第14話「あっそ(鼻ホジ)」
第十四話『あっそ(鼻ホジ)』
「しかし、親子二代で間男にやられるとは、呪われておるな。そう思わんかアーライ」
「いやぁ、それはちと返答に困りますな……」
セゾン三世のブラックジョークに苦笑する他ないアーライ。
オズゥは笑っていいのか分からないので真面目な顔で誤魔化す。
オルダーナは気にせず肉塊を撫で回していた。可愛くてしょうがないようだ。
セゾン三世が肩をすくめて
アーライもそれに続き、オズゥも姿勢を正した。
「さて、王族詐称問題は片付いた。余はイザークを城に迎えたいが、そうはいかんのだな?」
「はい、ですが、そもそも、こちらの
「ほぅ、赤ん坊のイザークは王城に居てくれるか……まぁそれも我々の態度次第であろうが、神域のイザークとも会えるのならば問題無いな。それで、領地を欲すると聞いたが、我が国は半島の南端、国土は狭い。領地を与えるにしても限りがあるぞ?」
「ご安心を、イザーク様と教皇猊下が望んだ地は……ハーゼイ島で御座います」
「なっ!!!!」
「監獄島をっ!?」
王と宰相は意外過ぎて驚きの声を上げた。
ハーゼイ島、かつてポアティエ王国の漁民が百名ほど住んでいた小さな島。ポアティエ王国とハデヒ王国との国境線を西に真っ直ぐ伸ばすと、ちょうど島を半分に分ける形となる。
現在では隣国ハデヒに不当占拠されており、近海では問題も多く、国境の海岸も紛争地帯となっていた。
島の所有に正当性が有るのはポアティエ王国。
それは二百余年前に時の覇王が認め、島の領有を認める認可状もポアティエ王家が保有している。
しかし、覇王が治める超大国崩壊から百年、ポアティエ王国の衰退とハデヒ王国の台頭によって、認可状の効力は失われた。
その危険な島が欲しいと言われて、セゾン三世も宰相アーライも困惑気味だ。
確かに、イズアルナーギならば島もその付近一帯も支配可能だろう。半島の北を塞ぐ憎きハデヒ王国側の軍も一掃してくれるはずだ。
しかし、何故わざわざ小さな島を欲するのか理解出来ない。
理解出来ないものは聞くに限る。
王に代わってアーライが問うた。
「オズゥ、理由を聞いてもよいか?」
「はいっ、そのために参上致しましたので!!」
快活に答えるオズゥが、イズアルナーギの未来を想うモッコスの考えと戦略を語り始めた。
先ず、現在のハーゼイ島にはハデヒ王国が極悪人を収容する為の監獄が在る。
故に監獄島と呼ばれているのだが、その監獄に収容されている罪人の数は約二千。大きな村や小さな町の人口に匹敵する。
そして、その島に駐屯している兵士と看守の数は合わせて約三百。
島に住む約九割の人間が罪人だ。
一般人は居らず、陸と離れた孤島、イズアルナーギが
イズアルナーギが島を奪還したのち、ポアティエ王国は防備を固め、イズアルナーギが送る神兵等を使ってインフラ整備や生産力を上げ、イズアルナーギは『使徒』を率いてハデヒ王国を
ポアティエ王国の富国強兵が成った際、これを神聖ポアティエ王国とし、国教は特に定めず信教の自由を許し、王都の端にひっそりとイザーク教の教会を置く。なお、その教会が一般的な大きさだとは言っていない。
半島統一後はイズアルナーギが大陸内部へ侵攻、侵攻によって奪った領地はイズアルナーギの領地とし、イズアルナーギは帝位に就いて帝国を築く。
ポアティエ王国は属国となるが、領土は拡大させ主権も安堵、イズアルナーギの姉オルダーナが治める国として最優先保護国とする。
もしくは、ハーゼイ島で独立したポアティエ王国の一勢力として、ハデヒ王国と敵対してもよい。そうなった際もポアティエ王国との関係は変わらない。
すべては予定、実行は未定、しかし、
オドゥは一気に話し終えると、紅茶でのどを潤した。
「以上となります。ふぅ……」
セゾン三世は黙考しながら獰猛な笑みを浮かべる。
宰相アーライは興奮で貧乏ゆすりが止まらない。
文官は予算を考え始め、武官は神の軍勢に加わる自分を夢想した。
オルダーナは微笑みを浮かべ弟を撫でる。
セゾン三世は肉塊に殺された長男、廃太子セバンの事をほんの少し褒めたくなった。
「クックック、アーライよ、セバンに感謝せねばならんな」
「如何にも。セバン殿下は最後の最後で英雄となられた。我が国百年の辛苦を
「よし、イザークにハーゼイ島領主を任せる。アーライ」
「はっ。準備はお任せを。軍も国境に移動させておきます」
テキパキと準備を進める二人のオッサン。
ウキウキ顔のオッサンズに笑みを向けるオズゥが申し訳なさげに挙手。
セゾン三世が右眉を上げて発言を促した。
「陛下、畏れながら、たった今イザーク様が商業都市トーランの救済を終えたようです。領主一族はコネコネ遊ばした
「ハッハッハ、重畳重畳。トーラン領主は母上の実弟、クソ叔父だ、古い家柄だけが取り柄のクズだった。そうかそうか、コネコネに処されたか、ブフフッ、スッキリしたなぁ、のぅアーライ!!」
「アッハッハ、無駄に権威だけ高くて排除出来ませんでしたからなっ、あのクソジジィっ!!」
「となれば。消えた領主の代わりを送らねばならんなぁ。いやぁ困った困った。ウェ~ハッハッハッハ~」
「いやぁ、しっかし、イザーク殿下は生後半年に満たぬ御歳で『街道の安全』に目を向け、その安全を確保なさるとは……ンッ……ふぅ、次はこのアーライを御供にして頂きたいものです」
「アーライお前今……」
「何か? あ、私ちょっと
オズゥは虚空を見つめながら思う、この国に居る『王佐の才』を持つ人間は、幼神に対する耐性が無さすぎるのかもしれない。
不快な残り香で鼻孔を焼かれながら、神域でモッコモコしている教皇を脳裏に浮かべつつ、オズゥは白目を剥いた。
翌日、セゾン三世は王太孫イズアルナーギのハーゼイ島領主就任を布告。
さらに、王都を囲む城壁の増設と、イザーク教の『大神殿』建設が公布され、多くの人足も王家の名で募集された。
教会を置くと言ったな、あれは嘘だっ!! モッコスはそんな事言っていないが、この公共事業には『神兵団』から工兵も派遣される。一般的な教会を建てる意志が最初から感じられない。
女神『パイエ』を
しかし、その翌日、モブミンは収集した貴金属等を自室に残したまま失踪。その行方を知る者は居ない。
この事件について、数十日後、聖国アノーラが調査官を派遣する
セゾン三世は鼻ホジ状態で『ご自由に』と書簡を捨てた。
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