からんな」
「海を挟んだ遠い国の事ですからなぁ、情報が欲しいところです。して、オズゥよ、コレの扱い方を教えてくれんか」
「畏まりました。コレの正式名称は『イザークン44マグアム』回転弾倉式拳銃です。現在は試作型としてシングルアクションを採用しておりますが――」
異世界で情報収集に励む『テナーギ』によってもたらされた
イザークン44マグナムも異世界から得た知識と資源によって開発された物の一つである。
最初の一丁はイズアルナーギが一瞬で創造した。その一丁をモッコスが分解、他の使徒と使隷がパーツの複製を作り、神兵が組み立てる。
複製と組み立てを複数回繰り返して二百丁が完成した。
イズアルナーギが一人で創造した方が圧倒的に早く出来上がる。しかし、イズアルナーギの『神気』減少を少しでも抑える為、そして民が技術等を獲得する為にモッコスが分業制を勧めた。
イズアルナーギはそれを了承したが、神気減少については気にしていなかった。
現在のイズアルナーギは信者の絶大な信仰心と『肉塊・イズアルナーギ・テナーギ』の三方から得る生体燃料により、モッコスの想像を遥かに超える膨大な神気を有している。
イズアルナーギが創造した44マグナムは第三使徒『白騎士ウルダイ』と第四使徒『黒騎士アルトゥイ』を
それを聞いたイズアルナーギは“先日”入手した『亜空間袋』と呼ばれる収納魔導具と異世界の『ゲーム』をヒントにして、弾倉の薬室を神域の武器庫に繋げ、そこから
そして出来上がったのが『二度振りリロード』と言う名の再装填方式。
王都広場での処刑で使隷ペルゥが披露した『拳銃を上下に二度振る』行為がそれにあたり、一度目の振りで
オズゥが王と宰相に44マグナムの説明をしている今も、神域では様々な研究や開発が進められていた。
説明を聞き終えたセゾン三世とアーライは、オズゥの説明に質問を挟みながら新たなる兵器に深い興味を示し、やや興奮気味に話を聞き終えた。歳をとっても二人は男の子なのだ。
「……なるほど、二度振りリロードか、フッ、難しい用語ばかりで覚えるのが難儀だな。あとでイザークに知識を詰め込んでもらおうぞアーライ」
「然様で御座いますな、より正確な知識を得る為にもイザーク殿下に御助力賜りましょう。ところでオズゥ、シングルアクションとは古い型という事だが、何故新しい物を作らんのだ?」
「教皇猊下が仰りますに、イザーク様以外は『ある程度の基礎を学ぶ必要がある』と。神域や下界で工場生産を行う際にイザーク様の御手を
「ほほぅ、モッコス殿は先を見ておるな。もう一つ質問だが――」
「これアーライ、次は余の番だ。さてオズゥ、良いか?」
「フフフ、はい、何で御座いましょう?」
この日、オズゥは日が沈むまで王と宰相の質問に答え続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
神域と下界を自由に行き来できるのは使徒の特権である。使徒の従者たる使隷はイズアルナーギか使徒の許しを得ねば単独で行き来できない。
しかし、使隷には往来を上申する権利が与えられている。
使隷があらかじめ往来の許可を得ていれば、神兵等を連れての行き来も可能となる。使徒はそれを考慮して使隷に指示を与える。
使徒と使隷に数の上限は無い。幾ら増やそうがデメリットも無いが、これは
イズアルナーギは気に入った人物が居れば使徒にするが、使徒の面々はそれぞれの考えで使隷を増やす。無論、イズアルナーギによる人物査定を終えずに使隷と成れるわけではない。
現在、一番多くの使隷を持つのは銀髪黄眼の美女、第七使徒『トトナルカ』だ。
彼女は義賊としてポアティエ王国を荒し回ったが、彼女が狙う獲物は奴隷商の『財産』に限定されていた。
トトナルカが奴隷商から奪った財産には、何の罪も無く奴隷となった少数民族や孤児が多く含まれる。むしろ彼らを狙ってトトナルカは行動していた。
ポアティエ王国に於ける奴隷商の存在意義をトトナルカは理解している、しかし、罪の無い少数民族や子供達を奴隷にする商人に意義を求める道理は無い。
彼女は移動中の奴隷商を主に狙った。
護衛の傭兵は即殺、奴隷商は半殺しにして脅し、隷属魔術で縛られた奴隷達の術を解き、彼らを引き連れ山奥の拠点に雲隠れする。
トトナルカが義賊活動を続けること四年、解放した奴隷や拾った孤児は三百を超え、山奥の拠点は彼らの隠れ里と化していた。
そんなある日、いつものように馬車で移動中の奴隷商を彼女が襲撃した際、護衛の一人『傭兵デイラム』に敗北し、遂にお縄となった。
義賊トトナルカを捕縛した奴隷商一行が向かった先は、商業都市トーラン。ポアティエ王国西部最大の奴隷市場が在る都市だった。
トトナルカは犯罪奴隷として衛兵に引き渡され、その日のうちに競売に掛けられた。
彼女は銀髪黄眼であるが肌は小麦色。彼女もまた少数民族だった。しかし、見目は麗しく『用途』に幅がある。
奴隷市の客は彼女に高値を付けていった。
死ね、全員死ね、トトナルカは
神など居ない。
トトナルカの心が必死に掴んでいた『何かへの信仰心』が、弱まった心の手からスルリと抜け落ちた。
自分に高額の値段を付けていく豚共を冷めた目で見つめていたトトナルカ。
早く終われ、くだらない。
今生に失望するトトナルカ、しかし、そんな彼女が一瞬にして驚愕の表情を浮かべる。
その白い世界で、幼い神が自分を見つめていた。
ボクが、かみさまだよ。
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